9ウホ目:ゴリラは注射が怖い
ゴリラは、注射が怖い。
だって痛いし、とんがってるから見た感じも、なんだかイヤだから。
あとなんか、銀のトレイに乗ってくるし。あの銀のトレイごと怖い。
あのトレイが運ばれてくると「あ、今日はこれをやる日なんですね」となるではないか。
なるべくなら、そうならないでほしい。
できればそのまま、何事もなかったかのように帰ってほしい。
やんなきゃダメなの? あ、そう。
あの入れ物がかわいいレース模様の透明な箱だったことがあり、その時のゴリラはいつもより、少しだけ穏やかであった。
かわいいは偉大である。
注射器も、かわいい箱に入っていれば許せる。多少は。
でも、刺される瞬間がわからないと余計怖いことに気がついてからは、針が刺さるところは見るようにしている。
睨みつけるような目をしていても許して欲しい。
採血などゴリラにとっては、
「おい、よくもゴリラからこんなに血を抜いてくれたな。ふざけやがって。何の権利があってゴリラから血を抜いてんだ。しかもこんな太い針刺しやがったな。よくも……」
くらいの感じである。怒りを感じる。
今日は3本です、などと言われると、何のつもりだと思う。
一体どういう会議を経て、その結論に至ったのだ。
ゴリラの血液がそんなに必要なのか。
ゴリラがそんなに、血を持っているように見えるのか。
ゴリラは案外貧血気味だというのに、3本て。
検査のためだよ。ゴリラ。看護師さんだって仕方なくやってんだよ。
そういやゴリラは、肺炎の疑いがあり、検査のために採血をしたこともあった。
その時のゴリラは高熱で頭がパヤッパヤになっていたため、採血担当の方に
「すっごい上手でした! ぜんぜん痛くなかったです! 私採血苦手で……」
などと言いながら、採血された痕を勢いのままに揉んでしまいそうになり、
「揉んじゃダメ!」
と叱られたのだった。
ゴリラとしては、せっかく上手に採血してもらったので、ありがとうの気持ちを込めて、ウキウキで採血痕を揉もうとしてしまったのだが。
そりゃまあ叱られるに決まっている。
ちなみにしっかり肺炎だったので、採血してもらってよかった。
結局のところ、注射も採血も、必要だからやってもらわなければならない。
ゴリラにだって、それくらいはわかっている。
わかっているのだが。
やっぱりゴリラに注射を打つなら、かわいいトレイに入れて注射器を運んできてほしい。
ついでに、できれば「今から刺しますよ」となどと言わずに、雑談でもしながら、ものすごく自然な流れで終わらせてほしい。
そして最後に「上手でしたね、偉かったですね」と褒めて、飴のひとつでも渡してほしい。
ゴリラは注射が怖い。
だから、できるだけ優しくしてほしいのだ。




