5ウホ目:子ゴリラとおじいちゃん
子ゴリラだったとき、私をお姫様のように扱ってくれた人がいた。
母方の祖父である。
「ゴリラさん。お散歩に行きましょう」
「お花を見に行きましょう」
「林檎狩りに行きましょう」
などと誘ってくれて、いろんなところへ連れて行ってくれた。
祖父はいつも丁寧で、優しかった。
母や叔母の話を聞くと、自分の子供たちには案外そうではなかったようだが、孫には甘かったのだろう。
ただ、おでかけしたときにスピードを出し過ぎて、おまわりさんに叱られたときは心底たまげたが。
ゴリラの王子様は、運転がめちゃくちゃ荒かったのだ。
王子様の馬車は、とんでもない速度で森を駆け抜けた。
ゴリラが人生でパトカーに乗ったのは、今のところ、後にも先にも。
困った顔のおまわりさんに「ちょっとここで待っててね~」と乗せられた、あのときだけである。
ゴリラは、「パトカーのなかってこうなってるのかぁ」と思いながら、大人しく座っていた。
興味深かったのできょろきょろはしていたが、妙に冷静だった。
そんな破天荒な王子様だった祖父は、ある時癌を患った。
最後まで、病室で私のお遊戯会の映像を見てくれていて。
そうして、亡くなった。
祖父のお葬式で、ゴリラはものすごく泣いた。
あまり覚えていないが、叔父にファンタグレープを手渡された子ゴリラは、なんとか泣き止んで、塗り絵をしていたらしい。
思えばあのお遊戯は、お花のお姫様になって踊るダンスであった。
「王子様にも逢えるでしょう」だかなんだか、そんな歌詞に合わせて踊ったような記憶が蘇る。
そういえば、そうだった。
あの頃の私には、本当に王子様がいたのだった。




