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ゴリラの皮を被って  作者: 彩羽やよい


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18/20

18ウホ目:ゴリラとメジャーとマスキングテープ

 ゴリラは、創作したものやキャラクターのサイズ感が、妙に気になるタイプだ。

 それゆえゴリラは時折、メジャーとマスキングテープ、それから脚立を持ち出しては、家の壁や床にぺたぺたと何らかの痕を残すことがある。


「なるほど、このキャラは立ち上がると、下手するとドアを通るときに頭を打ちそうだな」

 とか、

「ごろんと横になると、ここからここまであるのか」

 とか、考えているのである。


 すると、家の壁に不思議と登場人物が浮かび上がってくる気がする。

 ここからここまでが肩、このへんが頭。

 ここに手が届いて、腰はこのあたり。

 そしたら、ここから先が脚だね。わーお、ながーい。


 ただの壁である。

 ただの床である。

 しかしゴリラの脳内では、そこに確かにキャラクターが立っている。


 例えば設定資料に『身長197cm』と書いてあるだけでは、いまひとつ実感が湧かない。

 だが、実際に床から197cmのところにテープを貼ってみると突然、

「でっっっか」

 と思えるのだ。

 でっかいのはわかっている。

 わかっているが、更に実感が沸く。


 数字というものは不思議だ。

 数字を見ているだけでは「まあ大きい男だな」くらいなのに、壁に印をつけると急に「こんなところに頭があるのか」となる。


 人間は、頭だけで立っているわけではない。

 その下には首があって肩があって、胴体が繋がり、腰やら脚やらももちろんある。

 それを全部ひっくるめて197cmなのだなぁとか思える。

 そしてそこに獣の耳などつけたら2mを超えると思うと、くぅ。と唸り声すら漏れてくる。


 そして、ゴリラはもちろんそこから横幅を考え始める。

 メジャーを伸ばす。ぴん、と伸ばす。

「うわ、ここからここまで肩なの?」

 と大喜びする。広い肩幅最高。

 もう完全に家の壁を使った人体測定である。


 しかも困ったことに、一度これをやると楽しくなってしまう。

 別のキャラクターも測りたくなる。

「この子は何cmだっけな」

 とメジャーを持つ。

「じゃあこの子は?」

 また測る。

「二人並べたらどうなる?」

 さらに測る。


 気がつけば壁に、謎のマスキングテープが増えている。

 家の中に、存在しない人間の身長測定跡だけが残っていく。

 テープには『ル(頭頂部)』『ル(耳含)』『ベ(角含)』とか書いてある。

 もはや何かの呪文である。


 もちろん誰も、その場にはいない。

 文章や絵のデータ上や紙の上、ゴリラの頭の中にしか存在しない。

 なのに、壁に印をつけた瞬間、妙に現実味が出る。

「ここに立ってたら、私、これくらいしか届かないんだな」

 などと考え始める。


 何をしているんだ、とゴリラもたまには冷静になるときもある。

 私は今、存在しない男の肩の高さや肩幅を測り、家の壁にテープを貼っている。

 しかもわざわざ脚立まで使って。


 第三者が見たら、何をしているのかさっぱりわからないだろう。

 それでもゴリラには必要なのである。

 キャラクターのサイズ感というものは、数字だけでは足りない。


 実際に家の中へ召喚してみて初めて、

「ああ、こいつはこのくらいでかいのか」

 と理解できるのだ。


 だから今日もゴリラは、メジャーを伸ばす。

 マスキングテープを貼る。

 必要なら脚立にも乗る。

 壁にはまた、謎の印が増えていく。

 家の中に、いないはずの人物の痕跡だけが残されていく。

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