18ウホ目:ゴリラとメジャーとマスキングテープ
ゴリラは、創作したものやキャラクターのサイズ感が、妙に気になるタイプだ。
それゆえゴリラは時折、メジャーとマスキングテープ、それから脚立を持ち出しては、家の壁や床にぺたぺたと何らかの痕を残すことがある。
「なるほど、このキャラは立ち上がると、下手するとドアを通るときに頭を打ちそうだな」
とか、
「ごろんと横になると、ここからここまであるのか」
とか、考えているのである。
すると、家の壁に不思議と登場人物が浮かび上がってくる気がする。
ここからここまでが肩、このへんが頭。
ここに手が届いて、腰はこのあたり。
そしたら、ここから先が脚だね。わーお、ながーい。
ただの壁である。
ただの床である。
しかしゴリラの脳内では、そこに確かにキャラクターが立っている。
例えば設定資料に『身長197cm』と書いてあるだけでは、いまひとつ実感が湧かない。
だが、実際に床から197cmのところにテープを貼ってみると突然、
「でっっっか」
と思えるのだ。
でっかいのはわかっている。
わかっているが、更に実感が沸く。
数字というものは不思議だ。
数字を見ているだけでは「まあ大きい男だな」くらいなのに、壁に印をつけると急に「こんなところに頭があるのか」となる。
人間は、頭だけで立っているわけではない。
その下には首があって肩があって、胴体が繋がり、腰やら脚やらももちろんある。
それを全部ひっくるめて197cmなのだなぁとか思える。
そしてそこに獣の耳などつけたら2mを超えると思うと、くぅ。と唸り声すら漏れてくる。
そして、ゴリラはもちろんそこから横幅を考え始める。
メジャーを伸ばす。ぴん、と伸ばす。
「うわ、ここからここまで肩なの?」
と大喜びする。広い肩幅最高。
もう完全に家の壁を使った人体測定である。
しかも困ったことに、一度これをやると楽しくなってしまう。
別のキャラクターも測りたくなる。
「この子は何cmだっけな」
とメジャーを持つ。
「じゃあこの子は?」
また測る。
「二人並べたらどうなる?」
さらに測る。
気がつけば壁に、謎のマスキングテープが増えている。
家の中に、存在しない人間の身長測定跡だけが残っていく。
テープには『ル(頭頂部)』『ル(耳含)』『ベ(角含)』とか書いてある。
もはや何かの呪文である。
もちろん誰も、その場にはいない。
文章や絵のデータ上や紙の上、ゴリラの頭の中にしか存在しない。
なのに、壁に印をつけた瞬間、妙に現実味が出る。
「ここに立ってたら、私、これくらいしか届かないんだな」
などと考え始める。
何をしているんだ、とゴリラもたまには冷静になるときもある。
私は今、存在しない男の肩の高さや肩幅を測り、家の壁にテープを貼っている。
しかもわざわざ脚立まで使って。
第三者が見たら、何をしているのかさっぱりわからないだろう。
それでもゴリラには必要なのである。
キャラクターのサイズ感というものは、数字だけでは足りない。
実際に家の中へ召喚してみて初めて、
「ああ、こいつはこのくらいでかいのか」
と理解できるのだ。
だから今日もゴリラは、メジャーを伸ばす。
マスキングテープを貼る。
必要なら脚立にも乗る。
壁にはまた、謎の印が増えていく。
家の中に、いないはずの人物の痕跡だけが残されていく。




