冷たい公爵
「あぁ、ちょうどアメリー嬢に会えた。少しの時間よろしいか?」
口調は柔和だが、有無を言わさぬ迫力があった。実際に長身の男性が正面に立つと、はっきり言って怖い。
「パーティーの終わり際、会場を抜け出す君とテレジアを見かけて気になってね……」
命令を受ける兵士のように、姿勢を正して耳を傾ける。
「それはそれは、応接室を用意いたします、どうぞこちらへ……」
「茶はいらぬ、用件を済ませたらすぐに帰ろう。部屋では君とだけ話したい」
先ほどまでの夢気分はどこへやら、兎にも角にもライオネル公爵を応接室へ招き入れた。
向かい合ったソファーに二人で座る。部屋のドアは開け放たれたままだが、会話は内密にしてほしいとのこと。一体、何事だ。
「改めまして、アメリー・イザベル・ド・モンフォールと申します。以後お見知りおきを……」
「知っている。先ぶれもなしに申し訳ない。ライオネル・アンリ・ルイ・ド・ボーモンだ」
公爵閣下の言葉は耳を切り裂くような鋭さだった。ぴしゃりと言われた私は膝の上の手をきゅっと握る。怖いよ、この人。
「早速だが、君がテレジアの味方となりえるか確認しに来た。モンフォール商会の為に、不当にテレジアと付き合うつもりではないね?」
「も、もちろんでございます。公爵閣下」
さっきは商人強かな構想を練っていたが、少なくとも今日の会話では押し売りをしていない。
「次に、テレジアに手を引かれた理由だ。君の何がテレジアの気を引いた」
「そ、れは」
言っていいものだろうか。空気が重い、呼吸が浅くなってきた。
「私にも言えないことか」
これ以上は黙ってられない。公爵閣下の圧が高まって、まるで叱られている子供のように思えた。助けて。
「……時が来れば、王女様からライオネル公爵様へ直接伝えるとのことです」
少しだけ嘘をついてしまった。眼光が鋭すぎる。小さな女の子なら泣くぞ、手加減してください。
「嘘が見えた。誠実に答えよ」
公爵閣下の青い目が輝きを増して私を覗き込んだ。嘘が見えたとはどういうこと? そんな魔法なんてあっただろうか。
「しかしながら、王女の意志であると言うことは間違いなさそうだ。許す」
胸の内を全て見透かされていそうな感覚が体温を下げるようだった。なるほど、これが氷の貴公子。その由来をこの身で感じたくなかったなぁ。
「最後だ、君はテレジアの良き友となれるかい」
「はい、その点は間違いなく。私とテレジアは互いに良い友人となれるでしょう」
ここでやっと、ライオネル公爵閣下の目を真っすぐ見ることができた。公爵閣下、婚約者とは言え、他人の交友関係にまで口を出そうとするのはいかがなものかと。でも言えない、怖いもん。
「ふむ……」
しばしの静寂が空間を押しつぶすようだった。閣下は何事かを考えこみながら、じっと、じっと私を見つめている。対して私は手でドレスを掴み、じっとりと冷汗を感じている。何か、何か選択肢を間違っただろうか。神様、どうにか穏便に部屋に帰らせてくださいお願い申し上げます。
「……よろしい。凄んで申し訳なかったね、アメリー嬢。テレジアのこととなると周りが見えなくなってね、悪い癖だ」
一先ず、尋問は乗り切ったらしい。バッドエンド選択肢を回避した気分だ。
打って変わって、優しい声色の公爵閣下は会話を続ける。
「ところで、言える範囲でどんな話をしてたかは、教えてもらえるかな」
ようやっと握りしめていた手を開き、息を付けた。こちらも口調を少し砕く。
「武闘会の話をしました。テレジア王女様はお強いですから」
「あぁなるほど……彼女だったら優勝してしまうかもしれないねぇ」
「えぇ、王女様は魔力も高く、かなりお強いらしく」
「……テレジアに魔力が……。なるほど、いい情報だ、ありがとうアメリー嬢」
何やら驚かれていたようだが、感謝されて、やっと生きた心地が湧いてきた。
「いやぁ全く困ったなぁ、強い夫になるのがこんなに大変なんてね、はは」
軽いジョークらしいが、どうも公爵閣下も参戦されるらしい。
一体どれほどの強さなのだろうかは分からないが、並みの兵士よりは格上なのは間違いないだろう。さっきまで睨まれてたから分かるぞ。
「あ、最後にテレジアへの手土産を買っていこうかな? できれば王都の流行を教えてもらえると助かる」
我がモンフォール商会にも気遣う姿勢は、すっかり余裕のある美男子だった。
しかしながら、私には『商品も買うんだから、今日の訪問はただの買い物だと思え』と言うメッセージに思えてならない。
商人と女の勘だ。ええ、ええ、ご案内させていただきますとも。はぁ。




