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8/17

アメリーは商人

 「私以外に転生者がいるなんて、今日は驚きだわ」


 自室に戻ったアメリーは一人呟く。とりあえず普段着に着替えてから、コーヒーを挽き挽き。

 この世界にも嗜好品があることに感謝をしつつ、ぐるぐるレバーを回す。


 テレジアからの情報収集では、何の世界に転生したかはわからなかったし、考えることが増えてしまった。


 「私一人でこの世界を攻略しないで済むのは助かるんだけどね……」


 ぐるぐる。途中で固い豆に突っかかる。ガコッ。


 「テレジアは絶対に戦闘要員よ、あのステータスは異常だわ」


 しかもテレジアは王女。どんな作品でもメインキャラの一角だろう。対して、私はお父様の商家を頼るただのモブキャラかもしれない、少々不服だが。そもそも主人公ってなんだ。私は私の意志で生きているのに。


 魔道具でお湯を沸かす。その間に、目分量ながらスプーンで少しずつコーヒー粉をセット。挽きたての香りが空間に落ち着いた香りをもたらした。取り敢えず、そもそも私は考えることが苦手だ。シンプルに生きる、行動第一、それがモットー。

 

 「あいつ、考え事をしていると本当に美人なのよね、腹立つわ~、絶対にメインキャラだわ~」

 

 コーヒー粉に少しずつお湯を回しいれる。最初に粉を蒸らす、そして円を描くように数回に分けて入れるのがポイントだ。

 

 「行動方針は変わらないわ、思うように生きながら平和に過ごす、これしかないわ」


 というか、それ以上の人生の目的があるだろうか。いや、でも乙女ゲームだったら素敵な旦那様が欲しい。これも偽りない本心。


 「ああ、コーヒー美味しい」


 さて行動行動。今日のデビュタントまとめを日記に書き始める。どこで誰と会っていたかを記憶するのは商人の基本だ。これはきっと万国共通。そして、書くことで記憶に定着させる、これは前世通じての私の癖。


「それにしても男爵令嬢の身分を咎められることはなかったわね~」


 今日は所謂、悪役令嬢の登場があるかと思ったのだ。あるいは突然の婚約破棄を告げる厄介カップルの登場など。ありがちなイベントが起きれば何のゲームか分かりやすいし、乙女ゲームだったとしたら、会場で未来の旦那様と出会ったりできたかもしれない。ドキドキしながら会場を回っていたら、まぁ皆が皆、品行方正なこと。そして、素敵な殿方には素敵なお嬢様がセットであること。くそう、乙女ゲームじゃなくても、私にパートナーが欲しいぞ。


 あぁ私にもライオネル公爵のような婚約者が欲しいわ。今日のデビュタントでは挨拶しかできなかった。流石、氷の貴公子。テレジアしかみてないんだもん、もう。少しは周りの令嬢にもファンサービスしなさいな。あぁテレジアが羨ましい。

 

 ぴんと閃いた、テレジア王女とライオネル公爵にモンフォール商会のカップル商品を売りつけてやろう。王女様への献上品を扱えば、テレジアとも会える機会が増えるし、一石二鳥。

 東国の品が良いだろう、あそこの文化は日本に近い。緑茶、白米、味噌、などの食料品が良いだろうか。それとも思い切って刀を二振り用意してみようか。あぁ刀を用意するなら和服も用意させよう。簪なんてどうだ、パーティー会場でテレジアを宣伝塔にして荒稼ぎするのだ。

 あら、あなたもテレジア王女と同じ品を、どうぞどうぞモンフォール商会へ。

 え、テレジア様へのプレゼントで和の物を、どうぞどうぞモンフォール商会へ。

 そんな、ライオネル公爵の刀を貴方も、どうぞどうぞ我がモンフォール商会へ。


 「やだ、夢が広がってしょうがないじゃない!」


 早速、お父様へ相談しに行かなきゃ。アメリーは商機を掴みました、私はテレジアと一緒に逞しく生きます。

 駆け出さんばかりの勢いで廊下に出ると、ちょうど訪問者を告げるベルが鳴った。

 

 「誰だろう、今日の来客はないはずなのに……」

 

 心なしか険しい顔の、ライオネル公爵閣下がデビュタント衣装のまま来店されていた。

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