分かってきた異世界
さて、ここからは勉強の時間だ。
私の名前はテレジア・マリー・シャルロット・ド・ヴァロワ。
ヴァロワ王国で唯一の王女、姉妹はまだいない。何処かから出てくるかもしれない。
冗談はさておき。
大陸の名前はエストレア、王都の名前はサン=クレール、今いる場所はリュミエール宮殿の離宮。
おや、レオはたまたま立ち寄ったということだが、わざわざ私に会おうと足を延ばしていたのか。
宮殿の地図を見ながら、ついつい微笑んでしまう。可愛らしいこと。
勉強の合間に剣を振るった。王女には似つかわしくない大振りの剣だ。
どうも特注の金属から打ち上げた剣らしく、所有者を自ら決める剣らしい。名は『エトワール』というらしい。
持主に併せて成長していく剣という摩訶不思議な剣とのこと。ふむ、私は脳筋だったらしい。
幸い、今の私の手にも馴染む。この世界で、また一つ私がテレジアであると確認できた。
現状を確認する度に、体と心が馴染んでいくようだった。ダンスの踊り方、お茶の作法、全ての動作でぎこちなさが消えていく。
この世界の常識や貨幣価値も頭に叩き込んだ。これで買い物もばっちりだ。まぁ流石に宮廷を一人で出て行かないが。
ふと疑問に思う。よくある護衛騎士とか言うものは私にいないのか?
マリア曰く、王女様は王宮にて最強。なるほどね……。
「ところでマリア?」
「どうかいたしましたか、王女様」
「私、お友達が欲しいんだけど」
「これから嫌と言うほど知人友人が増えていきますよ」
「マリアは友達になってくれないの?」
「これはこれは、光栄ですわ、テレジア嬢」
うむ、マリアとの関係も順調である。いつかマリアお姉さまと呼んでやろう。
二人でお揃いのドレスを着て、姉妹のようにティータイムをうふふしながら楽しむのだ。
きっとマリアは冷静にあらあらと言いながらも付き合ってくれるはずだ。
さて、ここで思うことに、この世界は日本の創作物に似通った世界だ。食事は美味しい、衛生観念も現代並み。そこここに魔力が込められた生活用品が備わっている。
朝から暖かいお湯で顔を洗うことができるなんて。生活全般に何のストレスも感じない。これが王宮暮らしかと思ったが、毎日トイレの不衛生さに悩むヒロインなど、ゲームやアニメでいようはずもない。私の中で、この世界が作られた世界だという確信が深まっていく。
そうして、あっという間に一週間が過ぎた。
どうも前テレジアは、この長期休暇を取るために相当頑張ったらしい。
来客もなく、勉強と運動を繰り返せたのはとても大きい。
今日はついに魔法を確認する日だ。最近、心の中で「試せ、試せ、お願いよ」と聞こえてきていた。
本日、前テレジアの悲願は達成される。コーチはマリアだ。
「まずは『ステータス』と唱えてください。魔力のある者は、それで自分や相手の状態を確認できます」
素直に唱えると、私の能力値がずらっと掲載されたスクリーンが現れた。
件のレベル78を筆頭に高水準と思われる値が次々と目に入る。王女様強すぎ。
「ねぇ、マリア、能力値の限界って4桁?」
「人類で確認されているのは3桁までです」
なるほど私の魔力は999、その値に密かに震える。それと何故か運の値が???だった。
神すら私の運命を測りかねていると考えておこう。
さぁ次は実践だが、何の魔法を唱えよう。非常に嫌な予感がしている。
「マリア、私の魔力は999よ。何の魔法を唱えるのがいいかしら」
「……それは、それは。上空に向かって『エアスラッシュ』と唱えるのがよろしいかと~」
言うや否やマリアは少し早足に私から離れた。100mは離れた。怖いことしないでよ、マリア。いや、怖いことしようとしている私が悪いのか?
……ここは素直に優しく唱えることとしよう。一つ深呼吸をついて魔法を発動させる。
「……やさしい~エアスラッシュっ」
瞬間、体中の血液がぎゅんと廻ったような感覚がして、右手のひらから真空の刃が発せられた!!
慌てて、左手で右の腕を支える!! これは間違っても人に向けて打ってはならない!!
……実践なのに目をつぶってしまった。それでも威力が分かるものがある、頭上の雲が真っ二つに分かたれている。
なるほど、なるほど……。これは反則だ。
ドラゴンでも倒しに行けというのか。それともこれぐらいの威力がないと生きていけない世界なのか。
「ねぇマリア、率直に今の魔法どう思う?」
「戦場で四方を囲まれた際にも、確実に生き延びられる威力かと」
だよねぇ。最初の魔法を選んだマリアに感謝。間違って宮殿を破壊したら、さすがにどんな世界でも怒られる。
しかし、自信がついたのは確か。私は強い、私は前テレジアと同じように振舞える。
もしも、手持ちのエトワールと魔法を組み合わせて戦えるようになれば……しらず口角が上がるのを感じた。
これは怖いものなし、どんな困難であろうと立ち向かえる覚悟である。
宮廷舞踏会のコルセットに巻かれるまで、そう思ってた。




