整えられた転生
「……おはようございます」
これ以外の回答は見つけられなかった。会話が通じるのはありがたいところ。
いきなり英語で話しかけられてはゲームオーバーだった。日本語嬉しい。
取り敢えず、私の名前はテレジアね。フルネームは分からないけど。
「王女様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
丁寧な礼だった。マナーに詳しくはないが敵意を感じない。尊重されている雰囲気だ。
どうやら、私の挨拶は、テレジアにとっても日常の挨拶だったようだ。初手としては、まずまずの成果である。
ひょっとすると「王女様が、お転婆なお嬢様が普通に挨拶するなんて!!」って唐突に展開を進められてしまったかもしれない。
そうか乙女ゲーの可能性もあるな。粗暴な王女様が記憶を失ったことを切っ掛けに眉目秀麗な男達と恋に落ちるのだ。
瞬間、思考の波にのまれそうだったが、会話はキャッチボール。ボールは私の手にあるので、麗しく投げ返さなければならない。
……ここは思い切って直球勝負だ。
「いきなりで申し訳ございません。起きた瞬間から記憶がありません」
「存じております、王女様。私はこの時の為に雇われたメイドのマリアと申します、以後お見知りおきを」
うーむ、ホームラン。強打者マリア、思いもよらないことを言い出した。
どうも私の転生は予測されていたらしい。しかも、ありがたいことに記憶なし少女を迎え入れる下準備もされていたようだ。
「今の私の事情を知っているものがいるということですね」
「先週、お会いしたテレジア王女様から直々に命じられました」
ほほぅ本人自らか。前テレジアよ、君は何を考えていた。
「何か理由があって、私はここに来たのでしょうか?」
「その点、私には分かりかねますが、今後の生活全般をサポートするような契約となっております。どうぞこれからはマリアと呼び捨てくださいませ」
信じてよいものか一瞬迷ったが助かる。もしかしてマリアさんはナビゲーターか?
王女様、本日のミッションはこちらになります、なんて。公務を次々と捌きながら、ポイントを稼いで女王エンドを目指す。失敗したら没落エンド。
うーむ、ゲーム脳により過ぎか? もう少し単純に何かのアニメや漫画に転生した可能性も考えたい。
ここで、改めてマリアさんの姿を観察する。長い黒髪を結わえたキリっとした姿だ。百合ゲーならお姉さま枠だな。
何と言うか、たたずまいに揺れがない。姿勢正しくぶれない、それでいて威圧感を与えない美人さんだ。
私が考えている間も穏やかに反応を待ってくれている。もう好きになりそう。
「マリアを味方として、色々と頼っていいですか……?」
「もちろんでございます。私も全ての事情を把握しておりませんが、精いっぱいの奉仕をさせていただきます。」
ありがたい言葉に少し緊張がほどけた。何せ転生なんて初めてだ、警戒してもしょうがなかった。
さて、こうして迎え入れてもらえるということは、何かしらの期待の裏返しのようにも思える。実は、転生ではなく召喚されたのやもしれない。
もう少しざっくりと問いを重ねよう。
「私がするべきことは決められていますか?」
「まずは部屋で王女様の日記を熟読願います。それ以外の公務は2週間のお休みが予定されています」
ほうほう、なるほど。それぐらいの時間を与えられれば、この世界での振る舞いも分かってくるだろう。
「……少し頭を整理する時間をくれる?」
「もちろんでございます。ですが、その前に朝の支度を準備させていただきます」
そういうや否や、マリアは手際よく他のメイドも呼び寄せ、洗顔と朝食の準備をし始めた。
私が思考するであろうということも想定した動きに見える。
幾人かはドレッサーの前で、どれを私に着せるかではしゃいでいる。可愛いもんな、私。
そうして、過大にちやほやされながら朝食と着替えをこなし、姿見に写る私は本物プリンセス。
我ながら美しく仕上がったものよ。
鏡の前でくるっと回る私に、マリアはそっと付き添っている。
「本日のスケジュールはございません。ごゆるりと部屋でお過ごしくださいませ」
それは助かる、一刻も早く何の世界に転生したか把握しなければ……。
「なお、朝のお仕度後の言伝を、王女様より預かっております、王女様のレベルは78、だそうです」
ゲームだ!! この世界はどっかのゲームだー!!




