ヴァロワ王国武闘会決勝戦 後半戦
ぼんやりと、レオのステータスを覗き見していれば良かったなぁと思った。
この国で最強の剣士が、その才を存分に振るっている。私の風魔法がどんどん攻略されている。
烈風を切り裂き、紙一重で避け、最小限のダメージで受ける。鮮やかとは言えぬ、なりふり構わぬ防御だった。幾枚かの風刃はレオに届くかもしれないが、それもやがて受けきられる。
次は、次は何をすればいい。考えがまとまらぬうちに、レオがこちらに駆け出してきた!! 猛然と剣を振りかぶった突進に、数歩後ろに下がってしまう。
容赦ない連撃が私を襲う、その剣の重さは、私の身体を押しつぶすだろう。レオに初めての恐怖を覚える。男性の強い視線、強い行動に、更に腰が引けていく。
だがなお、まだ食い下がりたい。レオから教わり続けた剣技は、最後まで諦めない、戦い抜く剣技だったから。
そうだ、私が求めていたのは、私を受け止められる強者。レオが私の全てを受け止めたならば、私だって全力で応えないわけにはいかないではないか。
――長く続く剣戟の音だけが響く。もはや観衆の声は聞こえない。息が続かない、両腕が重い、足は泥に捕まったように滑らない。それでも、それでも。レオだって息が上がっているではないか。彼の底力を見ていられる幸福を感じながら、剣を振るい続ける。
勝てなくてもいい、ではない。満身創痍の中で最善手を探し続ける。それが戦うものの定めだ。もしかしたら、次の一撃でレオが崩れるかもしれない。ともすると、レオが根負けするかもしれない。最後まで貫き通すのが私の役目。
連撃を加えながら、一呼吸。覚悟を決めるための間を全力で探す。一瞬だけ、レオが間合いを測り取った。ここしかない。
(その名を示せエトワールっ)
意を決して深く屈みこみ、体全体をレオに投げ出した!!
(これが、最後っ!!)
流星のごとき煌めきがレオを捉える!!
やっと捕まえた、俺の星。
瞬間、聞こえるはずもない、レオの声が胸を通り抜けた。
「勝者、ライオネル公爵閣下!!」
鳴りやまない喝采が、あるようだった。心臓の音しか聞こえない。ゆっくりと目の前が戻ってくる。
私の手からエトワールが抜け落ち、しっかりとレオに握られている。
まさか、私の必殺の一撃を、寸前で躱して奪ったというのか……。
「……完敗よ、レオ」
「それは違うんだテレーズ、はっきり言って君の方が強かったんだよ、力も魔力も……。ただ、全力を出す戦いに慣れていなかっただけさ」
「慰めじゃないわよね」
「もちろん、俺はテレーズに嘘をつかないって決めているのさ」
遅れて、会場の雰囲気がやっと見えてきた。試合会場はぼろぼろに地面がめくれている。観衆を守る結界を張っていた魔法使いさんは全員が疲れてへたり込んでいる。当の観衆たちは言葉にならない歓声を上げ続けている。
お父様、お母様、アメリー、マリア、見知った顔の人達を見て、ようやく平静が戻ってきた。
……言葉にならない、脱力感と達成感。結果は負けでも、全力を出し切った解放感。興奮が冷めやらない。
「どうしよう、レオ、私そわそわして堪らないわ、どうしたらいいか分かる?」
「今は俺にエスコートされてなさい、王にご挨拶しよう」
そう言って、戦闘中に落とした鞘を拾ってくるように言われる。軽く体を払って、砂埃にまみれた服を整える。レオに促されるまま手を握られて閉会のセレモニーへ。
あら、私、戦うことに夢中で、試合後に何するか全然考えてなかったのだわ。今になって気づいた。
レオは恭しく国王陛下へ勝利の報告をしている。正しく騎士のあるべき姿だった。うーむ、調子が戻ってきたら、妙に自分が恥ずかしいぞ。
「素晴らしい戦いだった、歴代の決戦の中でも指折りの試合だったと言えよう。望みの褒美を言うがよい」
あ、褒美、ご褒美あったのね。お父様が威厳たっぷりにレオに話しかけてる。
「はい。王よ、テレジア王女を添い遂げること、改めてご了承ください」
「よろしい、テレジア、こちらへ来なさい」
え、え、もうすっかり気を抜いてたわ。仕方なく、王女っぽい顔を張り付けてしずしずと進んでいく。
「テレジア、ライオネル公爵の申し出に答えを」
答えも何も、もう婚約者なんだけど。レオの方を見ると王に向けて頭を下げたままで様子を伺い知ることができない。
まぁ、それでも私の返事は決まっているのだ。
「レオ以外、考えられませんわ」
何だか口がもぞもぞするので、堪らずレオを立たせる。早いところ私を控室に帰らせてくれ。
しかし。レオは常にない熱っぽさで私を抱きかかえた!
「皆、見てくれ、この方が、最強の王女様が俺の嫁だ!!」
あぁ、あぁレオよ。なぜ、そんな、普段はしないことを。セレモニー参加者から絶え間ない拍手が私達を包み込む。
「レオ、お願いよ。恥ずかしいわ、降ろしてっ」
そう言いながらも、本気で拒めない私がいた。
旦那が笑顔なんだもの。こんなに幸せそうなの、止められないわ。




