ヴァロワ王国武闘会決勝戦 前半戦
頬を撫でる風は優しい。しかし興奮の坩堝となった試合会場のなんて熱いこと。
民衆の視線、喧噪、歓声、全てが私の感覚を鋭敏にさせていく。
一息つく。胸の高鳴りは止められない。それでも実力を発揮できないで一蹴されるのだけは許されない。
私はヴァロワ王国で唯一の王女。無様な醜態だけは晒せない。
無敗の王女の誕生なるか!! ライオネル公爵の実力を上回っているのでは? どうか顔だけは傷つかないでお姉さまー!!
私が会場に躍り出ると、歓声は一層跳ね上がった!!
レオは先んじて会場に佇んでいる。力みを感じない平常の立ち姿が、歴戦の勇士であることを物語っているようだ。
「やぁ、楽しみにしていたよ、テレーズ」
「私もよ、レオ」
それだけ。お互い解っているのだ。多くを語るは無粋、伝えたい言葉は剣に乗せるべし。
「これよりヴァロワ王国武闘会決勝戦を始めます、両者構えて」
司会の言葉に促され、愛剣エトワールをさっと鞘から抜く。レオは勿体ぶるような緩慢な剣の抜き方をした。
「あぁ申し訳ない。感無量、と言うべきか。始まったら、手加減はしないから安心してくれ」
肌がひりつく様な威圧を放ちながら、レオが笑っている。いつもの柔和な顔ではない、戦う男の顔だった。
「始めぃ!!」
(レオに小賢しい真似なんてできない、速攻よ!!)
正眼の構えから真っすぐに駆け出す!! 狙いはレオの利き手の右、長期戦は考えない全力でぶつかっていく。
私の速攻が防がれるのは想定内、矢継ぎ早に切りかかれ。フェイントも緩急もつけない、ひたすらに剣を振るう、相手に攻撃をさせてはならない。
それでも崩せない、崩れない!! それもそうだ、レオは私の剣技の師匠。私の技も、呼吸すらも読まれている感触がする。ここは一歩、退いて離れるべきっ……。
レオの剣先が飛んだかと思った次の瞬間、私の鞘が弾き飛ばされた。
これはサービスだ、とでも言わんばかりに小首を傾げたレオがこちらを見つめている。攻めあぐねた私の隙を貫いた一撃。どよめきが会場を包む、あまりにも早い閃光だった。
舐められた……舐められた、舐められた!!
まだそんな余裕を私に見せつけるなんて――。
無言で剣をかざすと、レオは嬉しそうに、本当に嬉しそうな顔をしていた。
髪が逆立つような高ぶりに、私の中で何かが吹っ切れる。最大の魔力を持って、目の前の男を叩き伏せる。手加減なんてしてやるものか。
あぁでも、なんて素敵な男なんだろう。それだけは心底、感じいってしまう。
私の本気を見て取って、レオは魔法の盾を詠唱し終わっている。私のすべてを受け止めきる構えを完了している。
会場全体を暴風が覆った。観客の保護の為、結界が一層強化される。
(受け止めきれるものなら、受け止めてみなさいよ!!)
全力全開の魔力を放ったことはない。それでもレオなら!!
――正直に言ってね、俺は君の試合を研究させてもらったよ。
君は相当の魔力を得たにも拘わらず持て余していた。だって剣技だけで決勝まで来られてしまったから。だから、少しの煽りで魔力を全開にして攻めてくるとね。
都合、16枚の風刃は人類最高峰と言ってよいだろう。その全てに意志が込められている。前方への駆け込みを留める風圧、首元を狙った必殺の真空、上下左右の避けを咎めるかまいたち……。どれも一級品の出来栄えだ、とても魔法を使えるようになったばかりの人間とは思えない。並みの兵なら、なすすべなく一瞬で切り刻まれて命を落とすだろう。想定以上の、圧倒的な物量が雪崩れるように襲い掛かってくる。
なぁ、テレーズ。俺だって魔法はそんなに得意じゃなかったんだ。だからさ、今日の為に必死に仕上げたんだよ。
唇をぎゅっと結び、目を見開く。一歩だって後ずさりしない。
俺より強い、君の全てを受け止めるために。




