本戦開始前の身支度
テレジア王女、予選を堂々突破!! 新たな優勝候補か!
「まぁこうなるわよね~、実力の違いがあり過ぎるのよ」
アメリーは新聞を読みながらぼやく。
本戦前に似つかわしくない紅茶と花が香る控室。アメリーはむさ苦しい会場から解放されるために、マリアは私の身支度の為、当の私はうきうきでエトワールを磨いている。
王都は王女テレジアの規格外の強さに騒然としている。早くもライオネル公爵との激突を予想するものも現れるなど、二人の噂で持ちきりである。
「王女様、少しやり過ぎかと。まぁ負けてもらいたくはありませんが」
「えへへ」
「笑って誤魔化さないでくださいませ、可愛いです」
今日もマリアの反応が可愛い、愛してるぞ。あぁ紅茶が美味しいわ。
「ライオネル公爵閣下も危なげなく予選突破と……」
レオの話題に耳がぴくんとする。未来の旦那様は質実剛健、全ての試合で相手を一蹴している。
「テレジア以外に興味ないのよ、あの方」
「えへへ」
「可愛いけど認めたくないわ」
アメリーは厳しい、でも愛してるぞ。あぁ吹き抜ける風が気持ちいい。本線前とは思えないほど優雅な雰囲気が部屋を包んでいる。
この国で、もはや王女が叩きのめされる惨劇を心配するものはいない、あるのは王女がどう勝つかという期待だけ。国民はテレジアの虜だ。
「まぁ私はライオネル公爵閣下が、どうやってテレジアを攻略するかが気になるけどね」
目下、私の関心もそれだ。はっきり言って今の私に敵なし。我が剣に一点の曇りなし。大事な相棒をそっと鞘に納める。
ふと考えてしまった。敵って何だろう、このまま優勝してどうしたいんだろう。
前世の朧気な記憶でも、運動が苦手で外を駆け回ったこともない。対して、こちらの世界にいたテレジアは魔力が使えず、ひたすらに剣の鍛錬を続けていた。そんな私達にとって、公の大会で力を発揮できるのは、それはもう悲願といって間違いない。脚光を浴びるということが、こんなにも素晴らしいこととは。
でも、戦うには相手がいる。私が予選で勝ち進んだと同時に、誰かの夢や努力が一旦の終了を迎えている。勝負には責任があるのだ。別にこの世界で無双したいわけじゃない。それでも、今は、せっかく手に入れたこの楽しみを手放したくない。
「ありゃまぁ、またいつものね」
「王女様は時たま、こうして思考の渦に嵌るのが多いです」
うむ、周りにも囁かれ始めたので、考えるのは後にしよう。次の対戦相手にも申し訳ないことをしている気分にもなってきた。全力を尽くす、これが武闘会の礼儀、それに変わりなし。
「二人ともあんまりじゃない、私は思慮深いレディなのよ」
「レディねぇ……」
アメリーが紅茶を飲みながら、冷めた目で見つめてくる。何よ、私のどこがレディじゃないって言うのよ。
「マリアからも言ってちょうだい、私がいかに王女らしい女性なのか」
「まったくです、ここまで外見と武力がミスマッチな存在はこの世におりませんですわ」
褒めてる? 褒めてないと思うよ、マリア。もうちょっとストレートに褒めて。
そんな私からの視線を知らんぷりにマリアが私の髪を結い上げる。
「さぁ王女様、次の対戦相手は侮れませんよ。去年度もベスト4まで勝ち進んだ強敵です」
そんな言葉にも緊張感がない。私の勝利を疑ってないようだ。
果たして、勝った。まだまだ私の腕前は通用するみたい。いったいどこまで?
決勝まで、後少し。




