ヴァロワ王国武闘会予選
ついに、この日がやってきた。絶好調である。
熱気に包まれた予選会場は人の波で溢れんばかりだ。誰もが皆、楽しそうに高揚している。出店では、子供向けのお菓子から、大人向けへ冷えたビールまで。なんと予選参加者の中には酒まで煽っている奴らもいる。どうやら町の腕自慢も安心して参加できるようだ。きっと勝敗の思い出すら酒の肴なのだろう。あちらには、誰が優勝するか賭ける店がある。その隣では選手の強さを大仰に語る予想屋がいた。王女テレジアの情報は、当然ながらない。ふむ、私の雄姿がどう語られるか、今から楽しみだわ。
今日の衣装は冒険者風に装備を固めている。髪も結い上げて動きやすいように。背中には我が愛剣エトワールだ。本当はドレス姿の方が見栄えも良いだろうが、武闘会に真剣な参加者に失礼なような気がして辞めた。でも、決勝まで行ったら着飾ってみようか。ウェディングドレス風の衣装を着て、レオと決勝戦!
「あら、意外と緊張していないのかしら」
「アメリー、応援に来てくれたのね!」
興奮している私に果実水を一杯差し入れてくれる。できた女である。
「申し訳ないけど、私はライオネル公爵閣下に賭けるわ。でも、応援するのは貴方よ、テレジア」
商人らしいこと言うではないか。確かにライオネル公爵閣下は一番人気だ。
「まぁ見てなさいって、ねぇ、エトワール」
愛剣が輝きを増したように感じられた。
「なるほど、所有者が素早く振れるように重量軽減の魔法がかかっているのね」
「鋭いじゃない、商人の鑑定眼かしら」
「そう私が練習した魔法をもってすれば……」
話の途中でアメリーが止まった。ローディング中だろうか。電波を拾えるようにアメリーの脇をすくって持ち上げてみる。脳天に突っ込みを入れられた。痛い、予選前にダメージをもらってしまった。
「人が考え事をしているときに何してんの」
「いや、その、電波がね……持ち上げろと呟いたんですよ。」
いてて、と頭をさすっていると、開け放った扉をノックされた。
「テレジア王女様、予選第一試合が始まります。ご入場ください」
受付兵士の声が聞こえる。肩をすくめながらアメリーがじとっとした目で見つめてくる。
「あぁもうバカなことをしていたから励ます暇がなくなったじゃないの。とにかく頑張ってきなさい!」
「うん! アメリーも特等席で私のこと見ててね!」
会場のどよめきが耳をくすぐる。王女が出ていいのか、麗しいお姿、対戦者が本気出せないだろう、ざわざわと会場がどよめく中、淀みなく私は歩みを進める。
「私、ライオネル公爵閣下以外の方と戦うのは初めてですの、よろしくお願いしますわ」
宮廷仕込みのカーテシーを見せつける。相手は大柄な男で、私の背丈ほどもある斧を肩に乗せている。見るからに力が強そうである。
「この斧では手加減できない、よろしいですか」
あら、意外と紳士なお方。それと野次にも動じないところは気に入ったわ。
「望むところです、私も全力で応えましょう」
予選第一試合開始!!
果たして、対戦者は斧を大いに振りかぶり、テレジア目掛けて薙ぎ払った!
いきなりの速攻、相手の生死を問わない容赦のない一撃が私を襲う。幾人かの悲鳴が聞こえた。
誰も王女が血まみれに吹っ飛ばされるところなど見たくはないのだ。
そう見て取れるほど、この一撃は重かった。例え王宮の兵士だろうと受け止められず吹き飛ばされるだろう。いや、誰だろうがこの衝撃に耐えられるものはいないだろう。
――私以外には。
会場がざわめくと思ったが、金属音の響きだけが鳴り響いた。皆が皆、驚きを言葉にできないでいる。王女がその場で無事に立っている異常さに理解が追い付いていない。
エトワールを盾にして立ちふさがっている私に、相手が一瞬慄いたのを感じるが、その隙をつくのは優雅でない。全力で応えると言ったのだ。初撃は受け止めるだけというのが粋と言うものだ。
対戦相手は、はっきりと驚いていた。驚愕の顔を隠せない。
無言で対戦の続きを催促する。言葉で応酬するのは野暮。煽って怒りを誘うのも愚の骨頂。それでは真剣勝負ではなく、ただの喧嘩ではないか。
会場全体が、次は何が起こるのだと息を飲んだ。相手も例外ではない、一息を入れた顔は戦士の顔、そこに一切の油断は感じられない。
(あぁ良い初戦相手に恵まれたわ)
初撃を阻まれたショックもあるだろうに、さらに強く二撃三撃と繰り出してきた! 受け止める、なお受け止める!
小柄な少女が大剣を振りかぶり剣戟を重ねる姿に歓声が沸きだした!
(そう、そうよ全力を出しなさい!)
相手の攻撃が多彩になってきた。斧を振りかぶる。流れのまま回転して蹴りを繰り出す。勢いを殺さずに突進!!
私と踊ろうという訳ね、よくってよ。私もそろそろ攻撃させていただきましょう。エトワールを高速で薙ぎ払うも、すんでのところで躱される。
(それでこそ!)
あくまで流麗に、そして気品をもって! 高速の突きに返す刃。連撃の乱舞に相手が防戦一方になる。
それでも相手は焦りを見せない、一撃必殺の返しを狙っているのだ。
(さぁ私に合わせなさい!! 分かるでしょう、そうしないと……)
何回目かの衝突の後、相手の振り下ろしに併せて私はワルツの様に体を回し、あっさりと相手の後ろに回り込んだ。
そうして優しく首元に剣をそっと乗せた。
(……ほら、すぐにダンスが終わってしまったじゃない)
「勝者、テレジア王女!!」
高ぶっていた心のままにくるっとターンして剣を掲げる。勝利の喝さいが私に降り注ぐ、大きな歓声を一身に受けて肌が粟立つ。テレジアが陽の目を浴びているのだ。
しかし……。
「しまった、やりすぎましたわ」
そんな私の呟きに、審判が不思議そうに見つめてきたので答えてあげる。対戦者は何も言わず、すっと礼だけをしてゆっくりと会場を後にしてしまったのだ。気持ちの良い潔さである。
「名前を聞いておくのを忘れてしまいました、少々緊張していたようですわ」
ぽかんとした審判を尻目に、私は声を張り上げた!
「さぁ、次のお相手はどなたかしら、続けてどうぞ!!」




