表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/43

21-1 無意識の強者たち(その1)


「ねえ、主様ぁ? アタシにひとつ、

 素敵な案があるのだけど……

 試してみてもよろしくて?」


絶対零度の冷気が漂う、

冬の精霊軍

深冬邪党みふゆじゃとう』の氷の宮殿。


派手な扇で口元を隠しながら、

きつい化粧の目を妖しく輝かせたのは、

美を愛する四天王・氷雪将ヨルダだった。


凍てつく玉座の奥から、

脳髄まで直接凍りつくような冬の精霊の

冷徹な声が重々しく響き渡る。


『 ――言ってみなさい、ヨルダ 』


「ほら、例の生意気な『春の思念体』がリブラで放った、

 あのド派手な極大光線……あったでしょう?

 アタシ、あの術式構造を分析して、

 アタシたちの極冷の『冬の力』で再現できるように

 改良してみたのよぉ♪」


ヨルダは長い爪を立てた手で扇を優雅に開くと、

ニヤリと真っ赤な唇を吊り上げた。


「人間どもが『復興の兆し』なんて浮かれ始めた

 王都ゲートランドの城に向けて、試しにドカンと一発、

 お見舞いして差し上げようかと思いまして」


「……あの強固な防衛障壁

 『陽だまりの残響レゾナンス・サンシャイン』に

 どれだけのダメージを与えられるかはやってみないと

 わからないけれどねぇ〜☆」


「 まあ、もしこれで城ごと消し飛んじゃったら、

 せっかくの戦争も終わっちゃうかしら? 」



『 ――フフ……構いません。やってみなさい 』



「うふふ! お許し、

 感謝いたしますわぁ!」


ヨルダは歓喜の声をあげると、

氷の宮殿のテラスへと踊り出た。


黒紫のフードを深く被った氷魔道王ジゼル、

そして大剣の柄に手をかけた氷剣王ロドンが

最上階から見下ろす中、ヨルダは派手な扇を高く掲げ、

体内の冷酷な『冬の力』を極限まで錬成し始める。


「アタシの美しき冬の極冷閃光……

 受け取りなさいな、愚かな人間ども!!」


極北の上空に、

巨大な氷晶の魔法陣が展開される。


コハルの技を冬の力で模倣した、

直径100メートルを超える超絶破壊の極大光線。

それが遥か数千キロ彼方の王都ゲートランドを目指し、

大気を凍らせ切り裂いて解き放たれた!



ズドバババババババガァァァァンッ!!!!!!






同じ刻――王都ゲートランド。


王宮特別病室のひんやりとした室内には、

どこまでも重く、冷たい静寂が漂っていた。


ベッドの上に上体を起こしたカゲロウは、

包帯が巻かれた己の手のひらを凝視していた。


傷の痛みは神官たちの治療で和らいでいたが、

胸の奥底に突き刺さった自責の念は、

どれだけ時が経とうとも消える気配がない。


(拙者が……拙者がもっと強ければ。

 あやつらの前で、体を張って

 二人を守れていれば……!)


無力感に拳を強く握りしめると、

爪が皮膚を深く痛めつける。


その時、部屋の隅にある丸椅子から、

かすかな物音が聞こえた。


膝を抱え、体ごと小さくなって

壁を見つめている少女――ルナだ。


エルザの妹であり、あの壮絶な戦いの中、

己の血を通じて実の姉を闇へと

引きずり込んでしまった悲劇の当事者。


その瞳からは光が消え失せ、

まるで魂の抜け殻のようになっていた。


カゲロウはベッドからそっと足を下ろし、

痛む身体を引きずりながらルナの側へと歩み寄った。


「……ルナ殿」


呼びかけにも反応を示さない。

ただ、小さな肩が微かに震え、

大粒の涙がポロポロと溢れて膝の

生地を黒く濡らしていくだけだ。


「私の……私のせいです……。

 私の汚い血が、お姉様をあんな姿に変えてしまった……。

 私が捕まらなければ、

 ニノさんも、コハル様も……お姉様も……っ」


かすれた、今にも途切れそうな声。

ルナの心は、自分自身の存在そのものを

否定するほどの絶望に押し潰されていた。


カゲロウはゆっくりと目線を合わせるように片膝をつき、

ルナの小さな両手をそっと包み込んだ。


「自分を責めるな、ルナ殿。

 悪意を持って罠を仕掛けたのは冬の精霊の残党どもだ。

 何より……目の前で無残にも仲間を奪われた拙者の不甲斐なさこそが、

 すべての元凶。責めるならば、この拙者を責められよ」


「カゲロウ様……」


「だがな、ルナ殿」


カゲロウの眼光に、

静かだが消えることのない熱い光が宿る。


彼は、空間の裂け目に飲み込まれる直前、

自分に向かって叫んだニノの最後の表情を思い出していた。

絶望に顔を歪ませながらも、決して諦めず、

自分にルナを託したあの青年の叫びを。


「ニノ殿は……あやつは、

 死んではおらん」


ルナが小さく息を呑み、

涙に濡れた瞳を上げた。


「根拠はない。だが、あやつの最後の叫びを聞いたか?

 あやつは最後の最後まで、諦めてなどいなかった。

 たとえどんな理不尽な空間に弾き飛ばされようと、

 あやつは今も……どこか遠い場所で、泥臭く、

 不器用になおも足掻き続けているはずだ。

 ……あやつは、そういう男だ」


「どこか……遠い場所で……」


「そうとも。ならば……残された拙者たちが、

 ここで泣いて立ち止まっていてどうする。

 そんな無様な姿を見せたら、

 どこか遠くで戦っているあやつに、

 一生笑われてしまうでござるよ」


カゲロウはゆっくりと立ち上がり、

自らの腰にある愛刀の柄を固く握りしめた。


「拙者は諦めん。

 ニノ殿が戻ってくるその日まで、

 絶対にルナ殿を守り抜き、

 エルザ殿をあの闇の深淵から引きずり戻してみせる。

 ……そのためなら、この命、何度でも賭けてみせる」


まっすぐで、

偽りのない強い言葉。


ルナは呆然とその姿を見つめ、

やがて溢れ出る涙を小さな拳で

何度も何度も拭った。


「……はい……っ。私も……私も、

 お姉様を……諦めません……っ!」


二人の間に、

確かな再起の炎が灯った瞬間だった。




――ガラリ。




重々しい雰囲気をぶち破るように、

病室の扉が無造作に開け放たれた。


「はーい、お邪魔しますよ~!

 朝のお食事の準備ができました~♪」


入ってきたのは、身軽な革鎧を纏ったシーフの少女マリーだ。

その後ろには、大きな大盾を背負った戦士ザード、

黒いローブを着た死霊術士の少年レイス、そして

おっとりとした雰囲気の神官シルエッタが続いている。


冒険者ギルド長オーウェンの

「贅沢三昧でダラダラしてろ」という指示を受け、

病室の警備兼看護をかって出ている

Dランク冒険者パーティーの四人組だった。


「あら? ルナちゃん、

 ちょっと顔色が良くなったんじゃない?

 シルエッタ特製のカボチャスープ、

 今日も持ってきて正解だったわね!」


「『特製』ねぇ……

 厨房から貰ってきたんだけどね」


マリーはつっこまずにはいられない性格のようだ。


マリーがお盆に載せられた湯気の立つ

木鉢をテーブルに置くと、

シルエッタがふわりと柔らかく微笑んだ。


「誰が作るかは関係ないのですよ、マリー?

 神様も『温かいものを食べると元気が出るよ』って

 おっしゃっていますから。

 ルナ様、ゆっくり召し上がってくださいね」


「二人ともまだ怪我人なんだから

 静かにしろよ」


ザードが苦笑しながら大盾を壁に立てかけ、

レイスは静かに部屋の隅の椅子に腰掛けて

怪しげな魔導書を開く。


一切の裏表がない、

あまりにも自然体で温かな雰囲気。

張り詰めた緊張の中にいたカゲロウは、

彼らの言葉に深く救われる思いだった。


「ささっ、カゲロウさんも!

 傷を治すにはまず滋養強壮!

 今日は私が特別におかゆをあーんしてあげるから、

 おとなしくベッドに戻りなさい!」


マリーがノリノリで

スプーンとおかゆの鉢を手に取り、

カゲロウの前に迫ってくる。


「い、いや……マリー殿、

 拙者はもう自分で食べられるゆえ……」


「だーめ! 患者さんは

 大人しくお世話されるのが仕事なの!

 ほら、あーん!♡」


カゲロウはタジタジになりながらも、

彼女たちの好意を無下にできず、

苦笑交じりにベッドへと腰を下ろした。


マリーがスプーンでおかゆをすくい、

ふーふーと息を吹きかけてカゲロウの口元へと運ぶ。


――その時だった!


「なっ!?」


この後、マリーの服が脱げます(嘘)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ