死神グリム
悲鳴のした場所にアステールとセーヤが到着すると、そこはあたり一面血の海だった。
そしてその真ん中に立つ圧倒的な『死』の気配。
それはガンベルが若い頃感じたのと同じものであり、セーヤもそれに恐怖し、足が震えていた。
『死』をまとっているのは男のように見える。アステールと同じほどの背丈でありながら振り回す得物は背丈よりかなり大きい大鎌。黒いローブをまとっており、風に揺らめくローブから時折見える手はやせ細っているがセーヤでは何万回戦っても勝てないと思わせる強者の雰囲気を持っていた。
そしてそんな『死』をまとった男が話しかけてくる。
「ふむ、装いは違うがこのタイミングで出てきたということはこの盗賊たちの仲間ということかの。」
「ちがッ!?」
男の言葉は話かけるというより独り言に近く、断定するようなものだった。
それにセーヤは抗議の声を必死で上げようとするが、突如、ガキンッ!という音がセーヤの耳元で響く。
セーヤは茫然とそれを見る。そこには男の身長より大きな大鎌がすぐそこまで迫っていた。
しかし、金属を打ち付ける音が聞こえたということはそれを受け止めるものがいたということだ。
そして今この場所にそれに当てはまるのは一人しかおらずセーヤが自分の横をみると、いつの間にか手に持ってい漆黒の剣で大鎌を受け止めている、アステールがいた。
そこから始まった二人の戦いはセーヤには見えなかった。
先ほどから二人が目に見えない速度打ち合い、森の中を移動しているのが音でかろうじてわかる程度だ。
しかし、戦いはすぐに幕を下ろした。
森から吹き飛ばされるように出てきたのはなんと男の方だった。そしてその後を追うようにして飛び出してきたアステールがセーヤの隣に立つ。
しかし男は立ち上がりアステールに向かって叫ぶ。
「油断していたとはいえ我がここまでやられるとは貴様、名はなんと申す!。」
「はぁ~。お前まだ寝ぼけてんのかグリム。」
「は?」
そしてそれに対するアステールの答えはもっと驚愕のものだった。
アステールが目の前の男のことを、「グリム」と名前で呼んだのだ。
思わず素っ頓狂な声をセーヤは上げてしまう。
「何故貴様が我の名前をしっている!」
「だから・・・「ちょ、ちょっとアステールどういうこと!?」」
男もアステールが自分の名前をしっていたことに驚きを隠せずに叫ぶ。
それに対してアステールは説明しようとするがセーヤはつい声を大きくして訪ねてしまう。
「なに、アステールといったのか今!」
「だからそういってるだろ。」
しかし、その言葉に反応したのはグリムと呼ばれた男だった。
そしてアステールもそれに呆れたように返す。
そして今もグリムはアステールを何故か信じられない様子で見ていたが次の瞬間アステールの横に並ぶと、急に肩を組みだした。
「おお!本当にアステールか!おぬし100年もどうしておったんじゃ!」
そう大声で言うと、男は急に大声で笑い始めた。
「どういうことなの・・・。」
セーヤは目まぐるしく変わる状況に混乱してしまっていた。
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「それってつまり『死神』とアステールは知り合いだったってこと?」
「グリム」と呼ばれた男が笑い終わるとアステールがこの男は自分の友人だと紹介した。
それだけでなく「グリム」は自分のことをあの『死神』だといったのだ。
確かにグリムのまとう『死』の気配と絶対的強さは『死神』だといわれても納得できるものもある。
現にセーヤはアステールがいることとグリムが思いのほかフランクだったため話せるほどになっているが、セーヤの足はいまだ少し震えている。
「ああ、それがさっき言おうとしてたことになるんだけど、俺は昔『死神』に会っていて友人だったんだよ。」
「そうじゃそうじゃ、いや先ほどはあいすまんかった。早とちりしてしまっての、まさかアステールの女じゃったとは。」
「そういうんじゃないわッ!」
ようやくセーヤがグリムの軽口に赤面しながらも答えられるようになったので、アステールはグリムに
質問をした。
「んで、なんでグリムが盗賊の討伐なんてやってんだ?」
「おお、それはの。アステール、おぬしが100年前にいなくなってから人間に興味がわいての、たまにこういうこともするようになったんじゃ。」
アステールの質問にグリムはアステールの影響を受けてこういったことをしたという。
そしてセーヤは先ほどから気になっていたことを聞く。
「ねえ、100年ってさっきから言ってるけどそんなわけないでしょ?」
「甘いな嬢ちゃん、こやつに常識はない。100年程度の寿命なんざなんとでもしてしまうわ。」
死神の口から常識を聞くという世にも珍しい経験をしたセーヤだったが、それより今の話が本当なのかということに気がいっていた。
「ねえ、今の話って本当なの?」
「やろうと思ってできないことはないし、100年前から生きているのも事実だが、方法は違うな。」
と何でもないように肯定する。
そのことが信じられないセーヤは今度はグリムの方に確認をとる。
「じゃあ、あなたはなんでアステールが100年前と同一人物だと思ったの?」
「最初に挙げられるのは強さじゃな、我と同等以上に戦えるのは片手で足りる。」
そういったグリムはそのやせ細った手を広げてみせると、さらに話始める。
「あとは・・・名前じゃな、今の世は皆我のことを『死神』と呼ぶ。その中で我の名前を知っているのは
アステールと『竜神』と『魔神』ぐらいじゃったはずじゃ。」
そういってグリムは広げた指を折って数えていき、最後に「今日でその中にお嬢ちゃんも加わるな。」と笑っていたが、正直セーヤはあまりうれしくなかった。
『竜神』とは竜や龍を束ねる存在であり、その存在は決して怒らせることのないように言われている。
過去、『竜神』を怒らせた時は国が二つ焦土と化したと言われている。
『魔神』はこの世界にいる魔族と呼ばれる種族が崇めており、見た者はいないが実在していると言われて、これも怒らすことのないように言われている。
そしてアステールは騎士団長にも無傷で勝利でき、先ほど目の前で死神と互角以上に戦っているところを見ている。
そんな中に並べられているためセーヤは今すぐこの目の前の記憶を消し去りたくなった。
そして、セーヤはふと、アステールは他の『神』にもあってるのでは、と思い怖々聞いてみる。
「もしかしてアステールも他の『神』に会ったりしたの?」
「それはどっち・・・て、それは『竜神』と『魔神』の方か。いや、グリムに誘われてはいたんだがな、さすがにもうちょっと強くなってからと思ってな。」
セーヤはアステールの発言の最初の方の意味は図りかねたが、さしものアステールも他二体にはあっていなかったようでひとまず安心していた。
「かっか、だから大丈夫じゃと言っておろう。それにおぬし昔より強くなっておらんか?前は我と互角程度じゃったのに今じゃ押されておる。それなら『竜神』や『魔神』とも渡り合えるじゃろ。」
「そうだな、会うのもいいかもしれないな。もうしばらくエレメーヌでゆっくりしたら行ってみるか。」
ただセーヤは次のグリムの発言に驚愕し、さらにそれに賛成するようなアステールの発言にも驚愕する。
そして、最後にアステールが言った言葉はセーヤの胸の内をざわつかせた。
「さ、そんなことよりさっさとマンモスベアの討伐証明箇所と素材を持って帰りましょ。」
そんな、胸中をだますようにセーヤがまくしたてると、アステールとグリムは先に行くセーヤに付いていく。
だが、・・・
「ちょっとまって。あなたその恰好で街に入るつもり?」
「そうじゃが?」
「それじゃ目立つに決まっているでしょ!」
そう、グリムの格好は非常に目立つのだ。
黒ローブに大鎌、そしてまとう『死』の気配、どれをとっても穏やかには入れそうにない。
「ああその程度なら、ホイッと、これでいけるだろ。」
しかし、そんな二人にアステールは何でもないように言うと、アステールは魔術を発動させる。
その瞬間、グリムの体はどこにでもいる冒険者になった。
「む、大鎌はどこへやったのだ?」
「ああ、それも問題ない。その剣を抜いて魔力込めて振ってみろ。」
グリムが抗議の声を上げるが、それにもアステールは対処しているという。
グリムは言われたとおりに、いつの間にか腰に帯刀されていた剣を抜き軽くふるうと元の大鎌に戻った。
そしてまた、同じようにすると今度は大鎌から剣に戻った。
「本当になんでもありね・・・。」
「ほーら、行くぞ。」
セーヤはそれらを一瞬で行ったアステールに呆れの視線を向けるが、とうのアステールはさっさと歩いて行ってしまう。
そしてセーヤはそれをどこか楽しそうに追いかけるのだった。
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その後三人はマンモスベアの素材を取り街へ戻った。
セーヤは街に入るには『死』の気配をどうにかしないといけないと思ったが、実はグリムは『死』の気配を制御できるらしく、すっかり『死』の気配はなりを潜めていた。
それをできるなら最初からしてほしかったが、グリム曰く、
「それをやると少しじゃが疲れるんじゃ!」
とのことらしかった。
街にむかう道中、セーヤはグリムに対して『死神』とはどういったものなのかと質問をしていた。
曰く、『死神』はアンデット系の魔物らしく、可能性は本当に極わずかだがどのアンデット系の魔物にも『死神』に至ることができるそうだ。
その事実にセーヤは戦慄したが、死神は本当に極僅かだと笑って話を続ける。
曰く、グリムに意識があるのはあるときふと生前の記憶を思い出したらしい。
生前は冒険者をしており、記憶が戻ったのは死んでから100年以上たっていたそうだ。
そうこうしているうちに街に着き、ギルドにて依頼の達成報告と素材の買い取りをした三人は、すっかり暗くなった通りでグリムの今後について話し合っていた。
「グリムは宿とかどうすんだ?」
「うむ、我は睡眠と食事の必要がないため夜中はずっとこのあたりを散策しようと思う。」
アステールの問いかけにグリムは今後の予定を話す。(内容はおかしいものだが)
そのグリムの発言にセーヤはエレメーヌの街の特徴を話すが、グリムは「それもまた一興。」といって、
笑っていた。
そしてそのまま歩いて行ったグリムに二人は顔を見合わせて笑うと、騎士団本部の方に歩いて行った。
アステールが騎士団本部に居座り始めて二週間がたった。その間アステールはセーヤにエレメーヌを案内してもらったり、冒険者として魔物を狩りに行ったり、騎士達の訓練に付きあったりした。
この騎士達の訓練は、最初こそ反発が多かったものの一度全員対アステールをやり、その結果アステールが騎士達をボコボコにすると、それから騎士達はアステールの言うことを聞くようになり、さらに積極的に訓練した結果、騎士見習いにいたるまでこれまでより精強な軍ができた。
そんな二週間の間ですっかり騎士団に馴染んだアステールは今、騎士団長のダイオールとお茶をしていた。
「もう騎士団にはすっかり馴染んだようだね。」
「ああ、お陰様でな。」
といった風に二人が雑談をしていると、バタンッ!という音がしてセーヤが息を切らせながら、
「団長大変です!」と入ってきた。
セーヤは今日は東門の警備を手伝っていたはずであり、ダイオールが「何事だ。」と問う。
「突然東門の前に・・・・『人間どもよ聞こえているか。』」
セーヤは状況を説明しようとするが、それを言い終わらぬうちに突如声がなり響く。
『まずこのようなことをしたことを詫びよう。そして何故このようなことをした目的を簡潔に説明しよう。』
聞こえてくる声はそういうと続きをそのまま話だす。
『この街にいるアステールという『神』を探している。』と。
どうやらアステールの平和な日々はここまでのようだった。




