騎士クリスト
試合が終わった訓練場は騒然としていた。
確かに、ダイオールは50を過ぎて全盛期より衰えていたが、それでも騎士団の騎士のなかでは勝てるものなど一人しかいない。その一人も勝てるのは四回に一回程度であり、勝ったとしても大きくダメージを受ける辛勝である。
つまり、ダイオールはいまだ騎士団で最強の地位にいるのだ。
それが相手に一太刀どころか掠り傷すらつけられずに倒れたのだ、騎士達が動揺するのも当然といえる。
「どんな小細工をした。」
そしてその一人であるクリストが声をかけてくる。
クリストは炎ような赤い髪にエレメーヌ一と呼ばれる美貌をもった騎士だった。
(アステールも十分整っているがクリストには負ける。)
その内容は小細工を疑う、というより断定しているようなものだった。
「小細工っていわれてもな・・・」
「貴様ごときが小細工なしで団長に勝てるわけがなかろう、早く言え。」
そして、その言葉に騎士達は同調していく。
それを見ていたセーヤはアステールは小細工などしていないと言おうとしたが、自分は騎士見習いで相手はダイオールを抜いて騎士団最強なのである。それに周りも自分より強い者たちだ。そのためセーヤは臆して踏みとどまってしまう。
その間にアステールとクリストの会話は進んでいく。
「小細工なんかしてないんだけどなあ・・・。」
「嘘をつくな!ではどうやって勝ったというのだ!」
「なんで実力という発想がないかな。」
アステールは嘆くが、それほどまでにダイオールは長い間騎士団の最強の象徴だったのだ。
その態度に騎士達は憤りを覚え口ぐちに罵声を浴びせかけていく。
その状態がしばらく続いたが
パンッ!
その音で一斉に静かになる。全員がその方向を見ると両手を合わせた格好でいるクリストの格好がいた。
「罵声などと醜いまねは誇り高き騎士団がやるべきではない。しかし、この者にはしかるべき罰を与えるべきだと思うのだが、皆はどうだろうか?」
「ちょっ・・「いいな、それ。」」
それは、言外の私刑への誘いであった。
この男はきれいな顔をして何をいいだすのかと、さすがにセーヤは止めに入ろうとするがそれを遮ったのは、ほかでもない私刑の対象にされているアステールだった。
それに、クリストもいぶかしそうにする。
「なに?」
「だから、それで納得するならそれでいいと言ったんだ。もちろん、ただじゃない、まずこいつらを相手 にして貰う。」
アステールがそういうと、突如ダイオールとの試合の最中のものより大きな揺れが訓練場を襲う。
揺れがおさまり、何事かとクリストがあたりを見まわす。
そこにいたのはゴーレムの大群。何体いるかはわからないがここにいる者の数程度ではないだろうかと
クリストは当たりを付けるとアステールに問いかける。
「これは・・・一人一体のゴーレムを相手にしろ、ということか。」
「別にバカ正直に一騎打ちしようってわけじゃない。ここは集団戦もやるそうだな。
そこでだ、このゴーレム達とここにいる全員で戦おうじゃないか、人数は対等にする。降りたいやつは早めにいってくれよ。」
問いかけへの答えは、アステールからの集団戦のお誘いだった。
エルメニアの騎士達は、この広大な訓練場により他国より集団戦に優れている。
それに、軽くではあるが挑発されて相手にしないというのは、ありえないことだった。
そのため、満場一致で戦うことになった。
「いいだろう、受けてたとう。」
それを代表してクリストが答えると、アステールは楽しそうに嗤うのだった。
----------------------------------------------------------------------
陣形などの簡単な作戦会議を終えたクリストは、勝つことを疑っていなかった。
クリストは幼い頃から剣の才能が有り、同年代の誰よりも強かったため他者を見下す傾向にあった。
そして、ダイオールのことも衰えたジジイ、程度にしか思っていなかった。
しかし、今はダイオールの方が強かった。そのため、必ず自分が倒してやると日頃から意気込んでいたもだ。
しかし先ほど、どこの馬の骨ともわからぬ男にやられ、男の方は掠り傷も負っていないのだ。
自尊心のつよかったクリストは、こんな男が自分より強いはずはない、と自己完結し、アステールが
小細工をしているという結論にいたったのだ。
(ふん、すぐに化けの皮をはがしてやるぞ。)
そして相手は集団戦を仕掛けてきたのだ。
クリストは指揮官としても有能であり、それも今から始まる戦いへの自信につながっていた。
しかし、戦いのことに集中するあまり、敵戦力の分析をおこたったのだ。
クリストはアステールが出したゴーレムについて頓着していなかった。
これまでクリストが戦ったゴーレムは、宮廷魔術士との模擬戦のみであった。しかもそのゴーレムよりもアステールの方が何倍も優れている。
ダイオールは経験により気づいていたが、クリストは気づけなかった。
敵戦力の情報は重要である。普段ならクリストも確認しただろうが、今は興奮により失念していた。
「これより集団戦を始める。両者よういは。」
そういったのはセーヤだった。
セーヤは騎士団の人間であるが、今回のことは言いがかりであると知っているため、どっち側にも付けずに審判を買って出たのである。
「こっちはいつでも。」
「私もかまわん。」
「では、始めッ!」
アステールとクリストの返答を受け、セーヤが開始の合図をすると、クリスト側から動きだした。
クリストの軍は150人程度いる騎士達を五人ずつにわけ、少しずつゴーレムを崩していく作戦のようだ。
対ゴーレムの基本戦術であるが、今回は自分たちと同数なのとアステールのゴーレムだったことが災いした。
「迎撃。」
向かってきたゴーレムがクリストの予想外の動きをする。
ゴーレム達はかなり俊敏な動きをすると、五人組の騎士達を蹴散らす。
「クッ!・・・」
そのようすに歯ぎしりするクリストだが、すぐに次の指示をだす。
「少しひけっ!強いものを中心に攻撃!他は攻撃の当たらぬようにサポートをしろ!私もでる!」
そういうと、クリストは出てきてゴーレムに攻撃を加えていく。
そして、クリストの出陣から少し経ったところでゴーレムの数は半減していた。
が、騎士達も同じ程度の数が倒れていた。
このままではジリ貧だと思ったクリストは大技を放つ覚悟をする。
「お前ら下がっていろ!くらえ土人形ども!『炎精霊の爪』!」
そうクリストが叫ぶとクリストの剣が輝きそこから炎の大剣が現れる。
これは精霊系といわれる魔術とはまた違ったものである。この技は使える者が限られており、さらに一人一人属性が違う。
その大剣が振るわれると、間合いにいたゴーレムたちはすべて土に戻ることすらなく消え、
残ったゴーレムの大半を削り、自身も消耗してしまったがこれなら勝てるとクリストは笑みを浮かべる。
が、
「ヒュー、いい技だね。なら俺もでることにしようかな。」
そういってアステールが歩いてくる。その手にあるのは試合用の刃をつぶした物ではなく、いつの間にか手に持っていた持ち手から刀身にいたるまで黒く染まった剣だった。
「『雷精霊の息』」
そうアステールがつぶやき漆黒の剣をふるった瞬間、風がクリストたちの間を通りすぎる。
クリストは自分の体に何事もないことからブラフだと思い、周りに発破をかけるためあたりを見回す。
「・・・ッ!?」
しかし、そこにあったのは死屍累々の光景だった。
騎士達は数人をのこしてうずくまっていた。死んではいないようだが、回復魔術の使えるものも倒れている以上、復帰は無理だろう。
「なにをした!」
「なにって・・・同じことをしたまでだ。まあ、俺は殺していないが。」
クリストはそう叫ぶがアステールの返答は簡潔なものだった。
実際アステールも精霊系を使い相手を大勢倒したに過ぎない。しかし、クリストが疲れていたにも関わらずアステールは汗ひとつかいておらず余裕であった、クリストより威力を落としてはいるがその分範囲は広い。
つまり、クリストとアステールは同じだけ消耗しているはずなのだが、アステールの表情は変わらない。
(どうする・・・考えねば。)
一時はクリストの攻撃で減らして勝利ムードであったが、一瞬で同じくらいにまで戻されてしまった。
そのためクリストは策をめぐらすが、いい考えは浮かんでこない。
そこでクリストは苦し紛れの提案をする。
「な、なあアステールよ、これ以上の戦いは不毛だ。しかし決着はつけなければならない。
だから、俺とお前で一騎打ちをしよう。」
このような提案をする時点でクリストの負けは決まったていたが、クリストはそれを認めないだろう。
そしてアステールの返答は、
「俺はいいけど・・・どうだ?審判。」
返答はそれを了承するものだった。そして後半はセーヤに対しての確認だ。
それを受けてセーヤは、一度は断ろうとするが、いつの間にか起きていたダイオールに
「やらせてやってくれないか。」と言われたため、「分かりました。」と了承する。
そして、本日二度目の試合がはじまるのだった。
--------------------------------------------------------------------
ダイオールが頼んだのには、いくつか理由がある。
一つ目は、クリストの日々の態度が改められればと思ったのである。
騎士見習いや新人騎士へのいじめや、街の婦女への暴行である。
クリストの街や騎士団での行為は目に余るものがある。
そしてそれを大勢の目にさらさせないよう、相手を脅すのだ。力を傘にきた他者を見下す行為をこの敗北で改められれば、自分の後を任せられるともおもっていた。
二つ目は、自分が強くなるためだ。
自分が、あそこまで遊ばれている、と感じたのはダイオールが騎士団に入った直後以来である。
そこからは負けることはあっても遊ばれることはなかったため、ダイオールはこれを機に自分が何故負けたのかを一番実力の近いクリストを使って、客観的に見ようとおもったのである。
それに、何度も言うがダイオールはクリストは必ず負けるとわかっている。
クリストは、アステールがダイオールとの戦いや集団戦で消耗していると思っているようだが、
ダイオールに言わせれば、そんなものはクリストの分析違いだ。
ダイオールはあの試合を全力で戦っていたのだ。そして、それを100回、休みなくできたとしても
アステールは疲れないのではないかという予感がした。
「それでは、アステール対クリストの模擬戦をはじめます。用意・・・始めッ!」
合図をうけてクリストは一瞬でアステールとの距離を詰めると、アステールに向かって剣を振り下ろす。
しかしアステールはそれを一歩も動かずに受け止める。
そしてその攻防はしばらく続いたていたが、急にクリストが崩れ落ちる。
よく見てみるとアステールの拳がクリストの鳩尾に入っていた。
ついにクリストはアステールを一歩も動かすことなく負けたのである。
これを見ていたダイオールも愕然とする。
自分が何故負けたのかが分からなかっただけではない。
クリストには自分もたまに負けるのだ。つまり、アステールはその気になれば、ダイオールにも同じようにできるということを示している。
セーヤもセーヤで、自分が連れてきたのはいいがまさかエルメニアの最強と準最強に勝とは思わず、茫然としてしまった。
そして、深夜の訓練場は静寂に包まれる。
「よし!寝るか!」
アステールの言葉を残して。




