キーロの受難
こんな話は入れるつもりはなかったんですが・・・・
「くそ、なぜ私がこのようなことに・・・。」
現在キーロは深い森の中を歩いていた。
アステールが術に仕込んだ設定によりこの場所に飛ばされてしまったキーロ。
そこからしばらく茫然としていたが、とりあえずここにいてはいけないと思い今は歩いている最中だった。
キーロはいま天使達と離れている状態だがそれは問題ない。
天使達はキーロに作られた存在であり、命令がない限り傍から離れることはできないため、どこにいても近くに来なければならない。
つまり、キーロの目下の懸念はそれではない。キーロは現在人間の体なのだ。
当然腹が減るそのため今歩いているのは食糧を探すためなのだ。
(ここから出るのは、天使が戻ればできる)
「ん?」
キーロが歩いていると少し離れたところに焚き木の煙が見えた。
キーロはそこで食糧が調達できるかもしれないと思い、そこに向かって歩いて行った。
「なんだこいつらは・・・。」
焚き木をしていたのは、魔物の骨や草などで作られている露出が多い服をまとった人々だった。
その人々は焚き木を囲み、なにかを踊っていた。
「まあいい、こいつらから食べ物を貰うか。」
踊っている人々の正体をひとまず置いておいたキーロはその人達に声をかける。
「おい貴様ら、食べ物を持っておらぬか?」
その声に人々は戸惑ったように踊りをやめた。
そのままキーロの言葉に返答をせず人々は走りさっていってしまう。
しばらくすると走り去った人々とともに一人の老人が出て来た。
その人物の周りに人が集まっていることから上の立場なのだろうと思われる。
「おまえが食糧を求めているという旅人か。」
「そうだが、おぬしは誰だ。」
キーロより5、6歳は年上であろう老人に聞かれ、キーロは高圧的に返す。
キーロは神に選ばれたということを誇っており、それゆえ地上の人間を見下している。
しかし、相手は自分より年下(本来は年上だが)の存在に高圧的に返され、険悪な雰囲気をまとっている。
「・・・まあいい。儂はイノード族の族長のアドという。それでおまえの名は。」
「私は・・・旅人のキーロという。要求は食糧の確保だ、それができれば何か一つ手伝ってやらんこともない。」
老人は何かを飲み込んだような顔を一瞬したが、名をアドといい族長をしていると紹介する。
が、それに対してもキーロは高圧的に返し、キーロの要求を突き付ける。一応交換条件のようなものも出したが、言い方が言い方だけにイノード族はさらに険悪な雰囲気を増す。
キーロは自身に全能神の力があるため、このような奴らには負けないと思っている。
それは確かにそうなのだが、
「貴様さっきから聞いておれば!」
と、アドの周りにいた槍をもった一人の青年がキーロの態度に我慢ならなくなり攻撃を繰り出してくる。
油断していたキーロは思いのほか素早い攻撃に反応できず、その攻撃を受けてしまう。
「グアァーー!」
攻撃をした青年は槍が通らなかったことに目を見張っていたが、キーロはそれどころではない。
そう、いかに全能神の力があっても、それを使えなければ意味がないのだ。
キーロは元々知識神であり、それゆえにアステールを目の敵にしていたのだが、人間だったころにも喧嘩やその他のことなどまったくやったことのない人物なのだ。
つまり、人間の体である限り傷は浅くても痛みは感じるのだ。生まれてこのかたこの手の傷を負ったことのないキーロは転げまわってしまう。
「もう許さんぞ貴様ら!」
そして一通り転げまわったキーロはイノード族の方に突っ込んでいく。
それにアドの周りに数名いた戦士風の男たちが臨戦体勢に入る。
そしてキーロは全能神の力を使い暴れる。
そう、暴れるのだ。確かに全能神の力を持っているため一発でも貰えば死ぬ危険もあるのだが、キーロの戦い方は型もなにもあったものがない子供の癇癪のようなものであった。
戦士たちはその攻撃を避けつつ確実にキーロに傷を与えていく。
キーロはいちいちそれに反応するため、さらに隙が増えるという悪循環に陥っている。
「くそっ・・・貴様ら!覚えておけよ!」
そして、さすがにこのままでは殺されてしまうと思ったキーロはそう捨て台詞をは吐くと、全能神の力を全力で使いその場から去る。
「なんだったのだ奴は・・・」
それはこの場にいる全員の気持ちだった。
-------------------------------------------------------------------
「くそ、なんて奴らだ・・・」
イノード族から逃げてきたキーロはかなりの距離を走っていた。
全能神の力で息切れなどはしてないが、こういったことに慣れていないキーロは精神的まいっていた。
本来キーロが想定していたのはアステールの近くに出現し、アステールを跪かせ連れて帰るという簡単な仕事のはずだった。
しかし現実は謎の人間に襲われ(向こうも同じ感想だが)、もうあたりは真っ暗になっている。
「くそ、今日はもう眠るか。」
そしてキーロは魔物のでる森でなんの作業もせずに眠ろうとし始める。
『知識神』が「無知」というのは皮肉にもならないが、キーロはそれに気づかぬまま眠りはじめた。
「ふぅ・・意外と寝れるものだな。」
だがキーロの運はいいようだ。無事朝を迎たキーロだったが、残念、一晩中運を使い続けたせいで無くなってしまったようだ。
あくびをして起き上がろうとしたキーロの前に巨大な禍々しい顔が現れる。
「へ?」
その禍々しい顔に、キーロはその年老いた体のどこ体のどこから出しているかわからない声を上げた。
「グオォォアァァ!」
「おおおぁぁぁッ!?」
その巨大な魔物の上げた咆哮に負けず劣らない叫び声をあげ、キーロは走りだす。
キーロを追っている魔物は「テードルダル」というSランクの魔物でこのあたりの主であった。
テードルダルの厄介な特徴がかなりの速度が出るうえにその皮膚は防具にも使われるほど固いのだ。
そのテードルダルはちょうどいい朝飯にありつくため、人間には出せないような速度で逃げるキーロを
必死に追いかける。
「はっ、はっ、何故っ私がっこんなっことをーーー!」
「グオォォアァァ!」
「ヒィィぃー―!?」
昨日からの不幸にキーロは現状を嘆くが、後ろから迫りくる捕食者にはそんなことは関係ない。
ちょこまかと逃げる獲物にテードルダルは苛立ったように叫ぶとキーロのつられたように悲鳴を上げる。
「!?」
そんな鬼ごっこをしばらく続けていると、キーロの前方の道が途絶えておりキーロは絶句する。
しかし、向こう岸が見えるためあそこまで行けばこの魔物を巻けると考えたキーロは、
「ええいっ、ままよ!」
崖を飛び越える覚悟を決め、さらに加速する。そして、
「トォーーリャァ――!」
「グオォ!?」
いっきに踏込み、向こう岸まで跳ぶ。それに驚いたようでテードルダルは今までとは違う叫びを上げる。
「よしッ!どうだっ見たかッ!」
キーロはかなり運がいいようだ。
ぎりぎり向こう岸に着地できたキーロはテードルダルに向かって勝ち誇ったようにする。
テードルダルにそれが通じたかどうかは定かではないが、空にむかって「グオォォゥ!」と悔しそうに吠えているのを見てキーロは得意そうに鼻を鳴らすと森の奥に入って行った。
-----------------------------------------------------------
「くそぉ・・・、あの魔物め。」
しかし今魔物のと激闘(鬼ごっこ)をしたキーロは絶賛空腹に悩まされていた。
元々食糧を得るために歩き回っていたはずなのに余計に腹を空かしてしまったキーロ。
しかし、キーロの受難はこんなものではなかった。とぼとぼと歩いていたキーロの目の前に突如虎の顔が現れる。だが、大きさが異常だった。
通常の虎の四倍の大きさがある虎の顔がさらに動きその全体を現す。
テードルダルより小さいが、十分巨大な体がキーロのことを見止めると、
「ガァァオォゥァッ!」
「またかぁぁーーーーッ!」
天高く咆哮を放つ。
そして、キーロの叫びもまた天高く響くのだった。
あれから三日、キーロは途中で見つかる木の実でなんとかしのぎつつさまざまな困難を体験していた。
まずあの巨大な虎をまぐれであたった拳で沈めた。
そうすると遠くに煙がみえたので、そこにいる人間になんとか助けてもらおうとする。
しかし、そこにいたのは最初にあったイノード族であった。どうやら一周回ってきてしまったキーロは
槍の餌食にされそうになりながらまた走り回っていると、なにかにぶつかった。それはあのテードルダルであり、それをまた崖を跳び越えることで逃げ切る。
そして一度目と反対方向に向かうと、そこでは普通では考えられないほどでかいムカデの大群に追いかけられる。
似たようなことがそれから三度ほどありキーロはもう眼の光を失っていた。
そして「もうどうにでもなれ。」と言わんばかりに座り込んでいるキーロのすぐそこの茂みがガサゴソとなる。キーロは、ここまでか、と思っていると、
「やっとみつけましたマスター。」
そこからやってきたのはキーロが生み出した天使であった。
そこから天使に連れられ森をでたキーロはこの三日ほどとは打って変わったような順調な調子で、四日をかけアステールのいるエルメニア王国のエレメーヌに向かったのであった。




