出会い 5
他愛ない雑談をしていたら静かに扉が開く。白金の、長い髪の女の子。キステットはミステリアスできれいな子だ。
隣にいるのは彼女の……。背が高くて、しっかりした体格。鍛えているように見えた。高い位置で一つに結んだ茶色い髪が揺れている。
「キステット! その人が?」
ララが聞く。ええ、と短くキステットが答えた。……キステットはなんというか、とても冷静だ。大笑いしている所を見たことがない。
「うん、あたしはソーチャ・マル。キステットの守護魔術師になったんだよ」
親切そうな、まっすぐな笑顔を見せてくれた。ちょっとキステットとは逆の性格に見えるけれど、なんとなくうまくいきそうな気がする。
「んー? ソーチャ・マル。あ、”猛火の女騎士”の娘さん」
キャトラがソーチャを見つめる。猛火の女騎士?
「あはは、ウチの母ちゃんはもうパン職人だって。凄腕のね?」
「ソーチャもなかなかできる魔術の使い手だって評判じゃない。まさに嵐のごとく、みたいな」
知らないことが多いな、と改めて実感する。……パン屋さんっていっぱいパンを食べられるのかな。ここでもおなか一杯食べさせてもらっているのに、ちょっとそう思っちゃった。
「照れちゃうなあ。えーっと、ごめんね。何て名前なの?」
「気にしない気にしない。私は超一般人だから。名乗りましょう、キャトラです!」
「キャトラ、かわいい名前だね。よろしく」
すごくさわやかな人。キャトラとはまた別の意味で大人だ。お母さん? どんな人をお母さんみたいだって思うのかはわからないけれど。
「ねえねえ、猛火の女騎士ってなあに?」
小さな声でルイカに尋ねる。
「別に普通に聞いてくればいいだろ。三十年くらい前の西方の反乱で活躍した女性。炎の魔術を使わせると右に出る者はいないと言われていた」
反乱。この国は長い間他国と戦争はしていないけれど、反乱はまれに起きているそうだ。ほとんどがすぐに鎮圧される程度の規模だけど、ひどくなってしまったケースもあると聞く。西の反乱もそのケースだったのだろう。
「ソーチャのお母さんに教わりたかったなー」
「あはは、教えてくれるかはわからないけどいつでもおいで」
わーい、とリリとララが声を上げる。そうこう言っているうちにまた扉が開く。
「レーチェ、ただいま戻りましたわ!」
薄い茶色のまとめ髪で、ちょっと特徴的な口調の子。恋愛にとても詳しい。彼女の守護魔術師は、どうやら黒に近い茶の、長い髪を結んだ男の人。顔つきを見る限り、学校の上級生か、もしかしたら卒業しているかも。
「これで全員なのかい?」
男の人がレーチェに聞いている。まだまだいますわよ、と答えていた。
***
自己紹介を終えて、やっと夕食にすることになった。さっきの男の人はジードル・カンナチード、四年生。魔術医を目指している特待生。あまり自分のことは話してくれなかったけれど、ここまでは教えてくれた。どうやら学校の人はみんな彼を知っているようだったけど。
いつも通り配膳のお手伝いをして(今日はいつものララに加えてリリ、ソーチャも手伝ってくれた)、自分の席について、心の中で神様たちにお祈りする。
今日も豊かな恵みをありがとうございます。簡単な祈りだけど、大切だと思う。
「……なあ、いつもこんな食事なのか」
体を寄せてルイカが小さい声で話しかけてくる。特にルイカが驚くような物は見当たらない。いたって普通に見える。
「そうだよ? どうしたの?」
「……羨ましい」
普段何を食べているんだろう。ちょっと怖いけど聞いてみる。
「いや、別に変わったものは食べていない……と思う。毎日同じものだからつい」
いろいろ教えてくれる。トリカさんが用意する食事は例外なくパンと適当な食材を突っ込んだスープなのだという。味は微妙なずれがある気がするが、誤差。朝も晩も、時には昼も毎日同じメニューが一年も続くといい加減飽きてしまったらしい。
「食後の菓子だけが楽しみだった」
小さなため息をつく。気の毒……なのかな……?
「自分で作ればいいのに」
キャトラが会話に参加してきた。ちょっと正論だと思う。
「……作り方がわからないし」
「あ、じゃあ、わたしと一緒に練習しようよ! わたしもあまりお料理とかできなくて」
一緒にお菓子作りをした皆は、そこそこ料理に慣れているように見えた。頭や心ではなく体に残った経験というか。一方でわたしは、ちょっと手際が悪いと言われてしまった。普通に動いていた気がするのだけど。
「……そうだな、いいかもしれない」
優しい顔を見せてくれた気がする。トリカさんにも食べてもらえるといいよね。もちろん、皆にも。
「お菓子もいっぱい作ろうね。……えっと、甘いもの、苦手じゃないよね?」
たまに、甘いものが苦手な人がいる。たとえばノイラとか。お砂糖の溶ける匂いもあまり好きじゃないと彼女は言っていた。
「大丈夫。甘い物は好き」
「そっか、それならよかった!」
ルイカの好きなものを一つ知ることができた。これからどれだけの時間を一緒に過ごすのかはまだわからないけれど、少しずつでも彼が何を好きで、何が大切で、何をしていると楽しいのか。そんなことをたくさん知っていきたいと思っているし、わたしもできる限り、迷惑にならない程度に、自分のことを伝えていきたい。
ほとんどまっさらなわたしだけど、それでもちょっとは自分のことを知っている。




