出会い 4
ルイカの荷物を整理していたらあっという間に夕飯時になった。彼の部屋はいつまでこのきれいなままでもつのだろうかと心配しつつ、食堂に向かう。ちなみに、わたしはきっとそう遅くないうちに散らかるだろうと予想。ルイカは否定していたけれど。
「あ、リティ! そっか、その子が守護魔術師の子なんだ」
食堂に入って最初に声をかけてくれたのはあご下くらいの長さの赤みがかった髪の、小さな女の子。彼女の名前はララ。理由は覚えていないけれど魔術を学んだことがあるみたいだと言っていた。
そして、その隣には彼女にうり二つの女の子が座っている。
「ララ、えっと、隣の……」
「うん。リリって言うんだって。そっくりでしょ?」
そっくりだ。まるで、双子のように。
「そうよ、すごいよね。他人の空似ってこういうことを言うのかしら?」
天真爛漫な笑顔でリリは会話に入ってくる。何か有無を言わせない雰囲気を感じて、そうかもとだけ答えた。
「あなたがリティなのね! ララが言ってたの。大人っぽい組だって」
「そ、そうかな。わたし」
七人とも同じ十五だから、そんなに違いはないと思う。それに、どちらかといえばわたしは幼い気もした。
「それでその子は? 名前!」
「……ルイカ・グルシユ」
人にぐいぐい来られるのは苦手そうだ。うすうす感づいてはいたけれど。
「リリが持ってきてたのと同じ制服だよね。リリも今年からだって! 何年生?」
「今年から二年」
先輩だって! とリリとララは二人楽しそうに話し合っている。
「えっと、ルイカさん? 講義で困ったら教えてくださいね!」
リリが丁寧な口調でルイカに話しかけた。
「いつもの話し方でいい。あそこは学年だとかどこの誰だとか気にしない人間の方が多いんだ」
「よかったー! 気が楽!」
リリは一気に軽い口調に戻る。かわいい。それにしても、そっか。一つだけわたしよりお兄さんなんだ。
「ねえねえ、何が得意なの?」
「生物を強化する魔術。得意というか専攻だけど」
「へええ! 私はね、夢に関する魔術を選ぶ予定なの。両親は医療系の魔術をやったほうがいいって言ってたけどね」
二人、楽しそうに会話をしている。ララも興味深そうだ。
「いいなあ、リリは。私も同じように勉強したかったな」
「……できるよ、しようよ。これから一緒に学校に行くの!」
一瞬だけリリは悲しそうな顔をして、すぐに楽しそうな表情に戻った。
***
「お邪魔しまーす!」
「キャトラさん、静かに!」
学校のことやここの暮らしのこと、自分たちのことを(ほとんどわたし達三人がだったけど)話していると、扉をばーんと開けてこげ茶色をしたショートカットの女の子が入ってきた。スタイルがいい。あと、服装が、大胆だ。
後ろからついてきたのはほとんど灰色に近い黒髪をおさげにした眼鏡の女の子。ノイラだ。とてもまじめな性格で、なにかちょっとした問題が起きた時にいつも解決方法を考えてくれる。
「あ、ルイカ・グルシユ。あなたもだったの? というか、なんで制服?」
「ルイカ、知り合い?」
ルイカが否定した。確かに接点がなさそう。
「どうしてルイカのことを知っているんですか?」
「警戒してる? なんちゃって。そりゃ、メートリカさんの弟だからよ」
トリカさんの名前が出て彼はいやな顔をする。どうしてだろう。トリカさん本人とは仲良しそうに見えるけれど。
「トリカさんの弟だから?」
「メートリカさん! メートリカさんは結構魔術師的には有名人なんだよ。弟だったんだ」
リリがトリカさんのことを教えてくれた。入学時にはどこにでもいる普通の学生だったのに、それから一気に成長して今や魔術師組合の若手で――もしかしたらもう少し上の世代の人を含めても――トップクラスの実力があるのだと。
その話を聞いているルイカの表情を見て、なぜか心がざわついた。
「それはどうでも? よくないかしら。いっか。で、なんで制服? 休暇なのに」
「学校の図書館に行ってただけ」
「へえ、勉強熱心ねえ」
多分、ほとんど適当な返しだと思う。次の話題にもう行きたいのだろう。
「キャトラさんも学生なんですか?」
キャトラさんが微笑む。
「そうよ、三年生。今度ね」
「キャトラは何を専攻してるの?」
リリが会話に入ってくる。本当に魔術が好きなんだな、とほほえましい気持ちになった。
「まー、そうね、いたずらに使える? みたいな。専攻的には呪いとかそんな感じになるのかな」
「そうなんですか。えっと」
次をなんと言えば傷つけないのか迷った。似合っているも変だし、意外だも嘘になってしまう。でもいやだとか怖いという気持ちもなくて。キャトラさんはそんな術であっても多分ちゃんと扱える人のような気がする。
「いいわよ、そんなにきっちりしなくても! ウチの学校流にキャトラでね?」
「……う、うん。分かった」
キャトラさん、ううん、キャトラが椅子に座る。ルイカの隣。キャトラが嬉しそうにしているように見えた。どうしてだろう。
「ふむふむ、男と女だといろいろと大変じゃない? 結構あそこ壁薄かったわよ」
「同じ部屋じゃないから大丈夫だよ。でもそれなら静かにしないとだめだね」
にやにやとしている。たとえば、そう。何か面白いことを思いついたかのような。
「ルイカ君的にはどんな感じ? 大丈夫? 女の子得意そうには見えないけど」
「……大丈夫」
大丈夫だと言われて、ちょっとうれしい。わたしは危なかったり不安に思うような人ではないと思ってくれていることが分かったから。
「うんうん、これから期待って感じ?」
大人の余裕を見せているようなほほえみ。わたしとそんなに年が違わないのに、とっても大人っぽいというか、色っぽい雰囲気がある人だ。
向かいではララとリリ、ノイラが話している。話題は明後日から始まる学校のことのようだった。ノイラも魔術、というか学校に興味があるようだったから楽しみなのかな。
「ええと、今三組だからあとまだ半分も来てないの? お腹すいたよね、リティ?」
キャトラさんがわたしを見る。忙しくて忘れていたけど、お昼を食べていなかった。言われたら急にお腹が空いてきた気がする。
「セラは今日遅く帰るって。コルネーヤはちょっと用事があって後で降りてくるの」
「じゃあキステットとレーチェ達が来たらご飯だね」
皆の守護魔術師に会うのが楽しみだと思う。きっと素敵な人たちだろうという根拠のない予感があったから。




