出会い 3
神殿の敷地内の、中心的な場所から少し外れた静かな場所に巫女の家はある。大きな二階建てのお屋敷。
ルイカは特に反応を見せない。興味がないのかな? 言われてみれば大きいだけで巫女の家なんだとわかるようなものはないけれど。
「ここがわたしたちの家だよ」
笑顔で歓迎する。気に入ってくれると嬉しいな。
でも、それより今は荷物が重そうだった。わたしは軽いものだけ持たせてもらっているけど、残りは全て彼自身が運んでいる。
筋力を高める魔術を使っているから平気だと言っていた。でも、多分筋力よりも持久力を高める魔術の方が良かったと思う。
それとも両方必要だったのかも。何も知らず重い物を持って歩いているのを見たら、少し心配になりそうな姿だから。
それも含めてとても疲れているように見えた。道中会話もほとんどしなかったし。
「リティ。おかえりなさい。その方が守護魔術師なのですか?」
巫女の家だけではなくて、神殿中の生活の場を担当している職員の女性が出迎えてくれた。
「ただいま。はい、えっと」
「ルイカ・グルシユです」
一瞬彼女の顔に呆れが浮かぶ。
「グルシユ……ああ、あの。お姉様にまた後日職員がお訪ねしますとお伝えください」
「機会があれば」
丁寧だけど厳しさを感じる。何かがあったのだろう。
……トリカさんは楽しくて良い人なのは知っているけれど、どこか何かをしでかしそうな雰囲気はある。
「さて。荷物は部屋まで持って行かせますから、まずは家の中をご案内しましょう。聞きたいことがあったらお尋ねください」
彼女は咳払いをして扉を開けた。いつもの甘い、花のような匂いが家から出ていく。
すぐにホール。そこを中心に左右と上に空間が広がっていく。白と木の色ばかりだ。明るすぎて、時々落ち着かないけれど。
「主に一階は食堂やバスルームといった設備全般、二階は皆様のお部屋です。まずは一階から――」
右へ歩く。応接室だ。たまにお客様が来る時に使う。
巫女が決まった後、役人さんがたくさん来て、その度に使った場所だ。
そこまで格式のある場所ではなく、本当に大切なお客様をお迎えするのは神殿のそばの館。だから、室内もそこまで煌びやかではない。
「こちらは談話室です。皆様の憩いの場ですね」
また歩くと談話室。この部屋は壁紙もカーペットも、ソファも暖かくてやわらかい色をしていてほっとする。ここで遅くまで皆とお話をするのが好きだ。
ボードゲームもいくつか置いてある。とても強い彼女はあまり相手をしてもらえていない。わたしは弱すぎて戦いにならないのだそう。
「夜なら皆大体ここにいるんじゃないかな。仲良くなれるよ」
短い返事。あんまり興味がなさそう? 出て今度は左側へと向かう。
「こちらは食堂です。奥の台所もご自由にお使いください」
清潔な壁と床、全部で十六脚ある椅子が入っても余裕のある長ーいテーブル。奥の台所は、職員さんが使っていないときは自由に使ってもいい。
食材も使っていいと言ってくれるけれど、外に出られるようになったから今度からは、できるだけ自分たちで用意したい。
「この間、皆でお菓子作ったんだよ」
神殿図書館で借りたレシピの本を見ながら作ったお菓子はとてもおいしかった。また食べたいな。
「菓子作り?」
「えっと、うん。わたしはあんまりうまくできなかったけど……どうしたの?」
「……いや、うん。何でもない」
少し何かを考えていたように見えた。意外だ、みたいな驚きだったのならちょっとだけ悲しいかもしれない。
今度は浴室に向かう。
「こちら浴室です。二階にも小さいものではありますが、備えていますので必要があれば」
ここはお手洗いで、ここは脱衣所でといろいろ説明を受けている。
そういえば。今は二組に分かれて時間をずらして入っているけれど今後はどうするのだろう。
五人入るとちょっと狭いくらいだから、三組に分かれるのかな。男女比はどうなんだろうか。
「あの、守護魔術師の皆って男の子と女の子何人ずつなんですか?」
「男性が三名、女性が四名と聞いております」
それなら女の子を二つに分ける感じになるのかな。六人はちょっとつらい気がするから三つに分けようと提案しよう。
***
部屋へ向かうために階段を上る。ずいぶん歩いた気がして、ふと疑問に思う。
「そういえば、どんなに狭くても広くても同じ“建物”なんだよね。不思議」
守護魔術師とは一緒にいなければならない。ただし、同じ敷地内であれば大丈夫。この決まりの“建物”の範囲はあいまいで広かった。
「まあ、魔術はそういう部分もある。魔術じゃないけど同じ考え方なんじゃないかな」
「えっと」
あまりピンとこない。思わず首をかしげてしまう。
「ま、イメージされているより客観的なものじゃないってことだ。つまりは」
「んー……でも、そのおかげで同じ部屋でみたいなことにならなくてよかったよね」
さすがに、男の子と女の子が同じ部屋で暮らすのはやりにくいだろう。着替えだったりそのほかいろいろだったり。
「あ、ここ! ここが部屋だよ!」
二人より一歩先を出てドアを開ける。ブラシやリボンを机に置いたままだったのに気づく。
「誰かもう住んでいるようだけど」
「あ、えっとね、今朝片付け忘れちゃって……」
ルイカの顔が引きつった。
「さっき同じ部屋じゃないって言ったよな?」
声がちょっと怒っているように聞こえた。
「違う部屋だよ! わたしの部屋はあの奥!」
「ほとんど同じ部屋だろう!」
やっぱり怒っている。理由があまりわからない。ドアで区切られていればそこはもう別の部屋、場所だと思う。部屋の範囲も人によってあいまいなのかな。
「伝統に則って巫女を守るような間取りになっていますが。何か問題でも? 後ろめたいことがあるのですか?」
「……そんなことはないですが……」
「であれば何も問題はないですよね?」
反論を封じるような言葉。ルイカにとって何が問題だったのだろう。
「……わかりました」
しぶしぶという言葉が似あう態度だった。……わたしの部屋から廊下に出るには毎回ルイカの部屋を通る必要がある。それが鬱陶しいから?
「さすがに鍵はあるよな?」
「うん。ルイカの部屋とわたしの部屋、両方にあるよ」
二つ鍵を見せる。ちょっと安心してる? ドアを見て何かに気づいた顔をした。
「これ、リティの部屋からは閉められるけど僕は閉められないと思うんだけど」
「そうだね」
そう言われたらそうだ。安全上の問題なのかな。何か考えている様子だった。
「……わかった。部屋から出るときは合図してほしい」
何が言いたいか分かった。誰にだって安心して一人になれる空間は必要だ。わたしだって同じ。誰にも見られたくない自分を出せる場所が欲しい。
ルイカみたいに大人しい人ならなおさらだと思う。尊重したい。
「わたしの部屋も見てみる?」
「やめとく」
たぶん、そう答えるだろうとは思っていたけれど。他人の部屋には興味がなさそうだから。




