雫を見つけて 3
眠れないのを無理やり寝かしつけられて朝が来た。今は何時なんだろう。当然、時計はここにはない。スープをよそってくれている。穀物がスープの中に入っていた。麦なのかな。
昨日食べなかったから、お腹が空いている。そうなると、昨日あれだけ食べる気がなかったのに食欲も出てきた。生きているんだなとなんとなく思う。
「セルヴィニアは食べられるの?」
彼女の分はないようだけど、頷いた。
「うん。食べなくてもいいし、食べてもいいみたいなんだ。だから選んでいるんだよね」
中途半端で曖昧な存在なのだとセルヴィニアは言う。よくわからないけれど、彼女はそれでいいのだろうか。
「セルヴィニアは――」
その時、大きな爆発音が聞こえた。セルヴィニアが目を見開く。
「リティ! いるか!」
彼女の身長より長い杖を持ってセルヴィニアがわたしよりも早く表に出た。ルイカの声がする。寝起きなのもあって、急なことで頭がうまく働かない。
「なんで、なんで来たんだ!」
セルヴィニアが叫んでいた。後ろから外に出ると皆が居た。ほっとした表情をしている。来てくれた喜びと、これから起こることへの不安。そのどちらもある。
「よかった! ケガしてない!?」
キャトラがおそらくチィの作った鉄の生き物達に守られていた。それは巫女達やリリ、ジードルも同じで、多分戦うのに向いているか向いていないかなのだと思う。
「大丈夫! 皆、どうして!」
セラが顔を出した。
「秋ごろに予言があったのです。一人の巫女を見捨てるなと」
思い当たることがあった。あの時セラが珍しく声を荒げていた。それが、これと関係があったなんて。
「でも、あいつらがそれだけで許すとは……!」
セルヴィニアが憎しみを込めた口調で言う。ああ、となんとなく悟った。彼女はわたしによく似たあの子と、神殿の人たちのせいで別れたんだ。きっと、とてもひどい方法で。
「そうですね。それだけではありません。続きがありました。見捨てなければ巫女は欠けず、見捨てれば先は分からぬ。おそらくあの方々は自分たちに害が及ぶことを恐れたのでしょうね」
セラは穏やかで静かな表情で話す。わたし達に伝えられないのがセラにとってとても辛かっただろう。だからあんなに冷静さを欠いた様子だったんだとようやく分かった。
「理解したよ。そうだね。あいつらはそんな奴らだ」
「そんな話はどうでもいい。早くリティを!」
ルイカのことをセルヴィニアは嫉妬を込めた目で見ている。まるで、どうして私ができなかったことをできたのかと言っているように思った。
「嫌だ! リティはもう私と行くんだよ!」
……はっきり、言わないといけない。セルヴィニアとは行けない。皆のところに帰りたいと。そう思って小屋から出ていく。セルヴィニアに向かい合った。
「セルヴィニア。皆のところに帰して。君と一緒には行けないの」
セルヴィニアは目を伏せた。次の瞬間に、怒りを込めた目で振り返る。
「行かせない! 帰さない! お願い、力を貸して!」
セルヴィニアが杖を天に掲げた。木が、土が、草が人型になっていった。皆に向かって敵意のある動きで歩いている。手が刃の形に、もしくは槍のように尖った形に変形していた。
「皆! 逃げて! もういいから!」
思わず叫ぶ。怪我をしてしまう。怪我で済めばまだましだ。最悪の場合を考えて背筋が凍った。
「大丈夫だよ、リティ。あたしたちだって魔術師なんだ! あはは、それに春からは魔術騎士だよ? あたしとティトラスは!」
ソーチャが炎をまとった大剣を軽々と振り回して薙ぎ払っていく。そう、木と草。どちらも簡単に燃えてしまう。それでも巻き込まれた土の人型が強度を増してしまって、剣がはじかれるようになった。
「あー、やっちゃった。ティトラス、頼んだよ!」
「はいはい、分かりました。さあ、砕けるといい。土器は衝撃に弱いだろう?」
そう言うとティトラスは剣とは逆方向に持っている透明な何かで殴った。がしゃんと音を立てて人型が砕け、大きなかけらの塊になる。何を持っているんだろう。持ち方を見ると盾のようだけど。
「ほらほら、戦えない組は戦えないなりに役に立つように。このぼくの鉄の人形たちを操作しなさい」
偶然モチーフが被ったのは遺憾だけどねと言いながらチィは巫女達に鉄の棒を渡す。なんだろう。
「適当にこうしろーって考えながら振り回して。そうすればいい感じに動くからさ」
近寄ってくる人型を鉄の人形たちが蹴散らしていく。それでも漏れがあるようで、彼女たちを襲おうとする人型もいた。
「ま、人体を切るときの応用だよね。リリ」
守っている鉄の動物達をがんがんと殴って壊そうとしていた人型をジードルが見えない刃で切り裂いた。それを見て気付いたようにリリが同じように人型に向けて刃を放つ。
「ルイカ、ビビってるね? いいよいいよ! 気にしない!」
「ビビってない!」
ソーチャの言葉に強気にこたえるけれど、明らかに強がりだった。普段握ることのない剣を握るのも何とかな状態に見える。魔術による身体能力の強化だけで渡り合っているような。
かろうじて受け止めて、ようやく切り返す。そんな感じ。危なっかしい。
「ルイカ! 無理しないでね、怪我しないでね!」
思わず声をかけた。
「無理しないって」
急に腹が決まったように落ち着きを取り戻した。すうっと剣を構えている。
「持ち方が違いますよ。いい力の抜け具合ですが」
ティトラスが余裕のある笑みを浮かべた。ルイカがそれを受けて少しむっとしているのが見える。こんな状況だけど、皆のいつも通りのやり取りを見ていると何とかなる気がした。
***
「……これで最後だねっ!」
最後の人型をソーチャが真っ二つにする。灰になってぼろぼろと散っていく。
「さあ、降伏しなさい。これ以上は無駄だとわかっただろう?」
ティトラスが降伏を促す。セルヴィニアは首を振った。
「まだだよ。まだ、これからだ!」
もう一度杖を掲げた。辺りの自然からまた人型が生み出される。
「これ、きりがないんじゃないの!?」
鉄の動物たちの守りから離れて逃げ回っていたキャトラが呆れたように叫ぶ。
「うん。きりがなさそうだね」
チィがどうしようかなあとソーチャに問いかける。
「向こうが魔術使えなくなるまで待つ!」
「ううん……じゃあ私の出番かも。呪っちゃうわよ」
いつからか話を聞いていたキャトラがぐるぐる指を回してセルヴィニアに突きつける。もやもやした、何か嫌なものがセルヴィニアにまとわりついた。
「力が……!」
セルヴィニアが苦々しい表情でキャトラを見る。当の本人はわたしに向けてウインクをして、集中攻撃を始めた人型たちを撒いていた。
「チィ、私を中心に守って! あの女から削るわ!」
「え、手が足りないから無理! 自力で頑張って」
キャトラがチィに向かって悪態をついている所に、ノイラが棒を振って鉄の人形を一人、一つ? キャトラのもとに向かわせた。人形はひょいとキャトラを抱き上げる。
「ナイスぅ! 流石ね、ノイラ!」
「当然のことをしたまで。何かあったら嫌ですし」
皆の力でどんどん人型達は数を減らしていく。これなら、この調子なら何とかなるかもしれない。




