雫を見つけて 1
能力が目覚めてから二日経った。ずっとベッドで横になっている。ご飯もちゃんと食べられていなくて、職員さんに心配されてしまった。あまり体調を崩さないから、その分きつい。
この二日間で分かったことは、わたしの能力は人を探すこと。わたしのいる所からある程度の範囲にいるなら、人づてにでもどんな人か分かれば会ったことがなくても、その人を見つけることができる。でも、何人でもというわけにはいかなくて一日に六人だけ。
昨日も今日も続けて六人を見たから疲れてしまった。……これがわたしの本来の仕事だから頑張らないと。
でも、そのせいでルイカは二日も学校を休んでいる。試験はそう遠くないのに。どうにかして体調を整えて、一日でも早く行けるようにならないといけない。
「おかしいわ。リティだけ働かせすぎよ。私たちの時は最初のころ、しんどくなったら交代で回してたのよ。交代するぐらい人が来たのも数回だけだったけど」
様子を見に来てくれたララが不満を露わにする。それでも、数少ない例外を除いて少なくとも一人は家にいないといけない彼女たちと比べると、見るだけ見ればもうその日は終わりなわたしの方が恵まれている。
「大丈夫だよ、職員さんも祭司様たちも、考えてくれてる途中だと思うの」
むー、とララはまだ納得していない様子だ。本当に、優しい子だと思う。
「色々気にしちゃダメよ。学校のことも。ルイカにはジードルがしっかり教えてくれているんだから。ジードルって教え上手なのよ。医療魔術の勉強会の時はすっごく厳しいけど、それ以外のことは優しいし」
手を握って励ましてくれる。やわらかい。
「うん、ありがと。気にしないように頑張ってみる」
「頑張らなくていいのいいの! ゆっくり休んでれば、いつか慣れるもの。私たちからもどうにかリティが楽になれるようにお願いしてみるからね」
にっこりとした、天真爛漫な笑顔。リリとよく似たそれは、彼女同様に元気を分けてくれる。
「……うん」
「さあてと、リティもそろそろだらだらしたいでしょ? 私、そろそろ降りるね。ちゃんと寝ること!」
まるで小さい子扱いだと苦笑いしながらララを見送る。一人になると、痛みがまたひどくなった気がした。話をしていたのがちょうどいい気晴らしになっていたみたい。でも、早く寝ないとだめだ。また明日も仕事があるんだから。
皆と違って一年間免れていたにも関わらず、たった二日でほんの少し能力を持ったことを後悔しているのが情けない。ううん、女神様のくれたこの力のおかげで、トゥエナちゃんは見つかったんだとその考えを追い出した。
***
「ん……」
体を起こしたとき、がたんと物を落としてしまった。体がぐらぐらと揺れている気がする。眩暈だ。もっぱら今は頭痛とそれにまつわる不快感で状態は落ち着いている。
重だるさはなくなったから体は動くだろうけど、その代わりに目が回ってしまうし、気持ちが悪い。今はいつぐらいだろう。夜明けまでまだ時間があるのかな。
「リティ、起きたか?」
ドアの向こうから声がする。起こしてしまったのかもしれない。
「うん。起こしちゃった? ごめんね」
「今、入っても……ごめん、聞かなかったことに」
驚いた。鍵は開けているから、誰でも入れるようになってはいるけれど、男の子を、しかもずっと寝ていたからちゃんとした格好じゃないときに入れるだなんて。普段のわたしなら大慌てで断っていたと思う。
でも、今のわたしは少し心細い。彼の顔が見たかった。
「ううん、来てほしいな」
静かにドアが開く。気まずそうな顔。彼から入りたいといったのに、とちょっと面白くなってしまう。
「どうしたの?」
「ずっと顔を見てなかったから、大丈夫かと心配になって」
そういえば、あの晩から会っていなかった。事情を聴きに来た祭司長様と、職員さんと、女の子達しかこの部屋に入っていない。気遣ってのことだと思う。
「そうだね、わたしも会いたかったの」
彼は目をそらした。どうしたのだろう。
「気にしなくていいから。何も。君の体調の方がずっと大事だ」
もしかしたら、これを伝えに来てくれたのかもしれない。私が無理をしないように、直接。
「……わかったよ。気にしないね。気にしないで、早く治すよ」
ルイカがもやもやした顔になった。何か変なことを言ってしまったかな。うーん、あまり気持ちが探れない。いつもはもっと分かりやすい人のはずだ。複雑で、わかりやすい人。
「だから、忘れろって言ってるんだよ」
申し訳ないけれどわたしの性格上それは難しいのかもしれない。どうしても気になってしまっているようだ。
床に膝立ちになったあと、ぱたんと倒れこんだ。そのまま体だけ横向きになってわたしを見ている。下敷きになっていない方の手をわたしのほうへ伸ばした。あと少しで届かないそれに向けてわたしも手を伸ばす。
たいして意味のない行為だけれど、触れたときになんとなく互いが今望んでいることなんだと分かった。彼の力が入っていない手の重みに心が安らぐ。
「まだ夜明けまで結構ある、早く寝た方がいい」
それが分かるということは、日が沈んだ後しばらくして時計が止まった時から起きていたということ。
「わかった。ありがと」
一度手をぎゅっと握られる。こんな時なのに、どきどきしてしまうのを止められない。一瞬頭の痛みを忘れるくらい。
「それじゃ。おやすみ」
手が離れていく。もったいないなと思った。
「うん。おやすみなさい」
寝る前の挨拶を交わしたはずみで大好きだよと口から出そうになって、ぎりぎりのところで止める。今、この状況で、わたしが言ったらそれを冗談だとごまかすことは、たぶん無理だろう。こんな時じゃなくて、あるいは私ではなくて、それならごまかしきることができるかもしれないけれど。
布団にもぐりこんだ。ここ数日、覚えていないけれどあまりいい夢を見ていなかった気がする。だけど、今日はいい夢が見られる気がする。




