言い訳デート 5
コルネーヤ達よりも一足早く家に着いた。もうこれ以上見守る必要はないと判断したから。
「おかえりー。早いね」
談話室に入るとすぐにキャトラがクッキーを齧りながら首だけ振り返った。なんだか見覚えのある模様だ。
「ただいま。……あれ? なんでクッキーがあるの?」
ララとリリがあっと声を合わせた。皆にお茶を入れていたノイラが、呆れたように彼女達を見る。
「トリカさんからお土産もらったのよ。行ってたみたい」
ノイラが肩をすくめた。なんだか、全体的に違和感がある。
ルイカはクッキー缶を見ていた。わたしたちが買ったお土産と被っちゃったみたい。
「コルネーヤ達はどうなったの?」
「えっと、三人でお友達から始めましょうってことになったの」
キャトラがふうんと言った。朝はあれだけ興味津々だったのに、急な変わりようだ。
「なんだかはっきりしないですの。こんなものなのかしら」
「お話とは違うのよ」
レーチェのつまらなそうな態度を見て、ララがふふんと詳しそうな顔で言う。そのままお土産をローテーブルに置いて色々と話をしていると足音がした。あ、帰ったんだ。思ったよりも早い。
「ただいまー。ぼくが帰ったよ」
チィがまず一番に談話室に入ってきた。お土産の紙袋を振っている。からんからんと瓶に何かが当たる音がしているけれど、大丈夫なのだろうか。
「ただいま」
コルネーヤが後ろから付いてきた。今日一日を見てきたせいか、なんだかいつもより表情が明るく見える。
なんだろう? わたしの顔を見た途端コルネーヤの顔が真っ赤になった。
「コルネーヤ、どうしたの?」
「う、うち、何かおかしい? な、何にも無いよ」
明らかに動揺している。きっと何かがあったのだと思うのだけど、聞くのは難しそうだ。後で二人っきりになれるタイミングがあれば、その時に聞いてみよう。
「じゃーん。飴でーす」
チィが飴の入った瓶を置く。透明な飴の中に別の色とりどりな飴が入っていた。まるであのランプみたいだ。名前もランプキャンディだし。
「一個食べたんだけど、これおいしいよ。中まで溶けたらしゅわしゅわした。何が入ってるんだろうね」
チィがうきうきとした様子で飴について説明している横で、キステットが一つ口に入れた後一掴みして裁縫道具を広げているテーブルに戻っていった。見た目のイメージからは意外だけど、キステットは食べるのが好きだ。
正確には、段々好きになっていった。ソーチャがいつもパンを持ってきていたからかもしれない。
「コルネーヤ、セーブルムさんってコルネーヤ的にはどんな人だったの?」
リリが尋ねる。コルネーヤはうーんと顎に手を当てて考えていた。
「面白くて、気前のいい人だったよ。うちやチィと気が合うかもしれないって思うの」
友達を紹介するようにコルネーヤは言う。彼女とってセーブルムさんは恋愛対象ではなさそうだ。
セーブルムさんもそこまで恋をしているようには見えなかったから、程よい距離感に落ち着いた気がする。
「あ、うち、お手洗い行ってくるね」
感心したリリとララの声の後、一瞬話が途切れた。その合間を縫ってコルネーヤが席を立つ。さっきのことを聞いてみようか。
***
お手洗いからコルネーヤが出てきた。気まずそうな顔をしている。うーん、やっぱり何かがあったようだ。
「えっと……コルネーヤ、何かあった?」
困惑して迷っている。言い出そうかやめておこうか、その二択に見える。
「リティ達も今日行ってたよね? うち達の様子を見てたんだよね」
躊躇いながらコルネーヤは話し出す。息を呑んだ。思いっきりばれていた。
「……うん。ごめんなさい」
「ううん、それは大丈夫。うちは遊びに行っただけだし……でも次からは控えた方がいいよ……」
隙のない完璧な正論だ。今度からはいくら口実になろうと断ろうと思う。
「……うん。そうする」
でも、それとさっきの様子は少し話が違うのではないかという気がする。現に付いてきたことに関しては気にしていないようだった。
「あの、さっきわたしを見て……」
コルネーヤがわたしに近寄ってきた。まだ迷っている。
「……うち、見ちゃったんだけど……」
小さい声。誰にも聞こえないくらい。
「何を? 大丈夫だよ。教えて」
頬を赤らめている。今日一番照れているように見えた。
「……ルイカとキスしてたよね」
「え?」
そんなことをした覚えがない。覚えがないけど、心当たりがある。すれ違う時のあれ。あんなに顔が近ければ見る角度によってはキスをしているように見えてもおかしくない。
「し、してないの! あれはね、君達が気付いちゃうかもって思って……」
慌てて弁明して、コルネーヤが少しほっとした顔になる。よかったと呟いた。
「あり得ないことじゃないから……気まずくて……」
あり得ないことじゃない? するかもしれないという前提があるみたいな言い方。
「そうかな? え、えーっと……そんなことはないと思うけど……」
「いつもの様子見てると、うち、てっきり……」
普段のやりとりが他人から見て、そんなに親密な関係だと思われるようなものだとは思っていなかった。コルネーヤがそのあたりに敏感なだけなのかもしれないけれど。
彼のためにも変な誤解を生まないようにしようという戒めの気持ちと同時に、くすぐったい気持ちになった。
「話はもう大丈夫? うち、談話室に帰るね」
うんと頷くとコルネーヤは帰っていく。
わたし一人が廊下に立っていた。彼女の言葉を受けて今日のことを思い返す。
改めて思い出すと、いつもより距離が近かった気がした。きっとわたしが一方的に近付いてしまったのだと思う。嫌がられたり変に思われたりしていないといいな。




