言い訳デート 4
お化け屋敷をなんとか出て、コルネーヤ達を見つけ出して、催し物を見て歩く二人にずっとついて行く。そんなにたくさん回っていないのにもう日が傾いていた。
少しだけ会話が聞き取れた。歩きながらチィについて話している。
「チィはすごい子だと思うよ。一つ下なのにあんなに色々作ってるんだからな」
「そうですよ。チィは……すごいんです。うち、チィのこと尊敬してます」
チィの話題みたい。和やかな雰囲気だ。この一日を通して、コルネーヤはだいぶ打ち解けているように見えた。普段の彼女を思うと驚異的なスピードだ。
「俺も興味あって色々作ってるんだけど難しいわ。コルネーヤは興味ないのか?」
そういえば、コルネーヤはいつもチィのアシスタントをしている。
「ううん、うちも好きになったんです。チィにいつも教えてもらってるんですよ」
もしかしたら最初は強引だったかもしれないけれど、今楽しいなら……いいのかな? とにかく、今はコルネーヤは望んでやっている。その事実が少し嬉しい。
……どんどん、建物にはさまれていた道が暗く狭くなっていく。大丈夫なのかな。変なところに行っている気がする。
「後ろを向かれたら危ないな……」
ルイカが呟いた。確かに、目が合ってしまったらばれてしまう。ばれて謝った方がすっきりはしそうだけど。
「あれ、おかしいな。悪い、道間違えたわ」
立ち入り禁止看板のある行き止まり。最悪の事態だ。すれ違うのに支障はないけれど、相当不自然になってしまう。助けを求めてルイカを見た。
「……後で怒っていいから」
「え?」
そう言うと彼は壁にわたしを追い詰める。建物についていた右手を曲げてコルネーヤ達からわたしを覆い隠した。
身長の差で、顔がとても近い。すれ違ってもきっといちゃついているのだとごまかせるような近さ。
「少しだけだから、動かないでほしい」
驚いてびくりと体が動くと、耳元で囁かれる。胃と肺の間あたりにくすぐったい感覚がある。悲しい時や怒った時にもここが詰まったり、熱くなったりするけれどそのどれとも違う感じ。
わたしは本当に彼に限って囁きに弱いのだと思う。別の人に耳打ちされたって何にも感じない。びっくりするぐらいだ。
伏せていた目線をルイカに合わせる。熱のこもった目に見下ろされていた。照れや恥ずかしさの奥に、何かを微かに感じる。
「あ……」
すれ違う時にコルネーヤが気まずそうな声をあげたのが聞こえた。単に目の前でべたべたしているのを見たからなのか、それが友人だと気付いたからなのか。どっちの意味か分からない。確かめようとしても遮られて見えなかった。
「見てやるなって」
セーブルムさんの茶化したような言葉と笑い声が遠ざかっていく。なんとかなったのかな。
離れる時、ほんの一瞬だけルイカはわたしの首に鼻を近づけた。
「ね、ねえ、わたし、何か変なにおいとか……」
袖を嗅ぐ。多分大丈夫だとは思うけど、自分のにおいは感じにくいらしい。
彼は明らかにしまったという顔をした。長いため息をついている。
「あの香水の匂いがした」
片手で顔を覆いながら答えてくれた。
「……うん、使ってるけど……」
「……いや、なんでもない」
そこまで言われたら気になってしまう。
「教えてほしいけど、だめ?」
うー、と唸っている。よっぽど言いたくないことのようだ。コルネーヤ達とは逸れてしまったけれど、気になってしまう。
「……間違いなくあの香水のはずなのに、違ってて、気になって……」
ようやく答えてくれた。首を傾げる。つけているのは同じ物で間違いない。でも、違うってなんだろう?
「えっと……それってやっぱり、変なにおいじゃ……」
明らかにむっとした表情になった。もどかしい、面倒だ、そんな感じの、さっさと話を終わらせたい時に人がしそうな顔。
「想像よりずっと甘い匂いだっただけ! この話は終わり!」
丁寧な言い方ではないけれど、腹が立ったり怖かったり、そんなマイナスな気持ちが湧いてこないのは、きっと彼がとっても照れていることがわかるから。
「う、うん」
だからここは勢いに流される。それにこれ以上突っ込んでももう話してはくれないだろうから、おしまい。
……だけど、香水の話とはいえわたしの肌を経由している以上、においについて触れられるのは流石に恥ずかしさを覚える。
加えて違和感はまだ残っていて。彼は前にもう嗅いでいたし、もっと言えばあの時彼自身が香水をつけていた。想像って何なんだろう。
***
お土産を選ぶ二人を見ながらわたしたちも皆の分のお菓子を買った。後でこっそり渡そう。そのうちに完全に日が沈んで、だんだん闇が濃くなっていく。
中央広場に向かった二人を追ってわたしたちも足を踏み入れた。ランプが広場中に置かれている。地べたにそのままだったり、吊るされていたり。木にかかっている物もある。
女の子だけのグループがその様子を見てはしゃいでいた。気持ちはとてもよくわかる。多分、綺麗な物は皆好きだ。
「何と言うか、魔術を使ったランプもあればただのランプもあるし、仕掛けのあるランプも……何でもありだな」
「綺麗ならどうなっててもいいかな、わたしは」
単純だなあという視線を感じる。
「この手のゴチャゴチャしている感じはどうにも苦手だ」
確かに、人混みも苦手だったし、広場もきらきらし過ぎている段階に足を踏み入れかけているし。あまり彼にとっては好みではないのかも。
「それにしても……寒いね」
ルイカは頷いた。わたしも上着を羽織っているけれど、ちょっと薄すぎたみたいだ。寒くなるのが早い。
「ブランケットを配ってるみたいだ。行こう」
皆同じようなブランケットで暖を取りながらランプを見ていたのにはこんなわけがあったのか。納得する。
「ごめんなさい、もう一枚しかなくて。一枚でいいかしら?」
おばさまが申し訳なさそうに言う。
「大丈夫です!」
ひとまず先に借りるだけ借りておこう。そう思ったのだけど、後ろに並んでいた女の子の唇が真っ青なのに気付いた。
「……あの、大丈夫ですか? これ……」
女の子は遠慮していたけれど、明らかにわたしより寒そうだ。半分押し付けるようにブランケットを渡す。
「ありがとう、あなたも寒いのにね……」
女の子はそう言いながらぎゅっとブランケットを巻き付けている。一緒に来ていた男の子からもお礼を言われた。
手を軽く振ってその場を離れて、コルネーヤ達が座りながら眺めているベンチにさりげなく近づいた。
「んー……」
少し考えた後に、ルイカはわたしに指先だけ触れた。急に寒さが和らぐ。というか、ぽかぽかしてきた。
「何したの?」
「暖かくした」
なるほど。彼が引っ込めるより先に手を握る。いつも以上に冷たく、震えていた。
「冷たいよ。君には使わないの?」
いつもの、うまくいかなかった時のあの複雑な顔をしている。まずかったかもしれない。
「安全に二人分をコントロールできない。君に何か起きたら嫌だ」
「……ありがとう!」
その限りある一つを自分にではなくてわたしに使ってくれたことに感謝する。なんだか急に母性めいたものを覚えて、そっと彼の手をわたしの頬に当てた。
「いいから。コルネーヤ達はどうしてるんだ」
そんなことを言いながら照れているのは分かっている。微笑ましくて、心も暖かくなった。
でも、彼の言う通り。コルネーヤの様子を見守りに来たことを忘れかけていた。
「セーブルムさん、今日はありがとうございました」
コルネーヤがお礼を言っている。大したことじゃないとセーブルムさんは笑っていた。
「で、コルネーヤ。一日通して俺の考えが変わったんだ」
わたしもコルネーヤも首を傾げる。
「何ですか……? うちにガッカリしたとか……?」
「いや、そうじゃなくて。最初は可愛いし巫女だからコネもできる。そう思ったんだけど……」
ちょっとひどい理由だ。少なからず巫女はそういうこともあるとは聞いてはいるけれど。
「けど?」
コルネーヤが話を促す。
「なんかいきなり付き合うとか何とかは勿体ねえなって! チィともあんま話せなかったし、三人で色々物作ったりしてからでも遅くないって思わないか?」
ルイカと顔を見合わせる。想定外の方向に転がっている。
「えっと、うちはそっちの方が嬉しいからいいんですけど……うん、セーブルムさんは面白くて奢ってくれて好きですから。もちろん、友達としてですよ」
並んで座った二人はにこやかに握手をしている。意外にコルネーヤはしたたかだ。
「良かったね」
チィが後ろから声をかけてきた。びっくりした。
「チィ、いたの!?」
「あの建物の営業時間終わったからね。探してた」
あそこは比較的早く閉まるようだ。合流できて良かった。
「あの男も物作り好きなんだ。いい奴じゃん。ぼく、人手が欲しかったんだよね」
「チィ?」
……もしかしたら、コルネーヤもセーブルムさんもチィも、結構実利優先な所があるのかもしれない。だから多分三人とも気が合うんじゃないかな。
「じゃ、ロマンチックな雰囲気にはならなさそうだから安心して突っ込んでいくよ。また家でね」
そう言うとチィは少しだけ震えて二人の元に向かっていった。
想定できる中で最高に近い結果なんじゃないかな。セーブルムさんはいい人で、コルネーヤも彼に対して好印象だった。そして、チィも含めて三人の繋がりができたのだから。




