言い訳デート 3
なんと、二人は今日の最高得点を記録したようだ。上着をばさばささせながらルイカがトリカさんの後ろをついて出てくる。
もう冬もすぐ近くなのに汗をかいていた。呼吸を整えながらハンカチで拭っている様子に、訳もわからずどきりとする。
「どう? 惚れ直したでしょ、あたしのこと」
トリカさんは胸を張って言った。惚れ、というよりかっこよかった。はっきり言ってしまうと、二人ともこの手のものは苦手だと思っていたから余計に。
「はい! とってもかっこよかったです」
トリカさんはにこーっとして今度は係員さんに話しかけていた。
「ごめん、待たせた」
申し訳無さそうなルイカ。責任感の強いほうだから気にしているのかもしれない。
「大丈夫。楽しかった?」
「まあ、うん……楽しかった」
それは何よりだ。楽しかったならよかったとにこにこする。コルネーヤのことが段々口実になってきてしまっている気もするけれど、本当はそれはそれでいいかなと思っている。
「これリティにプレゼントー。あたしたちからの!」
「ありがとうございます!」
トリカさんから受け取る。景品の可愛い猫のぬいぐるみだ。等身大くらい? ぎゅっと抱きしめて頬擦りする。ふわふわで滑らかで少し芯がある、本物そっくりの手触りだ。
「あ、ルイカも持ってみる?」
なんだかルイカが羨ましそうな顔をしていたから、ぬいぐるみを渡す。ルイカは曖昧な返事をして受け取った。
困惑したようにぬいぐるみを撫でている。何だろう、想像していたのとは違う反応だ。
「返すよ」
「う、うん」
ちょっと戸惑いながら受け取って、手提げ鞄から少し顔を出すようにぬいぐるみを入れてみた。うん、可愛い。
「僕達、そろそろ行くから」
「あ、りょうかーい。デート楽しんでね」
デートじゃないとかなんとかルイカが言っているのを意に介さず、トリカさんはもう全く別の方向を見ていた。ふーんと一言口に出す。なんだろう?
チィに声をかけて出ようとしたけれど、何やら難しい話をしていたからそっと離れた。今度こそ、コルネーヤを探さないと。
***
お昼時だし、もしかしたらと思ってレストランへ行ってみる。いくつかあるレストランのうち、一番ロマンチックな店。多分セーブルムさんはここを選ぶだろう。
当たりだ。コルネーヤ達が入っていく。だから、わたしたちは外に貼ってあるメニューを見たのだけど。
「高い、ね……」
「本当にこの値段で……」
二人して顔を見合わせる。なかなか辛いお値段。わたしはもう入園料でかなり辛い思いをしているけど。
「……入るか。奢るから」
自分の鞄を一度見てからルイカは言った。渋い顔をしている。
「ううん。大丈夫。外から覗いてみよう?」
「仕送りは貰っている方だから気にするなって」
その大切な仕送りのほとんどを勉強に費やしていることをわたしは知っている。
一生懸命説得して、なんとかベンチから中を見ることに同意してくれた。ぎこちない距離で座る。
「窓側だ」
コルネーヤが前にしているのはおしゃれな料理ばかりだ。彼女が目を輝かせて食べているところをセーブルムさんが楽しそうに見つめている。
「心配してたけど、なんだかんだで楽しそうだね」
「料理がおいしいだけだろ」
ばっさりと。手厳しい。
「えへへ、そうかもね。おいしいご飯を食べると楽しい気持ちになるから」
なんだか変な顔をされた。子供だなあ、と思われたような気がする。でも、皆そうだと思うんだけどな。
そんなことを考えながら、楽しそうなコルネーヤを見ていた。
***
真っ暗な空間と、廃墟の屋敷をモチーフにした、ぼんやりと見える室内。アンティーク風の大道具が怖い。
「離さないでね、ルイカ……!」
ぎゅうっとルイカの腕にしがみつく。おばけたちは容赦がない。機械仕掛けのおばけも、中にきっと人が入っている(と信じている)おばけも次々に脅かして来て、もうコルネーヤのことなんて考える余裕がない。
「離さないって! だからくっつくな!」
離さないでいてくれるなら、くっつくのも許して欲しい。離れたらはぐれてしまいそうだ。
「大体幽霊なんて観測されていないし、他の生き物も他の場所では誰だって見慣れてる! 知らないから怖いだけ!」
確かにこの国とその周りは人とどこにでもいるような動物がほとんどで、お化け屋敷に出てくるような不思議な生き物はほとんどいない。
でも、理詰めでそんなことを言われてしまうと余計辛くなってしまう。心細い時は寄り添ってほしい。
「ルイカ、速いよ……」
半分引きずるように連れていかれる。足を止めてしまうと根っこが生えたように動けなくなってしまう気はするけど、もうちょっとゆっくり行って欲しい。
「きゃあ!」
そうこう歩いているうちにまた脅かされてルイカに抱きつく。もう恥ずかしいとか照れとか、そんな余裕なんてない。人の存在を感じることで安心したい。
また怒られる。なんとなくルイカも余裕がなさそうだ。
「コルネーヤ達、あの怖がりようの割に随分先に行ってるみたいだ」
わたしを引っ張りながら先を見る。コルネーヤ達の姿は見えない。
そう、食事を終えた二人は軽い運動のつもりかお化け屋敷に入って行った。コルネーヤは最初から最後まで渋っていたけれど、強く言えなかったみたいで大人しくついていっている。
それでも足を止めてばかりのわたしと違って先に進む勇気はあるようで、二組後に入ったわたしたちとどんどん距離が離れて行った。一方でわたしたちはもう何組にも追い抜かれている。
「ごめんね……」
わたしの見通しのなさと臆病さに悲しくなる。落ち込んだ声のトーンになってしまった。
「……大丈夫、あと少し頑張ろう」
ちょっとだけ慰めてくれているような声に頷く。怒るのは怒るけれど、無理やりわたしの手を振り払ったり置いて行ったりはしない。やっぱり、優しい人だと思う。




