言い訳デート 2
「えへへ、えへへへ……」
多分、ずっとにこにこしている。エントランスに入ったら、もうそこは楽しい場所。
遊園地全体の雰囲気が三人以上のグループか、二人っきりの恋人同士か、たまに一人の勇気ある人か。その三種類のどれかに振り分けられている。
なんとなく、その空気に迎合するようにわたしたちの距離も狭まっている気がした。
「ね、ねえ。ほら、わたしたちも、手とか……」
「そんなのいらないって」
呆れたように断られる。よくないな、最近自分を抑えられていない。気づかれてしまう、ばれてしまうと恐れているのに勝手に言葉が出て、体が動いてしまう。
この、彼に触れたい気持ちを辿った先にどんな想いがあるのか、もうわたしは知っている。
「コルネーヤは……あそこか」
劇場に入っていく姿が見えた。演目はコメディのようだ。ついて行って入ってみる。
座席数が小さめのステージ。話が聞こえて、それでいて気づかれにくい席を探す。
「この辺りかな」
なかなかいい席だと思う。コルネーヤ達はぎこちない会話を続けている。正確にはデート相手のセーブルムさんが率先して話しかけているのをコルネーヤがうまく返せていない。
「コルネーヤ、セーブルムさんが賑やかな人でちょっと困ってるみたい」
「そろそろ始まるから静かに」
遮られる。そうだね、静かにしないとだめだよね。
***
困った。笑っていいのか悪いのかよく分からない。なんなら、意味がわかってしまうことすら罪悪感がある。
そう、上演されているのは男女の恋愛をネタにした、過激なコメディだった。思わず顔を覆ってしまうような、なんていうのだろう、大人な着眼点の。
きっとルイカもこんなのは苦手だろうと思って横を見ると、俯いたまま時々肩を震わせて拳を固く握りしめていた。
どう見ても、笑いを堪えている。とても面白いけれど、これで笑っているのを知られたくない気持ちが伝わってきた。
あ、ルイカってこういう種類の笑いもいけるんだ。というか、今までで一番笑っている気がする。笑い声を押し込んだようなくーっという声すら聞こえているから。
コルネーヤもセーブルムさんが少し苦笑いするほど笑っている。もしかしたらこの手のネタは普段色々溜め込んでいる人こそ刺さるのかもしれない。
そのまま困った顔で見ていると、最後の一番の落とし所で我慢の限界が来たのか、隣から聞き慣れない笑い声が聞こえてきた。
自分のお腹を抱きしめて、ぐっと押さえ込んでいる。少し上体を起こしていたから、笑っている顔がよく見えた。笑いの理由を除けば、無邪気で可愛い顔をしている。
その様子を眺めているうちに物語としてのオチをつけて演者たちが退場して行った。やっと終わりだ。なんだか、とても疲れてしまった。
「ルイカ、終わったね……」
「うん」
何もなかったような顔をしているけれど、わたしは全部知っている。もっと言ってしまえばわたし以外の誰相手でもこれでごまかせはしないと思う。
でも、このことをなんというか、あまり冗談にするのは可哀想。彼にとって数少ない、思いっきり笑えることを無くしたくない。……こんなことであっても。
「コルネーヤ達が出ていくみたいだ、行こう」
頷いて劇場を出る。外は眩しかった。
そういえば、園内は意外にも身なりのいい人が多い気がする。警備は厳重には見えないけれど、大丈夫なのだろうか。
そんな心配をしていると、男女二人の、今時の服装だけれど気品のある若者が着ぐるみに案内されて立ち入り禁止の看板が立つ建物に入っていった。
着ぐるみの行動に疑問を感じて改めて見てみると、園内にはやけに着ぐるみが多い。あと、立ち入り禁止のエリアも。
他には行ったことがないから正確に比較はできないけど、それでも違和感がある。
「どこ見てるんだ、コルネーヤを探さないと」
「うん、そうだったね。どこだろう……」
***
コルネーヤを探して、多分一番近いだろう遊技施設に入る。きょろきょろとしていると、見覚えのある長い髪が揺れた。
「……ルイカ、見て」
「なんだよ、いた?」
二人して頭を抱えてしまう。トリカさんが二人用の遊びを一人でさせてくれと頼み込んで、もっとちゃんと言うなら文句をつけていた。
多分、一度コルネーヤ探しはここで中断だ。
「姉さん、何やってるんだよ」
ルイカの声を聞いてトリカさんは笑顔になる。
「ルイカ、ちょうどいいね。あたしのパートナーになってよ」
一方でルイカは不機嫌だ。ちょっとだけ気持ちはわかる。
「僕は忙し……」
「迷い込んだフリしてデートスポットに連れて行くのに?」
トリカさんは彼の言葉を遮って変なことを言う。ちょっと意味がよく掴めない。誰を? どうして?
「何の話だよ」
ルイカも困惑している。
「昨日聞いてきたでしょ。ここで女の子を口説くのにぴったりな場所はないかって」
じっとルイカを見る。そう言えば昨日はお昼休み別行動だった。わたしはセルヴィニアとお話していたけど、ルイカはトリカさんと会っていたんだ。学校に用があったのかな。
「それはあの男が行きそうなところを考えたくて……」
「そうなの? じゃああっちの方は?」
ルイカもわたしも首を傾げた。あっち?
「ほら」
トリカさんが何かを耳打ちする。ルイカの顔がひきつった。
「分かった! 僕が姉さんと組めばいいんだろ? 組むって」
急に組む気になったようで、大きいサイズの上着だから腕まくりをする。二人だけが分かっていることらしく、状況が掴めない。
「さすがあたしの弟! 物分かりがいいね!」
どちらにしても弟に対して姉は何よりも強し、だ。
係員さんに連れられて二人は真っ白な正方形の部屋に入る。何やら説明しているようだけど、ここからでは聞こえない。
「ああ、このゲームはね、この棒から出る弾をマトに当てていくんだよ。たくさんマトに当てたら高得点。たまに光を当ててくるから、それを避けられなかったら減点。わかった? リティ」
「うん、わかったよ! ……あれ?」
隣で女の子が説明してくれた。なぜわたしの名前を知っているのだろうと横を見ると、チィがいる。急な遭遇にびっくりしてきゃっと声を上げてしまった。
「こんなことだと思ったよ。リティとルイカと後誰?」
「……わたしたちだけだよ」
素直に白状する。それでも疑いの目を向けられた。
「他にキャトラと、てことはノイラはいるよね? 最低でも」
首を振る。彼女たちは予定があるみたいだから来られない。だからわたしたちが来たんだし。
「ホントかー? ぼくが思うに多少の予定なら蹴ってこっちに来ると思うんだけどな」
「本当だよ。チィはいつからここに?」
最初に見かけた時にはもう別行動だったから、かなり早い段階で別れたのだろう。
「入園してからすぐに。ここ、程よくあったかいからいいよ。あと面白いし。というか、二人の見てあげなよ。そろそろだよ」
チィが指差す先を見る。屈伸運動だったり、腕を伸ばしていたり、フォームは完璧だ。……ふとあの夏の日、プールの時に二人とも砂に足をよく取られていたのを思い出した。
「ルイカ! そっちじゃないって!」
ガラス窓を貫通する怒鳴り声が聞こえた。すぐにうるさい、と怒鳴り返すルイカの声。それでも、意外に中々いい感じだと思う。背中を預けて的を狙っている姿が様になっている。
姉弟らしく息もぴったりだ。相手への誤射が多い気がするのは、うん、見なかったことにしよう。
「がんばれー!」
ぴょこぴょこ飛び跳ねながら二人を応援する。一度だけルイカと目が合った。声は聞こえないだろうけど、届いていたら嬉しい。




