言い訳デート 1
談話室の暖炉が心地よい熱と音を提供してくれている。わたしはソファで膝を抱えて少女向けのロマンス小説を読んでいた。ヒロインを巡って二人の男の子が争っている。
「聞きましたこと? コルネーヤが交際を申し込まれているお話」
レーチェがいきなり口に出した内容に談話室がざわついた。もちろんわたしも。押しに負けていないか、コルネーヤが少し心配だ。
「それってホント!?」
ララが食いついた。わたしも気になってレーチェの側に行く。なんだかんだでわたしだってお年頃だ。……何か参考になるかもしれないし。
「本当ですわよー! しかもお相手はあの貿易会社の御曹司!」
あので分からなかったからキャトラに聞いてみる。大きな貿易会社でコルネーヤと年が近い、未婚の息子がいるところは一つだけらしい。それによるとお相手はコルネーヤの三歳年上の人。つまり、ソーチャ達と同い年だ。
「すごいじゃない。コルネーヤはどんな感じなの?」
言葉の割にはキャトラはそこまで驚いていないように思えた。もう噂は知っていたかのように。
「迷っているみたい。はっきりとお返事は返していないようですわ」
コルネーヤが慌てて答えを出していなくてよかったと思う。やっぱり、同じ巫女だからその辺りが心配だ。
「ここからが本題ですの。彼はコルネーヤを今度の休み、"若者の街"に誘ったと聞いていますわ」
"若者の街"。名前はそんなに若そうではないけれど、若い人好みの催し物の集まった遊園地。わたしも一度は行ってみたいけれど、ルイカは苦手そうで上手く切り出せていない。
「チィと別行動もしやすそうな場所ね」
キステットがぼそりと言った。確かに、広い施設、正確には敷地であればあるほど二人の行動の自由が効く。そう考えるとうってつけだ。
相手の人はデートを二人きりで楽しみたいし、チィはきっと彼女の関心のある場所に行きたいだろう。良く考えられているなと思った。理解してくれている人だ。
「そこで、ですわ。誰かに様子を見てきてもらいたいの! その日、私はお留守番当番ですから」
それは、どうなのだろう。でも確かに彼がどんな人なのかは見ておきたい気がする。もし悪い人なら皆でコルネーヤを説得しないと。
キャトラが一瞬いいことを思いついたような顔をした気がした。うーん、やっぱり気のせいかもしれない。
「はいはー……」
リリが手を上げようとしたのだけどセラと目が合って下ろした。ララにキャトラが耳打ちしている。
「あ、その日ダメだったかもしれないわ! きっとそう!」
「予定があるわよ、リリ!」
ララとリリがほとんどぴったりに言う。すごい。
「私とティトラスが行ったら女性達の恨みを買ってしまいますよ」
セラが苦笑する。キャトラも予定が入っているようだ。キステットはどう見たって嫌そう。そうなると、もうわたしたちしか行けない気がする。
「リティ、お願いできる?」
キャトラが身を乗り出した。
「わたしにできるかな……」
「大丈夫大丈夫。気楽に見に行って気楽に報告してくれればいいから」
それなら大丈夫なのかな。でも、ルイカはどう言うだろう。彼を呼ぶ。
「今度のお休みね、コルネーヤのデートを見守りにあの"若者の街"に行きたくて。大丈夫かな?」
ソファの背もたれに肘をつく。彼もトリカさんもこの癖があるような気がする。
「何で僕たちが行かないといけないんだよ。コルネーヤの問題だろ」
正論だ。そうだねと同意しようとしたとき、ルイカと正面のジードルの目が合っているのに気づいた。
「……僕はその日暇だから別にどっちでもいいけど」
この話の流れだとてっきり断られるものだと思っていたから嬉しい。正確には断ろうとしたのを翻してくれたような。
「いいの!? ほんとに? 嫌じゃない?」
ルイカは面倒くさそうにため息をつく。何度も聞くなと言っているみたいだった。
「リティ、よかったわねぇ。行きたいって言ってたもんね」
キャトラが笑顔で話しかけてくれる。とっても嬉しい。行く日までしっかり情報を仕入れておこうか、それとも行き当たりばったりで出会いを楽しもうか、迷っている。
「でも忘れないでくださいませ? あくまでコルネーヤのデートの監……見守りですわよ」
そうだった。忘れかけていた。遊びに行くのじゃなくて、皆の代わりにコルネーヤの様子を見るんだった。舞い上がって当日も忘れてしまわないように気をつけよう。
***
「ルイカっ! そろそろいこう!」
コルネーヤとチィが家を出て少し時間を空けていたけど、そろそろいい塩梅だと思ってルイカの部屋に入った。いつもより声が弾んでいる自覚がある。だって、今から遊びに行くのだから。
いつもより気合いを入れて服も考えた。……結局、そんなに変わらないけれど。黒いワンピースの裾にレースが付いている。
いつもと違うのは、それに加えて変装がわりに髪を左の耳下で一つにまとめ、伊達眼鏡をかけていること。ぱっと見ただけではわたしって気づかれないんじゃないかな。
ルイカも大きめの上着を羽織って付いているフードを被っていた。ジードルに借りたらしい。
それにしてもこんな感じの服装が意外に似合う。かっこいい。制服のような私服ばかりだから、もっとこんな服だって着ていいと思う。
「ルイカ、よく似合ってるよ。かっこいい」
見てわかるほど顔が赤くなる。彼はすぐにフードを引っ張ってその顔を隠した。別に、隠さなくてもいいのに。もっと見たかったな。
「そろそろ行くんじゃないのか」
誤魔化すようにルイカは言う。そうだった、時間をずらして出発するけれど、ずらし過ぎるのもよくない。
コルネーヤの様子を見守る本来の目的を忘れないようにしながら、それでもちょっと楽しんでも許されるはず。




