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知識よりも感情で

「どうにか伝えることはできないのか? 彼女たちに無関係な話ではないのだから」

「できることなら一番に話したいのです、ティトラス! でも貴方に話すことすら! ……向こうにとって最大限の譲歩なのですよ」


 断片的に隣の部屋から声が聞こえてくる。セラが語気を荒げていることで、おそらくわたしが聞いてはいけない内容が聞こえてしまっている。

 彼女は予言の巫女だ。今はいつもの彼女から想像できない、明らかに冷静さを欠いている様子。何か、よくない予言をしてしまったのだろうか。そして、おそらく彼女たちとはわたしたちを指している……気がする。

 嫌な予感がしたけれど、わたしたちにできることはない。きっと一生懸命やる以外には。

 できたら仲が良い皆が大喧嘩をしてしまうぐらいの平和な悪いことでありますように。それくらいなら、また仲直りできるから。

 そう願ってこれ以上聞こえないように耳を塞いだ。


 ***


「おはようございます、リティ。あら、寝癖がありますよ」


 セラがいつもの微笑みでわたしを見ている。昨日のは寝入る前の幻聴だったのだろうか。そんなことが頭をよぎるくらい。


「……おはよう、セラ! 寝癖あった? 梳かしたはずなんだけど残っちゃったのかな?」


 髪を手ぐしで整える。あれが現実のことだとして、彼女が言えないのならいつも通りに接するほうがいいのだろう。聞こえていたのだと心配をかけたくない。そう思って笑顔で返す。やっぱり、いつもと何も変わらない。

 そういえばティトラスはどこにいるのだろうと辺りを見渡した。ララとリリが彼のそばで笑っている。何かいいことがあったのかな。


「ティトラス、聞いて聞いて! 教えてくれたおかげで私、この間の試験で満点だったのよ。ララも受けさせてもらって、一問間違えただけ!」


 リリは自慢げに胸を張っている。ララもにこにことしていた。よかったね。最近気づいたのだけど、二人とも頭がいい。リリはこの学校の学生だから当たり前のことなのだけど。……そして、きっとララも入学試験に合格していてもおかしくないくらい。


「二人とも、偉いですね。ご褒美ではないですが……」


 そう言うと、ティトラスはリリの頭を撫でる。リリが顔を真っ赤にしている。これは、ティトラスがやると特によくないと思った。なんとなく。


「ずるい! 私にも!」


 苦笑しながらララの頭も撫でている。二人ともきゃあきゃあと喜んでいた。わたしの女の勘では二人にとってティトラスは売れっ子の役者のような憧れの人であって、恋愛の対象としては見ていない気がする。


「やっぱり、君もああいうのがいいのか」


 ほほえましい光景を見ていると声がして振り向く。ルイカが呆れたように聞いてきた。やっぱり、君も。引っ掛かりがある言い方だ。


「君も? ああいうの?」


 言いづらそうにしている。伝えてくれないと困ってしまう。


「……頭を撫でられるやつ」


 ぽつりと言葉に出したのは、何とも言えないもの。どうだろう、確かにうれしいのだけど、特に言いづらい要素はない気がする。


「そうだね。うれしいかも。ほら、褒められるのってうれしいでしょ?」


 もやもやしている様子だった。そういうことじゃないと言いたげな。


「……女性は頭を撫でられるのが、その……」


 言いたいことが分かった。男の人に頭を撫でられるとどきどきする、みたいな恋愛のアドバイスによくあるあれだ。彼もそんなことを気にしているんだとわかって可愛く見えてしまう。


「ルイカもそんなこと考えるんだね。なんだか意外」


 まさに余計なことを言ってしまった時の顔。ちょっとだけ、意地悪なことを聞いてみようか。


「ルイカも女の子の頭を撫でてみたい?」


 多分、彼は末っ子だから撫でた経験がないんじゃないかなと思う。それもあって聞いてみた。


「別に。多分、あまり格好よく見えないし」

「かっこよく見えない?」


 あまりピンとこない。ねぎらいだとか、可愛いなだったりとか、そういう感情を込めて撫でるのにかっこよさなんて関係あるのだろうか。


「ティトラスみたいな性格でも見た目でもないから」


「他の子は分からないけど、わたしだったらどんな形でも好きな人が触れてくれるだけでうれしいけどな……」


 そういえば異性であることもあって、こんな恋愛についての話をする機会がなかった気がする。少し照れくさいかも。少し様子をうかがってみる。なんだ、と安心したように見える。

 恋愛に関する本は極端なことを書いていることがあるから、付き合い方に注意が必要なのだとレーチェが言っていた。振り回されるより、自分と相手の気持ちが一番だとも。その通りだと思う。

 そのあと通りがかりのキステットにぼそりとあなたも本しか知らないじゃない、と中々厳しいことを言われていたけれど。


「あ、えっと、でも、人によるかもしれないから、あくまでわたしの場合」


 急に不安になって付け加える。もしもそんなことを気にするタイプの女の子が好きなら、傷つくことになってしまいかねないから。個人的な感想としては、そんな女の子はやめておいた方がいいと思う。


「いや、君がそうだと分かっただけでいい」

「わたしが?」


 少し間が空いた。次の言葉を探している気がする。


「気にしない女性がいるってこと」


 そうなら何よりだ。今までの様子を見ていると、女の子に慣れていないようだったから、これで少しでも不安要素が減ってくれているといいな。女の子とべたべたしている彼の姿は本当のことを言うと、あまり見たくないけど。

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