夏の二人 1
とある夏の日。可愛い水着がたくさん並ぶ、季節物の服を展示しているホールに、わたしとセラは二人買い物に来ていた。
ティトラスとルイカは別行動。彼らも水着を選んでいるのかも。どちらかといえば珍しい組み合わせになるのかもしれないけど、一人で水着を選ぶのも寂しいし、男の子を一人連れて行くのもかわいそうだしでこんな組み合わせに。
ジードルは多分、恋人とレーチェを連れて三人で行ったのだと思う。彼なら気にせず見て回っていそう。
「たくさんあって迷いますね」
セラはワンピースタイプを中心に見ている。似合いそうだ。わたしはどんな水着にしようか。
職員さんに聞いたところ、常識の範囲内ならどんな水着でも持ち込んでもいいそうだから安心して選べる。……キャトラが不安だけど、ノイラがきっと止めてくれるはず。
見ているとたまにどきりとしてしまうようなデザインの物があった。これはほとんど着ていないようなものなのでは? と思ってしまうくらい。これが持ち込めない水着の代表例なのだろう。
「リティは上下分かれたタイプの方が似合うと思いますよ。きっと」
そうだろうか。普段、どちらかといえばあまり肌を出していない方だと思うから、イメージがつかない。
そう言えばわたしは昔からこんな服を好んでいたのだろうか。それとも、今のわたしが巫女という立場やそばにいる人の影響で、何となく選んで何となく気に入っているのかな。
考えがうろうろとしだしたのを今ここに戻す。
「お腹を出すのは少し恥ずかしい、かな……」
でも、可愛いデザインは上と下で分かれているものが多い。それにぴったりと体のラインが出ないデザインも多くあるから、わたしには合っているのかも。
一つの水着が目に留まる。アイボリーがベースで、淡くて薄いオレンジのフリルが段々についている。いいな、これ。
ボトム部分が左右に花の飾りが付いているだけでシンプルだけど、でもその方がトップスとバランスが取れていて可愛い。
足の付け根に深く切れ込みが入っていないのも嬉しい。やっぱり大胆すぎるデザインは恥ずかしいから。
「そちらが気に入ったのですか? あなたらしい、可愛らしい水着ですね」
セラが手に持っているのは一見普通の黒いワンピースの水着。だけど、背中が大きく空いていて、交差した紐で固定している。
わたしたちの年齢や彼女のイメージを考えるとミスマッチなデザインではあると思う。でも、大人っぽいから意外に似合うかもしれない。
「セラはどうしてその水着にしたの? えっと、セラにしてはセクシーなデザインだなって」
セラは小さく微笑んだ。
「だって、せっかくの夏なんですもの。楽しまないといけないでしょう?」
学校中が夏季休暇、特に何をして遊ぶかの話題で持ち切りになっていると思ったら、どうやら夏が好きなのはセラも同じみたい。
だけど巫女だから遠出はできない。その代わりなのか、職員さんたちがリゾートを裏庭に再現してくれた。春の間は花畑とガゼボで、それもお気に入りだったのだけど、やっぱりこちらも嬉しい。
と言うことで夏季休暇はまだまだ遠いけど、ひと足先に今度のお休みに皆で一斉に裏庭で遊ぶ約束をした。ついでに水着を見せ合う約束も。
「リティももう少し開放的なデザインにしますか? ……ダメね、きっと彼がびっくりしてしまうわ」
くすくすとセラが笑った。彼?
「誰のこと?」
「ルイカですよ。ジードルは当然きっと女性のあんな姿やこんな姿なんて見慣れていますし、ティトラスも彼、意外と遊んでいるの。婚約者もいらっしゃるのに酷い話です」
セラは親の決めた相手ですから、互いの同意の上という可能性もありますがと付け加えた。それはフォローになっているのかな。
ルイカ。確かにそうだ、と一瞬思ったけどトリカさんだって結構露出が激しい。案外慣れているかも。
ティトラスの件については……聞かなかったことにしよう。セラが遅くまで帰ってこないことが多い理由がわかったかもしれない。
***
選び終わったけど、トップスを中心にサイズを調整してもらっていたから遅くなってしまった。サイズが違っても何とかなるのはありがたい。
少し広めの休憩室には退屈そうな男の人たちがたくさんいた。その背景は何となく察しがつく。きっと買い物待ちなのだろう。
「ごめんなさい、遅くなりました」
その中に二人がいた。ルイカも紙袋を抱えている。やっぱり持っていなかったんだ。でも、皆に合わせて買ってくれて嬉しい。
「……遅い――」
「俺たちもさっき戻ってきたばかりです。二人は買えましたか?」
ルイカの言葉を遮るようにティトラスが言った。二人の対応があまりに反対で、面白くなってしまう。本当はルイカの言う通り、かなり待っていたのだろう。
「ええ、素敵な水着を買えましたよ」
「ごめんね。遅くなっちゃって」
本当はセラのように信じたふりをしてスマートに返した方がいいのかもしれないけれど、やっぱり謝ってしまう。
気が小さいわたしだ。
「……ルイカも買ってくれたんだね。ありがとう」
待たされて苛ついているのか、不機嫌な様子のルイカに恐る恐る話しかける。冷たい目を向けられた。
「別に。いつか使うかもしれないし」
彼の機嫌を直すには少し時間が必要かもしれない。
「どうして彼はあんなに不機嫌なのですか? 待っている間に何かありましたか?」
「少し男同士親睦を深めようと楽しい話をしていただけだよ。貴方たちと同じように」
聞こえないようにひそひそと話す二人の会話を聞いていて、理由が読めたかもしれない。きっと何かルイカにとって辛い会話が続いたのだろう。
「さて、そろそろ帰りましょうか? これ以上ここでお待たせしても申し訳ありませんし」
セラが笑みを浮かべながら言った。わたしも賛成だ。彼女を見て頷く。
ルイカが不機嫌なのが気がかりだけど、そこまで引きずる人ではないと思っている。でも、帰ったら彼の喜ぶことを何かしてあげたい。
夜、こっそりおやつにと思って買っていた売店のクッキー缶。それを一緒に食べよう。
製菓同好会が部費のためにと売っているお菓子で、とても美味しいと聞いているから楽しみだ。ルイカも気に入ってくれるといいな。




