兄弟を知る 4
「いいか、女の子に好かれるコツはな、素直に! 大げさに! 愛を叫ぶ! だ」
突然熱く語り始めたトナさんの声にびっくりして振り向いた。……大げさに?
「別にそこまでして……」
トリカさんたちの会話に気を取られているうちに、こちらではルイカが変な絡まれ方をしている。
女の子に好かれたいルイカのイメージがつかない。それに、そんな彼らしくないことまでして女の子に好かれている姿は見たくないな。
「リティちゃんだってそんな感じの男がいいって」
呆れるようにルイカはわたしを見た。お前もそんな人間だったのかと言いたげな、なんだか傷つくような視線。
「えっと、わたしは本当に思ったことをそっと言ってもらえる方がうれしいです……」
ここは言わないといけないと思って二人に伝える。……言ってしまったけど、なんだか春祭りの時のことを思い出してしまうような。あの時だってとてもうれしかったから、間違ってはいないと思う。
今しているのは愛の伝え方についての話だから、褒められ方とはまた違うのかもしれないけれど。
「そんなもんかあ」
感心したようなトナさん。きっとフーナさんが喜ぶ方法をずっとやってきたんじゃないかなとなんとなく思った。
”大げさに”という部分が気にかかるけれど、フーナさんは気づいていて、その上で楽しんでいそう。そんな余裕を感じる。
「はい、あくまでわたしはなんですけど……」
「そういえばさ、巫女さんって恋愛禁止ーっとかあったりするのか? いやあ、ちょっと気になってね」
急に妙なことを言い出した。急に、ではないのだけど聞くタイミングを探していたような。
「無いですよ。恋愛自体は大丈夫です。……えっと、もちろん行き過ぎたことはだめですけど……」
きっと察してもらえたと思うのだけど、口に出すのは恥ずかしい。なら聞かれてなかったのだし、言わなくてもよかったのかもしれない。
掟やタブーでは無くて、人の都合による決まり。むしろ女神様本人はその辺りには寛大……らしい。
「なるほどなあ。男には辛いところだよな、ルイカ」
「男じゃなくて兄さんが辛いだけだろ」
ばっさりと切られている。この辺りの話はそこまで考えず流しておきたいのだけど。色々気まずい。
「じゃあさ、守護魔術師の男連中の中で一番恋愛対象としてアリなのは? 消去法でいいぞ」
えっ、と思わず声が出てしまう。悩みはしない。ジードルは女性関係で多少の不安がある。ティトラスは理想の王子様みたいな人だけど、どこか演じているように見える。
それを踏まえると一番安心できるのは彼だ。本人の前で言うことでも無いけれど。
「……ルイカです。……他の二人よりは安心できる人だから」
興味が無さそうにお茶を口に運ぼうとしていたルイカがわたしを見る。ただ呆気に取られている顔。どんな意味での驚きか、あまり読み取れない。
「パレー様ん家の子と特待生くんとに比べられたらうちのは随分落ちると思ったんだけどなあ。良かったな?」
トナさんの言葉を無視してルイカがわたしに向けるのは疑いの目。そんな目をされてしまうと悲しい。
「君がわたしでもルイカって言うと思うけど……」
他の子は分からないけれど、その辺りの感覚はわたしとルイカで似ていると思っている。これまでの関わりで。
「……それはない」
彼はまだ納得がいかないようだ。いつもの自信がないところが出てしまっているみたい。三人の中で、しかも消去法で、なのだからこんな顔をされてしまったら困ってしまう。
「あれ、もしかしてあの二人って何かあるのか?」
「ええと、そのことについては秘密です……」
トナさんは残念そうな顔をする。だけど、あまり言いふらしても二人に悪いし、わたしの感覚だし。そんな目で見なければ、楽しくて優しい人たちだ。
***
帰り道。トナさんが送ってくれると言ってくれたのだけど、もう日は随分遅くまで街を照らすようになっている。だから、大丈夫だと伝えて二人で道を歩く。
トナさんとフーナさんはこのままトリカさんの家に止まるのではなく、近くに宿をとっているらしい。お客さんが泊まれる寝室がないからだそう。
ルイカの部屋を貸そうなんて冗談を言ったトリカさんに大慌てで怒っていたルイカは、やっぱりいつもより素直で、子供っぽい。
しっかりしているところも好きだけど、そんな可愛いところも好き。一緒にいて楽しい人だと思う。
「兄さん達、騒がしかったよな」
ぽつりと言う。確かに賑やかな人だけど、嫌な賑やかさではない。あの空間は談話室で盛り上がっている時と同じ居心地の良さがあった。
「うん。楽しかったよ」
「そっか」
彼は少しはにかんだ。あまり家族や実家の話をしないのは、避けているのではなくて、本当にただ自分のことをうまく話せないだけなのかもしれない。
あれだこれだ言っていてもトナさんやトリカさんといる時のルイカは楽しそうだった。
「トナさん、面白い人だったね。親しみやすいって言うか」
「まあ。僕や姉さんより人に好かれるし。僕達は……知ってるだろ?」
とても失礼だけど、わかるような気がする。ルイカもトリカさんも、どこか人付き合いに対して不器用だ。トナさんはその辺りのバランス感覚が優れているように見える。
「他の人は分からないけど……わたしは、ルイカもトリカさんも好きだよ。もちろんトナさんも」
この表情はきっと、嬉しい気持ちを一生懸命隠している顔だ。もっと素直に、分かりやすく示せばいいのに彼はそれを恥ずかしがる。
すぐ顔に出てしまうわたしには理由がわからないけれど、そんな不器用なところを含めて彼を好ましく思っている。楽しい時間を共有できる友人で、信頼できるパートナーだ。
――本当は、この二つの箱に仕分けられない感情があるけれど、それが何かをわたしは知らない。だから、今は心の空いたところにそっと置いている。




