兄弟を知る 3
ルイカの入れてくれたお茶にたっぷりのミルクと蜂蜜を入れる。フーナさんおすすめの飲み方だ。
甘くて、でも甘すぎなくて、そんなホッとする味。夜寝る前に飲みたいな。今度試してみよう。
「トナ、遅いわね。どうしたのかしら」
「お兄ちゃんならこんなものでしょ。何か余計な仕事押し付けられてるんじゃない?」
二人が話していると、ドアを叩く音がした。トリカさんがはぁい、と言って玄関に向かう。
「お兄ちゃん。遅かったねー? もうみんな集まってるけど」
「悪いって。あの娘にちょっと手土産をってね」
何かを話している。話し終えるとドアが閉まる音と二人分の足跡が聞こえてきた。
「オレが来たぞー。ルイカ、ちょっとでかくなったか?」
彼がトナさんだよね? 多分、トリカさんがお兄ちゃんと呼ぶような人はトナさん以外にいないし、そうだと思う。
顔に二人の面影はあるけど、それ以外が全く違う。背が高くて、がっしりとしていて、はきはきと爽やか。
二人と同じ色の髪は、高い位置で一つに結ばれている。もしかして、ルイカが髪を伸ばしているのはトナさんの影響?
「残念ながらそんなに」
「ちゃんと食べて運動しろよ、トリカもな。魔術師っていうのはどいつも家の中が好きだからなあ」
それはそうかもしれない。外で元気に遊ぶルイカも、トリカさんですらイメージできない。活発で動き回るイメージだけど、外ではないというか。
「トナ、そんなことよりリティちゃん」
「そうだった。ありがとう、フーナ! 君がリティちゃんか?」
じっと焦茶色の目がわたしを見る。ここはあまり似ていない。色も違うし、どちらかと言えば柔らかい目つきだ。
「は、はい。リティです。よろしくお願いします、トナさん」
笑いながら頭を撫でられた。きゃあ、なんて声を思わず出してしまう。視界の端でルイカが苦い顔をしていた……気がする。
「ルイカが可愛い子だって書くぐらいだから期待してたんだけど想像以上だよ」
「僕は書いてない!」
「そんなにはっきり言わなくても。リティちゃんも悲しむぞ」
ちらりとわたしの顔を見てからルイカは黙り込む。別にルイカに可愛いと思われていなくてもいいけど。逆に、可愛いと言われた方が困ってしまう。
「良かったらこれ。入れ物も含めて綺麗だろう? 柔らかい雰囲気の娘さんだって聞いていたから、白を中心に暖かい色を集めてみた」
そう言ってトナさんが袋から取り出したのは、カゴの中に入った花束。言葉通り白と、ピンクと、クリーム色の花でまとまっている。
「綺麗です。ありがとうございます!」
「本当はブローチにしようと思ったんだけどなあ。不機嫌になる奴がいそうでね」
男の勘さ、とトナさんは笑う。意味が読み取れない。ブローチが欲しかった人?
「そうね、他の女の子にアクセサリーを贈る恋人なんて見たくないもの。勘が働いたわね?」
フーナさんがからかうように言った。トナさんは驚いた顔をしている。そうなのか、と呟く声が聞こえてきた。彼が指していたのは誰だったのだろう。
トリカさんが席に着くように勧めていた。トナさんはルイカの真正面に座る。トナさんとフーナさん。並んでいると本当にお似合いだと思う。
「あたしどこに座ろっかな。ま、ここでいいか」
彼女は肘を突いていた位置に椅子を持ってきて座る。ちょうど私とフーナさんの間になるのかな。
「ルイカは最近どうなんだ? 学校は楽しいか?」
急に振られてルイカは返答に困っている様子。講義や勉強自体には熱中しているけれど、きっとトナさんが想像しているような楽しんでいる姿を見たことがないかも。
「……楽しいよ、人並みには」
「そうなの?」
思わずわたしが一番に聞いてしまって、ルイカに冷たい視線を向けられる。うっかり。
「リティちゃんにはそう見えてないみたいだなぁ」
むすっとした表情。そしてそれをトリカさんに嗜められる。
「いや、でも良かったよ、本当に。ルイカが守護魔術師とやらに選ばれたと聞いた時はどうなることかと」
トナさんは楽しそうに言う。多分、なんとかなると思っていたんじゃないかな。そんな感じの笑い方だった。
「お兄ちゃん、心配してなかったでしょ。あたしのが心配してた!」
なんとなく、トナさんの前だと二人とも子供っぽく見える。もしかしたら普段は背伸びして頑張っているのかも。
「リティがわるい子だったらどうしようって思ってたんだよ。会ったらそんなことないって言うか、あっ無害だって分かったんだけどね!」
あの時から悪い人ではないと思ってくれていたのは嬉しいけれど、なんだか気になる言い方だ。
「オレは会う前から分かってた! ルイカが大好きな子なんだから当然いい子なんだろうってね」
「大好き?」
首を傾げる。きっと何か手紙に書いたことを大袈裟に言っているのだと思うけど、そこまで褒められて? しまっては困る。
「そこまでは言っていない。うまくやっていけそうだ、ぐらいだったはずだけど」
少し機嫌の悪い声。これはルイカの態度も仕方がないと思う。
「そうだったかなぁ。でもリティちゃん、安心はしていいぞ。いつも君のことを手紙に書いているぐらい気に入っているのは確かだからな」
ルイカを見る。ルイカが、わたしのことを手紙に。それもいつも。少し照れくさい。
「ほとんど一緒に居るんだから、その分書くことがあるのは当たり前だろ……」
小さな声でルイカは言う。書くことがあることと、それを実際に手紙に書くことは別の話ではないかと思う。でも、彼本人がわたしのことを手紙に書いていると認めたことが嬉しいから、何も言わない。
「どんな事を書いてたの?」
「言わない。兄さんも言うなよ」
疑問に思って尋ねたけれど当然断られた。内緒だよなとトナさんは笑っている。気になるけど、逆に知らない方がいいのかもしれない。
笑い声が聞こえて反対側を見る。フーナさんとトリカさんが楽しそうに話していた。本当の姉妹のようで、羨ましいなと思う。
もう手放してしまった家族という大切な関係性。でも、もしかしたら彼女たちのように、違う形になってしまうけれど、これからまた誰かと築いていけるのかもしれない。




