巫女だって興味津々
夏に向けてどんどん薄い素材の服になっていく、そんな季節。
いつものブラウスとスカートに着替えて、ぼんやりと取り止めのない事を考えながらドアを開ける。何か忘れていたような。
いつものベッド、いつもの机、よく知っているけど知らない男の人。
「合図忘れてる」
「ご、ごめんね!」
今着ようとしていた肌着の袖から片手を抜いて部屋に戻れのジェスチャー。固まってしまっていたけど、我に返って慌ててドアを閉めた。
ふらふらとベッドに倒れ込む。心臓のどきどきがおさまらない。上半身に何も着ていない男の人なんて、校庭で何かの練習をしている様子の彼らで見慣れているはずだったけど。それはそれでどうなんだろう。
ともかく、わたしの中ではそれとこれとは全く違う分類の出来事だと振り分けられている。見慣れているか、見慣れていないか?
……元から日に焼けにくそうな彼なのに、普段服で隠れていて余計に日に当たっていない肌のせいかもしれない。校庭の彼らよりもずっと華奢な体つきのせいかもしれない。
普段短く結んだ後ろ髪を下ろしていたせいかもしれない。汗のせいでひと束髪が首筋にはりついていたせいかもしれない。
一瞬だったのに、そこまで見てしまってごめんなさい。勝手に目と頭が覚えてしまっていた。
でも、きっと一番は、平気な顔であの仕草をされて、なんて言えばいいのかな。それがすごく男の人に見えてしまったから。
あれで慌ててくれていたら、きっとここまで動揺してしまわなかったのに。
***
「そろそろだよ、起きて」
ルイカは机に突っ伏している。お疲れのよう。あと少しで講義が始まるから声をかけた。
「分かった、寝てない。すぐ準備する」
寝ていそうだったけど、本人が違うというならきっと違うのだろう。
こっちを向いた君の首筋から、春の初めよりボタンを外して風通しが良くなったシャツの隙間から見える肌まで。勝手に目で追ってしまう。だめだな、わたしはいけない子だ。
「外の風に当たってきた方がいいんじゃないか? 顔赤いけど」
「そう? 大丈夫だよ、ごめんね」
何でもない風に装って首を傾げる。彼を何か健康的ではない感情で見てしまった罪悪感で、謝罪の言葉が勝手についてしまったけど。
***
談話室の隅、キステットが冷たい目で見ている一角。いつものレーチェ、キャトラ。珍しくセラとノイラがいて、ララとリリは欠席。
キャトラに異性のことで困っているわね、と聞かれて藁を掴む思いで頷いて。それで今まで近寄らなかったこの空間に連れてこられた、はずだったけど。
目のやり場に困る。目次だけでも刺激的な言葉だらけだったのに、挿絵がつくと余計に。
「これ、後で没収して職員さんに渡しますからね……」
「素直に言ったらあげるのに」
ノイラはとんでもないという顔をした。この手の不健全な内容は彼女が一番苦手な分野だろうと思う。
キャトラがページをめくる。二人の男女。
口付けは、唇同士を合わせる行為だと思っていた。もっと艶かしいそれがあるなんて思ってもいなかった。
レーチェ一人きゃーっとはしゃいでいる。普段はララとリリも一緒なのだろう。セラは微笑みを絶やさない。慣れてる?
「リティ。あの子達もこんな過激なものに興味津々なのよ? そういうお年頃なの。そう考えたら男の子を見てどきどきするのは普通じゃない?」
キャトラが囁く。確かに、ただあれだけのことでこんなに罪悪感を抱く必要はないのかも。でも、それはその行為単体を見ての話。
「でも、いつも優しくしてくれる人をあんな目で見るなんて」
罪悪感のウェイトはそんな目で見たのがよりによって彼だったことが大きく占めていた。
「もー、気にしないの。ほんと。向こうも似たようなことがあったら似たようなことになるわよ」
「そうかな……」
キャトラの手がわたしのスカートに伸びて、裾をつまんで上に持っていく。あと少しで下着が見えそうなところで止まった。
「キャトラ、何してるの?」
この隅の周りは女の子しかいない空間だから、見えちゃいけないところが見えてなければそこまで気にならない。だけどとにかく意図がわからない。
「これくらい見えちゃった日にはもう大変よ。ルイカみたいな慣れてない子なら余計にその日はもう寝れないでしょ」
「ルイカ?」
急に核心をついた名前が出てきてどきりとする。男の子の体を見てどきどきしてしまったことは伝えたけど、彼の名前を出して相談した覚えはない。
「そりゃ、あなただし」
「わたしだから?」
「そ、あなたのことだからきっとそうだろうって。キャトラちゃんの占いなのです」
キャトラは、占いもできると言っていた。自分は呪詛魔術をやっているけどむしろ家系的には占いをしている人が多いそう。
「そっか。……うん、ルイカのことだよ」
キャトラには誤魔化しは通じないと思った。キャトラは悪い笑みを浮かべている。
「何個か聞いちゃいたいことがあるけど、今日は聞かなーい。そっちのほうが面白いからね」
うーん、怖いな。聞きたいことってなんだろう。
「ま、そういうこと。つくりがそういう風になっちゃってるし、同じことがあったら皆そうなっちゃうって思いなさい」
話をまとめようとしている。キャトラの話は複雑でわからないけど彼女がそういうなら、その通りなのかもしれない。
わたしだけが変でいけない子じゃない。もっと言えば変でもいけないことでもない、多かれ少なかれ抱いてしまう感情なのだと教えてくれているのだろう。
「ありがと、キャトラ」
感謝を伝える。二つしか歳が違わないのに、彼女はとても大人だと思う。
「どういたしまして。で、リティ的にはどこが良かったの?」
「どこ?」
「場所。どこにぐらっときたの?」
もちろん、言うわけがない。振り向いた先の”君”の首筋を一瞬だけ見て目を逸らす。




