春祭り 7
ルイカがあのペンダントを買おうとしている。ルイカが本当に気に入ったのならいいのだけど。……確かめづらい。
「ルイカ、えっと」
「何?」
もしかしてわたしのために、なんて聞くのはあまりに自惚れていて切り出せない。でも、それなら断らないと。
「わたしが欲しがっていたから?」
勇気を出して聞く。表情から感情がうまく読み取れない。
「僕が欲しいからだけど」
「あ、そうだよね。うん、変なこと聞いてごめんね」
恥ずかしくてうつむいてしまう。あまりにも自意識過剰で。
「えーっと、そちらの坊ちゃんが買ってくれるのでいいんだね?」
「はい」
頷くと手慣れた様子で女性がペンダントを手に取り、布で拭く。
「包む? 自宅用?」
彼女はかんたんな白い箱と装飾のついた箱を手で指す。
「いえ、そのままで」
「はいはい、まずはそちらから頼むよ。トレーにおいてね」
ルイカはトレーに代金を置く。それを確認して女性はルイカにペンダントと白い箱を手渡した。
「こっちの箱はしまうときに使いなさいね」
女性はささっと代金を数え終わるとコインケースに片付けていた。ルイカはお礼を言うと先に人の少ない道の隅に歩いていく。慌ててついていった。
どうしたのと声をかけたらルイカは振り返ってわたしを見る。
「髪、少し上げてくれ。僕がつける」
そっけない顔で、優しい声でルイカは言う。そう、あれはわたしの自惚れなんかじゃなくて、最初からわたしのために。
「……嘘つき。自分のためだって」
「自分のため。僕が君に贈りたいから買ったんだから」
それをわたしのためだと言うんじゃないかなと思う。でももうお支払いしてしまったし。何をどう言えばいいのか、わからない。
「そっか。……ありがとう」
自分の感情もわからない。申し訳ない気持ちも、君からプレゼントを貰えて嬉しい気持ちも、どうして騙すようなことをしたのと言う気持ちもある。
「つけてもいい?」
頷く。まとめ髪を少しだけ持ち上げた。
ペンダントが胸元に見える。後ろではルイカがどうにか留めようとしているけど苦戦しているようだ。
「大丈夫?」
返答代わりのため息。普段は髪で隠れていて外気に晒すのに慣れていないうなじに、人の温度を含んだ風が当たってくすぐったい。
「あとちょっとだから」
何かで使う予定なのか、顔が映るくらい磨かれた鉄板のようなものがある。それに私達は映っていて。
どきどきしてしまう構図だった。わたしたちの関係性ではあまりよくない近さ、というか。
「動くなって」
「ごめん。がんばる……」
苦戦している。眼鏡をかけているからといっても見えやすさには限界があるようだった。あと、もしかして結構不器用?
「よし、できた」
ルイカが離れていく。あ、終わったんだと安心する。まだ、あんな距離は早いと思ったから。……まだ?
「こんなものだろ」
少し汗が滲んでいる。日によってはもう暑いこともあるから、今日くらいの気温でもじっとしていれば汗ばむこともあるかもしれない。
「ありがとう。絶対、絶対に大切にするね」
お礼を言う。気持ちが伝わるように精一杯の笑顔で。
はっきりしない部分が多いわたしの心だけど、本当に嬉しかったことは確かだから。
何をどうすればいいのか分からないけど、今度はわたしが彼を喜ばせられるといいなと思う。
***
「コルネーヤ、後ろ空いてる」
「……これはね、戦略なんだよ」
コルネーヤとチィがうつ伏せで寝そべってボードゲームで遊んでいる。どうやら今はチィの方が優勢だけど、どうなるかな。
チィがコルネーヤのゲーム友達になってくれてよかった。実力も同じくらいだから、ゲームをしている時のコルネーヤは楽しそう。
レーチェはノイラに今日のことを話しているようだ。その表情から読み取れるのは、残念ながらあまり楽しい時間を過ごせなかっただろうことだけ。だめだったか、とそうだよね、が均衡している。
他の皆(なぜかいるトリカさんを含めて)の様子もソファに座って観察する。寝る前までのリラックスタイムを満喫しているようだった。
ソファの背もたれが沈む。振り向くとソファの後ろにルイカがいた。肘を背もたれについている。
「お疲れ」
「ルイカも。付き合ってくれてありがとう」
飾りのないねぎらいの言葉が嬉しい。それに、賑やかなところは得意ではなさそうなのに最後まで嫌そうな顔はしないでくれた。
……あのことを、聞いてみてもいいのかな。
「変なこと聞いてたらごめんね。今日のわたしのドレス、どうだった?」
「本当に変なことを」
呆れているような声の調子だった。うん、そうだよね。自分から聞くのは恥ずかしい。でも、トリカさんの言っていたことを確かめたかった。
「えへへ、なんて。冗談だよ」
そう、ただのちょっとした遊びだったのだと伝えながらルイカを見上げる。セラを交えて三人で話しているキャトラとトリカさんを見ているようだった。警戒しているような気がする。
目が合った。何かを迷っているようだったけど、耳を貸すように言われる。なんだろう。言われた通りに耳を近づけた。
「似合ってた」
少しでも声が漏れないようにか、いつもより低い声が耳に入ってきた。ぞくぞくした感覚が円のように広がっていく。心臓なのか、どこなのか、きっと心に近い部分がぎゅうと締め付けられている。
どうしよう、顔が見られない。きっと彼はただこの事をトリカさんたちに知られたくなくて、でもわたしに伝えたくて言ってくれたのだろう。
それなのに、勝手に変な気持ちになってしまっている。
「答えたんだから何か言えって」
うう、と呻きながらゆっくりルイカを見上げる。顔が赤いかもしれない。変に思われたらどうしよう。
「……あ、ありがとう……」
彼も少し照れた様子だったけど、幸いわたしの様子がおかしいことには気付いていないようだった。
……気付かれなくてよかった。変な女の子だと思われてしまうから。




