春祭り 6
「何を買う予定?」
「うん。コルネーヤたちへのお土産と、何かお昼ご飯の代わりになるものかな」
もしこれでお小遣いが余ったら、お菓子を買っていいかもしれない。勝ったら商品をもらえるゲームのお店もいっぱいあったな……。
「自分のものは」
短くルイカに聞かれる。自分のもの。
「うーん。そうだね。何か食べるか遊ぶかしようかなって」
「分かった」
何か考えている様子だけど、どうかしたのかな。
答えは出ないと思うから、辺りを観察する。反対側に向かう人の流れは激しいけれど、こっちは比較的穏やかではぐれる心配はなさそう。
ルートはルイカの提案だ。わたしだけならこんなに順調に進めずに人の波に揉まれていたと思う。
「何買おうかな……」
「菓子で良いんじゃないの」
二人へのお土産を道路の端に並ぶお店を見ながら考えているとルイカの声。口に出していたみたい。お菓子。お菓子もいいんだけど。
「せっかくだから何か形が残るものも買いたいなって。記念品みたいなもの」
「そうか、いいと思う」
肯定してくれて嬉しい。コルネーヤは行きたさそうだったのにお留守番してくれるのだから、ちょっとだけだとしてもこの場所の空気を感じられる物を持って帰りたい。
「うーん。クッキー?」
「被るかもしれない。あの飴は?」
ルイカの視線を追う。量り売りみたい。お客さんの小さい女の子の目の前でざらざらと流れるように袋にお菓子が入っていく。透明で、きらきらしていて、薄く色がついていた。砂糖菓子と書いてあるけれど、飴とは違うのかな?
でも、綺麗でかわいい。それに面白い見た目だからチィも喜んでくれるかも。
「こんにちは、お兄さん」
ニコニコとして愛想のいいお兄さんがわたしを見る。いらっしゃいと声をかけてくれる。
「えっと、二人分いただきたいです。どれくらいの量がいいですか?」
「二人ね。小さい袋で二つがいいと思うよ。お砂糖だからね、あまり量を食べられるものじゃないから」
「それでお願いします」
お兄さんは慣れた手付きで袋に詰めていく。太陽の光を浴びて、とてもきれい。これが食べ物なのは不思議だと思う。どんな味なのかな。
「はい、お嬢さん。少しずつ大切に食べるんだよ」
「伝えておきます! ありがとうございます」
待っているルイカのもとへ。興味深そうに見ている。
「首都は面白いものがあるよな」
「ルイカの故郷にはない?」
「田舎だから」
あまりルイカは故郷のことを話してくれない。悪い感情を持っているわけではないのは表情でわかるのだけど。もっと聞いてみたいな。お兄さんのことやご両親のことだったり、住んでいたところだったり。
***
コルネーヤとチィへのお土産も買い終えた。きれいなインク瓶。インクを満たすと髪飾りでよく使われる花の模様が浮き出るようになっている。それも、インクの色関係なくあの色とりどりな花のまま。
お昼ご飯も、蒸した穀物を押し固めた異国の料理を食べてみた。小さいのにあっという間にお腹が一杯になってびっくりしたな。もう少しまとまっていれば夜食に良さそうだとルイカは言っていた。
そろそろ戻ってもいいかもしれない。そう思いながら通りを歩いていると、水が落ちる音がした。実際に落ちたのとは少し違うような不思議な響き方。
「ルイカ、今水が落ちる音がした?」
何を言っているんだ、と言いたげな視線。首を振った。気のせいなのかなと思って、また音。音の発生源を探してみる。
そこは素朴なレイアウトの、あまり目立っていないアクセサリー店のようだった。吸い寄せられるように近付く。
「いらっしゃい! お嬢さん、ゆっくり見ておくれよ」
元気で活発そうな中年くらいの女性が店番をしていた。
「すごいな。ここの商品全てに魔術がかかっている」
商品を見渡して、小さな声でルイカは言う。すごい?
「珍しいことなの?」
「当然。手間がかかるんだよ。普通の店ではなかなか見かけない」
「そうよそうよ。私達は遠いところからわざわざ首都まで来ているんだもの。良いものを売らないといけないからねえ」
女性は豪快に笑っている。
「もしかしてあの村の?」
「お、賢い子だね。このアクセサリーは全部ウチの見習いの子が作った物なんだよ。だから納入のついでに、ってことさ」
お互いに通じているようで、わたしだけがさっぱりだ。よくあることとはいえ、置いてきぼりは寂しくなってしまう。
「彼女は工芸を得意とする魔術師集団、そのうちの一つに所属しているみたいだ。納得がいった」
教えてくれる。すごい人たちのようだ。魔術師集団。地縁や血縁によって構成されることも多いコミュニティ。
「だから見習いといえどもそこらの品には負けないよ。お嬢さん、何か気になっていたようだけど、どう?」
「えっと……」
そうだ、と音の元を探す。スタンドにかけられたペンダントから水が落ちる音が聞こえてきた。丸い円盤の中では水が回っていて、時々ぽつりぽつりと下に落ちる。その様子が不思議で、目が離せない。
「お嬢さん、これ?」
「音が聞こえるんです。水の音」
女性は首を傾げた。
「そうなのかい? そんな仕組みは組んでないはずなんだけどね」
彼女はまあ、よくわからないことがあるのも魔術さ、と深く考えていないようだった。何かがおかしいならルイカだって言うはずだろうけど、それもない。
「作ったあの娘は可愛い女の子をよく口説いてたし、その癖がペンダントに移ったのかもね。どうする?」
とても気になるけど、とても素敵だけど、お小遣いが足りない。彼女? には悪いけれど、今回は縁がなかったと思おう。
「ありがとうございます、でも、ごめんなさい。またお会いできたらそのときに」
「……それなら僕が買います。いいよな、リティ?」
後ろからの君の声に驚いて、思わず振り返った。




