春祭り 3
思ったよりもすぐに春祭り当日が来てしまった。街が祭り一色になっていくのにつれて、わくわくした気持ちと不安な気持ちとやってやるぞという三つの気持ちが強くなる。
巫女の家ではなくて、劇が行われる広場に近い”芽吹きを尊ぶ人々の会”の集会所を借りて着替えなどの準備をしていた。
わたしたちだけではなくて街の少女たちの着替えの場所でもある。だから、かわいい花飾りと色とりどりで綺麗な刺繍がほどこされているドレスを着た女の子に廊下で何回もすれ違った。
「あ、リティだ」
担当してくれる人が手一杯で一人ずつしか着替えやお化粧をできないみたい。順番が来るまで集会場をうろうろと歩いていたらリリの声がした。
リリはもう準備を済ませたようで、オレンジがかった黄色のドレスとオレンジ色の髪飾りをしている。少し短い丈が小柄で元気な彼女にとても似合っていると思う。
「リティはまだなのね。準備が忙しいのかな? って言っても私たちも順番待ちが結構あって着替え終わったのは私だけ」
「”私だけ”?」
他の皆――キャトラやチィ、ソーチャも参加するのかな。ノイラが聞いたら不安がるだろうけど、彼女が言うよりキャトラは状況を把握できている女性だと思う。だからそこまで言うのがよく分からない。
「そうよ! 守護魔術師の女の子たち皆で参加しよーって! チィもソーチャも遠慮していたけど、連れてきちゃったの」
「そ、そっか」
チィは明らかに自分が注目を浴びるのが嫌いなタイプ。だから嫌がるのはわかるけど、ソーチャは意外だ。彼女は明るくて陽気、楽しい人だから。
「あたしがこんなの着ても似合わないよーってずうっと言ってて。おしゃれして似合わない女の子なんていないのにね?」
「そうだね。きっと似合うと思う」
なるほど。ソーチャは確かにかわいらしい服装をしている所をあまり見ない。どちらかというと流行している格好いいスタイルが好きなようだった。それでもきっと似合っていると思う。
「ララはまた違うドレスなんだよね」
寂しそうな声だった。そう。ほとんど同じだけど、真っ白なドレスの上に上に何枚か色のついていないオーバースカートを重ねるみたい。セラはそれに加えて色のついた衣を羽織り、冠を被る。
「そんなに違わないよ。色が違うのとちょっとだけ飾りが多いだけで」
「そうね……違わないよね。変なこと言っちゃった! あはは」
「変なことじゃないと思うよ。仲良しなら一緒がいいよね」
二人の関係は、推測しようとすればいくらでも推測できる。それでもリリがララのことを初めて会った、知らないただの良く似た人だと言うのなら。わたしたちはそれを尊重しなければならないと思う。
「じゃ、そろそろ私いくね。たぶん誰かしら終わってるんじゃないかしら。リティもいかなくて大丈夫なの?」
「多分わたしはまだ大丈夫だろうけど……でも行ったほうがいいかもしれないね」
「スケジュールには余裕持たないとだめよ? またあとでね」
リリは元気に手を振ってわたしとは逆の方向に歩いていく。ドレスの裾がひらひらしていた。
***
控え室に戻る。居るのは行く場所のない男性陣と、今着替えている最中のコルネーヤを除いた巫女の皆。
会の人曰く、楽しみが無くなるから外の人にはあまり見せたくないとのことでここで待機している。
ノイラはそわそわどきどきしている様子で、しょっちゅう周りを見渡している。キステットは刺繍。彼女は細かい作業が好きなのか、よく針仕事をしているのを見かけた。
「ノイラ、大丈夫?」
「大丈夫ですよ? とうぜ、当然ですよ。こんなことくらいで緊張だなんて」
どう見ても平気そうには見えない。かと言ってそれを指摘するのも申し訳ないので、曖昧に笑っておく。
「リティ、どこに行っていましたの? 次私でもいいかしら?」
「見学してたの。うん、大丈夫だよ。何番でも」
了解ですわ、と丁寧なのかざっくりなのか判断に困る返事。何となく高貴なというか偉い……? 雰囲気を持っているけど、中身は意外と普通な子という印象がある。
「……リティにだけはお伝えするわ。聞いてくださいな。このあと私に待ち受ける運命を」
何度か迷ったんだと思う。間をあけて急に悲しげな表情、小さい声で話し出した。何だろう。心配だ。
「私たち、終わったらもう閉会まで自由の身なのはご存知の通り。私も情報を集めていましたの。あんな店やこんな店が出店するという」
正確には劇の後は家に帰ってお留守番のチィとコルネーヤを除いて。もし大けがや病気をした人が来た時に対応できるように。チィは喜んでいたというか、さりげなく手を挙げていたように思えるけど、コルネーヤは少しだけ残念そうだった。
お土産を買って帰ろう。
「うん。人気のお店がいっぱい来てくれるよね」
でも、それが悲しい顔と何の関係があるのだろう。
「その予定を全て壊されましたわ。全てじゃないかもしれませんけど! あの男に……!」
ジードルを指差す。ううん……話が見えてこない。
「デートの約束を入れたんですの、あの男は。ただただベタベタベタベタするのを見せられながら連れ回される運命なのよ、私は」
苦笑いする。誰も幸せにならないシチュエーションだね。きっとわたしでもとっても嫌だと思う。レーチェの立場も、ジードルのデート相手の立場も。仲良くしている二人に割り込むのは気まずいし、せっかくなら二人っきりでデートしたい。
でも、そっか。巫女だから二人きりは無理なんだ。……ううん、二人きりになれる可能性が全く無い訳ではない。でも、その可能性はあんまり考えたくないな。どう説明すればいいのかわからないけど、変に考えてしまいそうで。
「お次の方、そろそろこちらに」
はぁい、と返事をしてレーチェは準備に出かけていく。愚痴を言ってすっきりしていたらいいけれど。
「レーチェと話をしていたようだけど、何を話していたんだい?」
ジードルはいつも穏やかな口調。でも、表情の変化が少なくて時々怖いのだとよく言われている。
「自由時間が楽しみだねって」
「なるほど、その話だったんだね。おれも楽しみなんだよ」
そうだと思う。
「リティは自由な時間はどうするの?」
「色々見て回ろっかなって。コルネーヤ達にもお土産渡さないと」
少し考えている様子だった。
「そうだね、おれたちも買って帰ろうか。彼女たちなら二人が気に入るようなものを教えてくれるだろうから」
とりあえず笑顔で頷いておく。




