ep7 困惑な誘い
ニコニコ笑いながら悠はスポドリを差し出すもその手を湊によって払い除けられる。スポドリのペットボトルがコロコロと地面を転がる。
「悠!」
心配そうに柚が駆け寄ってくる。しかし、手で柚を制す。
「私は貴方を化け物だとは思わない。さっきの様子も見てたけど、すごい、綺麗だなって感想以外はないよ?」
「……」
何を言っているんだ? と言う様な表情の湊を見て、悠は笑う。
「それに自分で化け物なんて言わないで。私の身内も他から化け物言われてるけど、そんなことない。自分で自分を卑下する必要もない。言いたいやつには言わせとけばいい。でも自認はしないでほしい」
悠はまっすぐに湊の瞳を見つめながら言う。見つめられたからか、湊がたじろぐ。
「だとしても、よく知らない人にとやかく言われたくない」
「私は、夜神悠。あそこにいるのが八神柚。これで知らない人じゃなくなったよね?」
悠は自分でも強引だと自覚しているが、そう笑顔で伝える。すると湊はとてつもなく嫌そうな表情をした。
これは長丁場になりそうかな? と悠の直感が告げた。それでも悠は諦める気はない。少し空腹を感じて、鞄からお菓子を取り出して食べる。買い足したパンはすでに食べ終えてしまっていた。長細いスティックがたくさん入っているサラダ味のお菓子だ。
パクパクと食べながらも真剣な表情で湊を見る。
「その理論、意味不明だし、なんでいきなり食べ始めたの?」
悠の唐突な行動に湊は若干引いている。悠はその様子を気にせずに笑って答える。
「私、燃費が悪いの。気にしないで」
「いや、話しながらいきなりお菓子食べられて気にしないのは無理だから」
湊が不審な人物を見る様な目で見てきても悠は気にしない。
「でも食べるのは私にとって呼吸と一緒だから」
「いや、本当に意味わからない」
理解不能という顔をして湊はその場をさろうと悠に背中を向けようとする。
「あっ、待って……!!」
思わず声をかけると、湊は止まってくれた。優しいなぁと思いながら悠はおやつを食べながら言葉を続ける。
「私は諦める気ないからね!」
「お菓子食べながら言っても、説得力ないから」
呆れた様にそういうと、今度こそ湊は背中を向けて去っていってしまう。
「悠、大丈夫か?」
転がったペットボトルを拾った柚が悠のそばに来る。
「大丈夫だよ。とりあえず、毎日押しかけて諦めさせよう」
お菓子を食べ終え、ゴミを袋に入れる。そして柚から受け取ったペットボトルのスポドリを1口飲んだ。
決意を新たにしている悠の周りから呻き声が聞こえる。そこで悠は男達が周りに倒れていたことを思い出した。
「あっ」
「起きるかもしれない、すぐにこの場を去ろう」
そう言って、柚は優をお姫様抱っこし、元きた道を戻る。ちょうど湊が去っていった方向と逆の方へと進む。
「もう大丈夫だよ、柚。おろして」
「……わかった」
男達から離れたことを確認すると悠は柚に声をかける。柚は少し不満そうな様子だが悠をおろした。
「ありがとう。心配してくれたんだよね」
悠をおろしたタイミングで屈んでいた柚の頭を悠は撫でる。
「でも、私は子供じゃないから大丈夫だよ?」
「でも、はるさんからも悠を守る様に頼まれてる。悠はマスコットだって言ってた」
「……マスコット? はる兄そんなこと言ってたの?」
悠が頬を膨らます。柚はそれを見てしまったという顔をした。
「しまった。これは悠に秘密だって言われてたんだった」
「まぁ、バレること前提で言ったと思うよ? 柚は私に隠し事出来ないもん」
慌てる柚に悠は笑う。そう、柚は悠全肯定の人間だ。孤独な世界を開いた悠を過大評価している。そして、悠も柚の期待に応えようとしていた。歪な関係を抱きながらも、友として、主従として、姉弟として2人は関係を築いてきた。側から見たらおかしいと指をさされても2人とも気にしない。
しかし2人ともお互いを馬鹿にされるとそれに対しては思うところはある。相手が気にしていないから本人の前では言わないが、お互いそれも理解していた。
「まぁ、明日また会いにいく事にして、今日は帰ろうか。お腹すいたなー、晩ごはんなんだろ?」
「そうだな。でもあいつ別にいなくてもいいんじゃないか? 悠を馬鹿にした」
「馬鹿にはしてないよ、それに柚も見たでしょ? あの強さ。あの子はきっと私が求めていた存在なんだと思う」
真っ直ぐと前を向き、悠は瞳に覚悟を宿らす。柚はその様子を見てなんとも言えない顔をする。
「大丈夫。柚の事も信用しているよ?」
柚が不安がっていると感じた悠は、心からの笑みを浮かべて柚を上目遣いで見る。柚は小さく頷いた。
♢♢♢♢
西宇治湊は困惑していた。いつも通り公園を歩いてたら喧嘩を売られ、返り討ちにした。そこまではいい。その後、いきなり現れた小柄な少女だ。あの立ち回りを見ていたはずなのに平然と声をかけてきた事に驚いたが、それ以上に発言に驚いた。
自分と協力したいなんて、初めて言われた。その言葉が理解できなかった。彼女の近くで控えていた湊をずっと警戒する様に見ていた少年の方がよっぽどわかりやすい。
「なんだったんだろう……」
「何がだ?」
独り言に背後より返事があって湊は驚いて振り返る。そこには奏兎がいた。
「部活は終わったの?」
「終わったぞ。それにシノから湊を探している2人組がいたって聞いて心配になってな」
奏兎は高校で弓道部の部長をしている。なので心配だったのも部活が終わったのも本当なんだろう。
「今日も、うちに来るか? 母さん達喜ぶぞ」
奏兎は笑いながら湊に声をかける。まだ混乱している湊は小さく頷く。
「ありがとう、かな兄」
何も聞かないでくれてと心の中で呟きながら、湊は奏兎の手は取らずに歩き出す。後ろから奏兎の笑い声がする。
「よかった。既に母さんにうちに湊が来るって言っていたから、来てくれなかったら怒られていたよ」
笑いながら奏兎は早歩きで湊の隣まで来ると歩幅を合わせて、家路についた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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