ep6 運命の出会い
悠と柚は六合公園まで来ていた。広大な広さの公園にどうしようかと柚と相談する。
「そもそも俺達、西宇治湊の顔を知らない」
「あっ、そうだった。篠宮さんに顔教えてもらうべきだったね」
そうだったと悠は少し考えた。しかし、何故か予感あった。きっと会ったら私は彼女がわかるだろうと。
どうしようかと「うーん」と考える悠を柚は見ている。
頭を使うことは悠が、体を使うことは柚がという役割分担が昔から出来ていたのだ。
だから柚は悠の決断を待っている。悠はそれを理解していた。顔がわからない以上、手分けをして探しても意味ないなと感じた悠は決断する。
「私の直感を信じて、適当に公園内歩こうか」
「わかった。疲れたらいつでも抱えるからな」
「もう、私そこまで体力ないわけじゃないよ? 柚の体力が人並み以上なだけだからね?」
話しながら2人は歩き始める。公園は広大でランニングコースやウォークコースがある。ウォークコースを周りを見ながら進む。
途中にある広場や遊具で子供達が遊んでいるのを悠は眩しそうに見つめた。
「懐かしいね、私達もよくはる兄と遊びに来てたよね」
「そうだね。よく悠は迷子になってた」
「あはは。気がむくまま、興味の対象に突撃してたからね。よくはる兄に説教されてたなぁ」
「はるさん、大学今年で終わりだよな。あと1年で帰ってくる」
「そうだね。といっても長期休みはいつも帰ってきてくれてたからそんなに離れてる気はしないけど」
懐かしい光景に兄である遙を悠は思い出す。柚にとっても遙は大切な兄の様な存在の為、表情が少し穏やかになった。それを見て悠は笑う。
大切な弟が穏やかに過ごすことが悠にとってはなにより幸せだ。
しかし、夜神の家はそれを許さない。いつ起きるかわからない時期当主決め。夜神のトップは血族通しを潰し合わせる事を望んでいる。だから、夜神の血族は人数は多いが横の繋がりは希薄だ。悠も一族の集まりで同年代の子供を見たことある程度で、ほとんど名前を知らない。
それでも柚と潰し合うことだけは絶対にしたくない。それはきっと柚も同じ気持ちだと悠は信じている。
だから、当主決めの儀式が始まる前までに夜神を潰す。それが無理でも少しでも多く情報や武器を増やす。
幸運な事に悠も柚も一族には出来損ない、いない事にしようと馬鹿にされており、何をやっても気に止められない。
柚は親に遺伝子操作され作られた存在で戸籍がなかっただけ、人よりも学ぶのが遅かった、ただそれだけで『化け物』と馬鹿にされるのが悠は許せなかった。
悠自身も『欠陥品』と呼ばれているが、悠は自覚があったので何も思わない。昔から他人に対する感情が希薄だった。自分の周りの僅かな人たち以外はどうでもいい。一部の感情の欠落は自覚していた。
他者に興味を持てないのではない、どうでもいいのだ。だから高校に入って1ヶ月経った今もクラスメイトの顔も名前もほとんど覚えていない。
そんな自分を欠陥品と呼ばれている事に悠は納得さえしていた。その事に怒る柚がなんで怒るのか理解できないほどに。
「悠、どうした?」
思考の海に沈んでいた悠の顔を柚は覗き込んできた。そこでやっと現実に戻ってきた悠は笑った。
笑顔は仮面だ。面倒事を避ける為には無表情より笑顔の方がいい。本当の笑顔を見せるのは家族だけだ。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
心配そうな柚に笑いかける。その時、少し先の方が騒がしい事に気づく。悠はまつ毛の上に手を当てて、遠くの様子を見ようとする。
「女1人を複数の男が囲んでいる。喧嘩か? 悠、危ないから近寄らない様にしよう」
目のいい柚が様子を確認し、元きた方向に悠を誘導しようとする。しかし、悠は譲らなかった。
「さっき、篠宮さんが言ってたよね? 西宇治さんに決闘しにきたのかって、あそこにいる女の子は私達の探し人かもしれない」
どうしても近づきたい悠。しかし柚は危険な場所に悠を近づけたくない様子で顔を顰める。
「でも、巻き込まれるかもしれない」
「その場合は、柚が助けてくれるでしょ」
「……それは、そうだけど。俺は悠が危ない目に遭って欲しくない」
「ありがと、柚。でも私はあそこに行きたい」
「……」
だめ? と悠は柚の瞳をまっすぐに見つめる。うっと柚は言葉に詰まる。しばらく見つめ合い、柚が折れた。
「わかった。でも近づきすぎはダメだ。俺がここまでって言った場所まで、いい?」
「ありがと、柚! 大好き」
悠は柚に抱きつく。柚は微かに顔を赤くするもすぐに気を引き締めた様子だ。そして、悠は柚から離れると柚の後ろをついて騒動に近づく。
そこでの光景は圧巻だった。
1人の少女に体格のいい男達が投げ飛ばされ、蹴飛ばされどんどんと倒されていく。多勢に無勢って言葉はなんだろう? と思うくらいに少女は強かった。
自分に向かってきた男の右腕を掴み後ろから襲いかかってきた相手に向かって投げ飛ばすと同時に横からきた男の足を引っ掛けて、肘鉄を喰らわせる。
明らかに1対多の喧嘩に慣れている様子だ。
「すごいな」
悠の隣で柚が呟く。柚がすごいと思っているということは本当にすごいんだと悠は感動した。この強さなら巻き込んでも大丈夫。そう確信する。きっとあんなに動いたら飲み物飲みたくなるよねと悠は近くの自販機に向かい走る。その後ろを慌てた様子で柚が追いかけてくる。
悠は気にせずに自販機でスポドリを購入する。
そして振り向くとすでに少女の周りには立っている男はいなかった。少女の勝利は火を見るより明らかだった。少女は息すら乱さず、男達を見下ろしている。
「こんにちは、西宇治湊さんですね、よかったらこれを」
倒れている男を避けながら悠は少女に近づく。柚は心配そうに少し離れた場所で見ている。悠に離れている様に言われたからだ。不服そうだが、約束は守っている。いい子だなと悠は思いながら目の前の少女に意識を戻す。
「なにこれ? というかよくこの状況で声をかけてこられたね」
周りに倒れている男達を見回しながら少女ーー西宇治湊はまっすぐに悠を見る。
悠は微笑みながら喧嘩を見ながら言おうとしていた言葉を伝えた。
「私に協力してほしい。貴女となら私のやりたい事やれると思うから」
スポドリを持った右手を差し出しながら言う悠。湊は悠とスポドリを怪訝そうに交互に見ながら口を開いた。
「自他共に認める化け物である私と? 正気なの?」
こうして2人は運命の出会いを果たした。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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