ep3 悠と柚
悠がもうすぐ小学1年生になるかという頃、夜神の屋敷を探検していると、隠し通路を見つけた。悠は好奇心に負けてお菓子を食べながら隠し通路を進む。しばらく薄暗いコンクリート造りの通路を通ると、急に開けた空間に出る。正面には地下牢が、右側には沢山の資料が載った机、左側には何かの実験施設の様な設備がある。
「何ここ?」
そう思いながらも悠は特に怖さも感じずに歩く。その時、牢の中に誰かいることに気づく。近づくと1人の男の子がいることに気づく。どこか親近感を感じながら檻に不用意に近づく。
「……だれ?」
檻の中には美しい造形の男の子がいた。かっこいいなぁと悠は見ながらも男の子をどこかで見た事がある気がした。
「うーん……」
檻の前で記憶を漁る。しばらくして、「あっ」と思い出す。あの一族の子供が集められた時に檻に入れられていた子だと。
「久しぶり……だよね? 私のこと覚えてる?」
「……だれ?」
「覚えてない? 私、夜神悠。君は?」
「……検体01って言われてる」
「……? それは名前じゃないよ? 名前がないの」
「多分そう……なのかな?」
悠は驚いた。名前がない人と初めてあったからだ。昔会いに行った同い年の親戚が「名前がないならつければいい」という様な事を言っていたのを思い出した。
「うーん、私が悠であの子が雪だから……あっ、柚ってどう? 私、柚湯好きなの!」
悠はいい名前を思いついたという様にうんうんと頷く。男の子は驚いた様に目を見開く。
「ぼく……ゆず?」
「そう、柚! よろしくね。私は悠だよ。言える?」
「ゆう? ……よろしく?」
「うん」
悠は嬉しそうに笑った。その時、悠はなんで柚が閉じ込められているのか疑問に思う事はなかった。
「柚! 今日から私たちは友達ね!」
「……ともだち?」
「そう! ずっと一緒にいるの!」
そして悠は柚を出そうと檻の扉に触れた。扉には鍵がかかっておらず、ギィと音を立てて開いた。
「さっ、一緒に行こっ。お兄ちゃんにも柚紹介したい」
明るく太陽みたいな笑顔で悠は柚に手を伸ばす。柚は躊躇いながらも悠の手を取る。
「んー、柚汚いね! お風呂入らないと」
「おふろ?」
「お風呂知らないの? 変なの」
そう言いながらも、悠は柚の手を引きながら隠し通路を戻った。隠し通路を出るとちょうど悠を探していた遙と出くわした。
「えっ? 悠今どこから出てきたってか、その子!?」
驚いている遙に悠は笑う。
「柚だよ! 私の友達。お風呂に入れてあげないと」
「えっ、柚? 博士の息子だよね、……え?」
状況が整理できない様で混乱する遙を置いて、悠は柚を風呂場まで案内しようとする。
「本物の柚はないけど、柚の入浴剤はあるかも!」
「ちょっと待って、いろいろ聞きたいけど、悠! その子男の子! まさか一緒に入るつもりじゃないよね!?」
走ってきた遙に止められ、柚は遙と一緒にお風呂に入る事になった。悠は私の友達なのにとブーたれたが遙が断固拒否した為、お風呂場の前の壁に持たれて2人が出てくるのを待った。
♢♢♢♢
それから時はすぎ、悠達は高校1年生になった。
教室の窓側の1番後ろの特等席に座っていた悠は菓子パンを食べながら、昔を思い出して笑う。
「どうしたんだ、悠」
横の席に座って悠を見つめていた柚が不思議そうに尋ねる。悠は柚の方を見てもう一度笑う。
「柚とあった時の事を思い出してさ。兄さん必死だったなと」
「今思うと、はるさんには感謝しかない」
「えー、柚は私と一緒にお風呂入るの嫌だったの?」
クスクスと笑う悠に柚は顔を真っ赤に染めて立ち上がった。
「いっ、嫌とかではないが、あの時の俺は常識が本当になかったから」
「ずっと閉じ込められていたもんね」
「ああ、あそこが俺の世界の全てだった。それを広げてくれた悠は恩人だ。俺はあれから色々学んで悠のために生きると決めたんだ」
「それは重いよ」
クスクスと笑いながら悠は懐かしそうに柚を見る。
「それにしも私の直感は凄かったね。柚が同い年だった事もそうだったけど、あの時柚をあそこから出していなかったら、ここに柚いなかっただろうし」
そう、あの日柚を風呂に入れ終えた後に遙が両親に交渉して、彼らの両親が夜神博士に連絡を入れると、実験は破棄したから好きに使えと言われたという。それはあのまま柚が朽ちていたかもしれないという事だ。そんな事にならずに本当に良かったと悠は思った。
あの日から柚は悠の友達兼従者の様に扱われた。従兄弟なのにと思いながらも、柚は夜神で分家の子だからと両親に言われる。
夜神の一族は本家の人間は夜神と名乗り、分家は夜神と名乗る。しかし、わかりづらいという事で公式の場以外では分家は八神と音だけ残して漢字を変えて名乗っている。
戸籍すらなかった柚に悠の両親達は八神柚という戸籍を用意した。それからずっと悠と柚は一緒だ。
柚は悠の事を恩人で主人だと思っているが、悠にとっては大切な弟だと思っている。
そんな事を思い出しながら悠は立ち上がり、柚の椅子を引き、座る様に促す。大人しく椅子に座った柚の頭を悠はよしよしと撫でる。途端に柚の顔は真っ赤になった。
「きゃー美男美女が戯れてる」
どこからか悲鳴と共に何か聞こえた気がしたが、悠は気にしない。満足いくまで柚を撫でると悠は「うん」と笑顔になる。
そして鞄から高カロリーのお菓子を取り出して食べる。
「とりあえず、今日の放課後に接触してみようと思ってるんだけど、柚は大丈夫?」
「悠が決めた事に従う」
悠の言葉に柚はすぐに頷く。その様子に悠はまた笑った。
今日の放課後の出会いはきっと素敵なものになるそんな予感を感じながら悠は残りの授業を乗り越えた。
これにて序章は終了です。次回より第一章となります。
この『月と陽』は『ぱんどら』と同世界同時間軸でございます。よろしければぱんどらも一緒にお楽しみください。
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次回は、水曜日20時更新予定です。
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