ep4 都市伝説
教室の窓際の1番後ろの席で悠は菓子パンを食べながら隣を盗み見る。大切な友達であり、弟でもある柚がクラスメイトの女の子達に囲まれている。
うんうん、うちの子かっこいいからねと思いながらパンをまた一口齧る。あんこの甘さが脳に染みる。
「八神君は、この辺の都市伝説って知ってる?」
「都市伝説?」
興味なさそうに柚は答えている。学校ではみんな仲良くと初めて小学校に通う日に悠が伝えたからか、どんなに興味なさそうでも無表情で相手はしている。うちの子本当に素直で可愛いのとその様子を見て、うんうん頷く。
隣から助けを求める柚の視線を感じるが、悠は心を鬼にして気付かないふりをした。交流は大切なんだよと思いながらまたパンを齧る。しかし、話は興味深いと悠は耳だけは柚達の方に集中する。
「そう、生ける都市伝説! 西宇治湊っていう私達と同い年の子なんだけどさ」
「あっ、知ってる! 熊をひと睨みで退けたんだっけ?」
「えっ、私は動物園の動物が怯えたって聞いたことあるよ?」
「あれ? 私はこの辺の不良壊滅させたって聞いたよ?」
ふむふむと悠は思った。噂は大袈裟に伝わることが多い。それでも似た様な事はあったと思ってもいい。面白いなと純粋に悠は思った。パンをもう一口齧りながら話を聞き出せと柚に視線を送る。柚はため息をつき一度目を伏せると、悠にだけわかるように小さく頷いた。
悠は心の中でガッツポーズする。
「すごいんだな。本当に実在するのか?」
「するよ? だから生ける都市伝説って言われているの」
噂話を話し始めた女の子は楽しそうにクスクス笑う。
「私、中学同じだから、本人も知ってるし」
「えっ、私人殺しって聞いたけど、怖くない?」
「あー、そんな噂もあったね。本人は無表情無感情な感じで底は読めないかな? 東條先輩ってかっこいい先輩がめちゃくちゃ構っていて、一部からは嫌われていたかな?」
「そうなの?」
「従兄弟らしいって聞いたから、私は気にしてないけどね。名物の様に西宇治さんに抱きついて、"お兄ちゃん悲しい! "とか叫んでるの私も何度か見たことあるの。それでファンの子達が妬いちゃって絡んでくるの無視してたから人殺しの噂は嘘だと思うよ?」
噂好きの女の子はそう話す。悠はそこまで聞いてその噂の子が気になった。ちょうど最後の一口のパンを食べ終え、ゴミを丸める。そして持参しているゴミ袋に入れて、席から立ち上がる。
「ねぇ、その西宇治湊さんってどこで会えるの?」
急に入ってきた悠に噂好きの女の子は一度驚いた様に目を丸めるもすぐに笑う。
「夜神さんも、興味あるの?」
「少し気になって。聞き耳立てててごめんね」
「全然いいよ! 私、夜神さんとも仲良くなりたいし……」
「ありがとう」
悠はニコリと微笑む。悠も自分の容姿が人より良い自覚はあった。その笑顔に相手の女の子が赤面する。
「……かっ、可愛い」
「褒めてくれてありがとう。それでどこで会えるの?」
悠が彼女の顔を覗き込む様に再度尋ねると、さらに顔を赤くする。見てられなくなったのか、噂好きの女の子と悠の間に柚の腕が現れる。そして悠を柚はそのまま抱きしめる。
「相手が困ってる。あまり見つめるな」
「えー、話す時は人の目を見るって言うでしょ? それになんで私を抱きしめるのかな、柚?」
「口で言っても悠に俺は勝てない。だから強制的に」
「なるほど、考えたんだね」
よしよしと柚の背中に手を回し背中を撫でる。少し小柄な悠にとって背の高い柚の頭を撫でるのは背伸びをしても難しいから背中にした。周りで悲鳴が聞こえた気がしたが悠は気にしない。
「でもね、私彼女に用があるんだ。だから離して、ね?」
悠は微笑みながら柚に伝える。柚は少し不服そうな様子だが、渋々と言った様子で悠を解放する。
周りを見るとさっきよりも赤面している人が増えている気がして首を傾げる。
しかし悠はすぐに目的を思い出して、噂好きの女の子のところに戻る。
「途中で遮っちゃってごめんね? それで彼女にはどこで会えるの?」
「あっ、六合高校に通ってるはず。そこに四方ってグループ? ……えっと名前に方位が入っている4人がいて、そう呼ばれてるみたいなんだけど、その人達と仲が良かったと思う。4人とも有名人だから多分名前を出したらわかると思う」
「六合高校の四方だね、ありがとう」
悠はお礼を言い、彼女に抱きついた。また赤面する。赤面症なのかな? と思っていると、柚に引き離される。
「悠はすぐに人に抱きつくのをやめなよ」
「えー、最大限の感謝を表しているのに」
悠にとって抱きしめて感謝をすると言うのは幼少期から兄がしてくれていたことで、悠自身も柚に感謝の気持ちで抱きついていた。だからこそ何がいけないのかわからない。
赤面している女の子に柚は謝っている。納得のいかない悠はむぅと頬を膨らます。周りから可愛いと言う声が聞こえた気もしたが、悠は気にしない。
「わかった。なら柚に抱きつくのも控えるね? 嫌だったんだね、ごめんね……」
「えっ……」
悠の発言に柚はショックを受けた様な顔をする。理由がわからず悠は首を傾げた。
その時チャイムがなり、みんな席へと戻っていった。
悠と柚も自分の席に着き、教師が来るのを待つ。
「悠、その、他人は困るからやめた方がいいと思う。……でも俺は嫌じゃないから……」
柚が何か言ってるタイミングで教師が入ってきた。チラリと柚を見ると落ち込んでいる様子だ。
可愛いなぁと柚を横目で見ながら悠は笑った。そして授業に集中する。
放課後に六合高校に行くと決意しながら。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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