ep16 接触
玄関が封鎖された自宅の部屋へと湊は庭にある木を伝って入った。
必要最低限のものしか置かれていない部屋はいつも変わり映えがない。理由は考えたくもないが、当たり前のように部屋の中にある水回りや簡易キッチンのお陰で、部屋の扉の外から出れないように板張りになっていても、生活には困らない。
東條家とは違う、自分以外に人の気配のしない空間に湊はホッと息を吐く。
「本当に、何なんだろう……。あの子には私はどう見えてるの?」
ベッドに突っ伏しながら、湊の口から思わず声が漏れた。
何度断っても諦める気がないと顔にすら書いてある悠の思考が読めない。
湊に近寄ってくるのは奏兎をはじめ、四維のメンバーを除くとほとんどが敵意を持って近付いてくる。
柚からは微かな敵意を感じる。だから、湊は安心できた。
しかし、悠は違う。最初の頃は利用目的なのがすぐにわかった。だから、やり過ごせた。
それがあからさまな好奇心と好意へと変わってからは湊に恐怖しか与えない。
学校に来るなと伝えた。しかし、悠が言うことを聞くとも思えない。
その証拠に今日は登下校どちらも張られていた。自分のことを調べたとは言われたが、流石に家まで割れていないか心配になる。
明日は学校を休もう。
湊は決意した。しばらくは自分が避けながら様子見するしかない。そうしたら、きっと諦めてくれるだろう。
湊はそう祈ることしかできない。
慣れない人間の相手をして疲れたと、湊はそのまま瞳を閉じるとすぐに意識を手放した。
湊は知る由もなかった。自分のこの判断により、さらに自分にとって不利な状況に追い込まれることになることを。
◇◇◇◇
悠は、柚の作った朝食を食べながら考える。
昨日は午前と午後の2回も押しかけたから、流石に湊は今日は学校に現れない可能性を。
それはそれで、湊の知り合いに声をかけて協力を仰ぐチャンスでもあるから、悠としてはどちらでも構わなかった。すでに、悠の中では長期戦の覚悟なのだから、短絡的に考える気もない。
「雪に現住所まで調べてもらった方が良かったかな? でも、少し友達に家を教えてもらうってシチュエーション憧れなくもないんだよね」
悠は味噌汁を一口飲み、ホッと一息つきながら呟く。知りたいことは全て雪に聞けば、ほとんどのことがわかる。それでも、全てを雪に頼るのは違うと悠は考えていた。
もう長いこと会っていない同い年の親戚を思いながら、悠はゆっくりと息を吐く。
「どうした? 悠」
うんうん唸りながら、ご飯を食べていたからだろう。キッチンで作業をしていた柚が心配そうに近付いてきた。
「うーん、今まで当たり障りのない人付き合いやいかに気配を消して悟られないかに重きを置いてきちゃったから、難しいなーって。交友関係は雪の方が広いんだよね、あんな性格なのに」
「人を利用することしか考えてない奴の話は聞きたくない」
「あはは。雪の性格は悪いけど利用する人間に関しては徹底的に調べ上げてどこまで利用しても問題ないクズなのか把握してやってるからね?」
「そんなの、俺の知ったことじゃない」
不機嫌そうに腕を組む柚を見て思わず笑いがこみ上げる。
柚と雪は1度しか会ったことがないがここまで一方的な犬猿の仲になっている。柚と湊はどうなるんだろうなと少しだけ心配になったが、なんとかなるかと気楽に考える。
「とりあえず、もしかしたら今日、湊は学校に来ないかもしれない。だからね、今日は六合高校に行くのは放課後だけにしよう。また、篠宮さんとかあたりを引けることを祈ってさ!」
「ということは、今日は普通に学校に行くのか?」
「そう! 流石に家の権力使えるとは言っても、やり過ぎは良くないからね。それに学校何度もサボってるのバレたら、お母さん達に心配かけちゃうしさ」
悠は笑顔で肯定する。母親の単語を聞き、柚の顔も引き締まった。
「おばさん達に心配をかけるのは駄目だな」
「そうだね。というわけで、今日はしっかりと授業に出て、部活終わりで帰宅する湊の知り合いを捕まえよう!」
「そうだな、でも、わかるのか?」
「わかんない。ただね、昨日の朝に見かけた男の人がどこかで見覚えがあってさ、その人を捕まえてみようと思ってるの」
悠は、朝食を食べながら器用に柚の質問へと答えていく。
「そうか、通りかかると良いな」
「そうだね」
今日の動きを確認すると、悠は朝食の続きを食べることに集中する。柚は笑顔で空いているお皿におかわりを乗せたり、片付けたりと忙しなく動いていた。
◇◇◇◇
放課後。
悠達は六合高校の校門前まで来ていた。初めて来たときは校門に背中を預けていたが、今回は校門前のガードレールに腰をかける。
悠は鞄の中から菓子パンを取り出すと口に頬張りながら、校門を見る。
まだ部活動が終わるまでには少し時間があるようで、ほとんど校門を通過する人はいない。
「うーん、時間を見誤ったかな?」
「遅いより、早くからいた方が良いと思うから、悠は間違ってない」
「そうだよね」
柚とそんな会話をしながらも、悠の視線は校門から動かない。柚と違って、気配を探れない以上は、見逃さないことしか悠にはできない。
少しすると、話し声とともに部活帰りと思われる生徒達がまばらに校門を通過していった。
「――だな、湊もさらっと、サボってるし」
そして、悠の耳に『湊』という固有名詞が飛び込んできた。悠は座っていたガードレールから立ち上がると声がした方を見る。
黒髪の人当たりが良さそうな少年がいた。悠はトコトコとその少年に近付いた。
昨日の朝見かけた、どこか見覚えのあった少年だと思いながら悠は歩く。
「初めまして。湊さんに関して少し話があるのですが、お時間よろしいですか?」
そして、笑顔の仮面を完璧に貼り付けて、少年――東條奏兎に話しかけた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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