ep15 確かな手応え
悠は湊を半ば引きずるように引っ張りながら六合公園へと辿り着いた。公園に入るとすぐに周りを見回す。そして入口から少し離れた場所のベンチに目をつけた。机に向かい合わせになるように2脚のベンチが設置してある方向へと迷わずに向かう。
「話し合いなら、やっぱり机があった方がいいよね! ここにしよう」
悠は一番人目につきにくそうな、三方を木で囲まれた奥のベンチへと向かった。そして少し考えてから、手前のベンチ――通路からだと背中が見えない位置へ湊に座るように案内すると、自分は向かい合わせになるように反対のベンチに座る。
悠の横に当たり前の顔をして柚も座った。
湊は警戒するように悠と柚を見ていたが、逃げられないと諦めたのかおとなしくベンチに腰掛けた。
その様子を悠は鞄から菓子パンを取り出して、袋を開けながら見ていた。
「それで、君たちはどうしたいの」
湊は居心地が悪そうに体を小さくしながら、それでも悠の目を真剣に見つめた。
悠はその視線を受け入れながら、パンを一口頬張る。
「私の最終目的は変わらないよ? 私たちに協力して欲しい。でも、今はその前に湊と友達になりたいかな?」
「……なんで」
「ん? 知りたいと思ったから。家族以外にその理由で近くにいる理由は必要でしょ? だから私は湊と友達になりたいと思った。もちろん、利用する気は全然あるけどね」
悠は、一度言葉を切るとまたパンにかじりつく。しかし、視線は湊から移さずに反応を観察するのはやめない。
どこからか風が吹き、悠と湊の間を通過していく。微かに新緑の混ざった匂いに悠は後押しされた気持ちになった。
「利用……」
「うん、仲良くなりたいのと同じぐらいに、やっぱり私達に協力して欲しい。ただ、内容を言った瞬間にこちらの事情に巻き込むのは確定だからさ、諦める気は毛頭ないけど、一応納得してもらってからじゃないと話は出来ない」
「……そこの、番犬だけだと駄目なわけ?」
湊の視線が柚へと動く。柚は睨むように湊を見たため、悠が慌てて止める。
「……悠がそう言うなら。でも、こいつは本当に必要か?」
「必要だよ? ちゃんと話したでしょ?」
悠は湊から視線をそらし、柚に言い聞かせるように微笑む。しかし、まだ湊が悠達に協力すると決まっていないため、言葉にはしない。
夜神家の裏事情を話せば、きっともう普通の生活に戻るのは困難になるだろう。
そこに関しては、雪からの情報によると既に湊の生活は普通ではないから問題ないだろうと悠は処理していた。
「……ねぇ、仮に私が了承したら何をさせるつもりなの?」
悠達のやりとりを見ながら、湊は探るように2人を交互に見た。柚はその視線に気付いた上で無視をし、悠はパンを食べ終えて笑う。
「とある悪を滅ぼそう! って感じかな?」
「悪……?」
「うん、この世に必要のない権力を持った某家を一緒にやっつけよ! みたいな? これ以上は確実に巻き込まれてくれないなら、言えないかな?」
困惑気味の湊に、悠はただ静かに笑いかける。少し狂気が見え隠れする瞳は湊だけを射貫いていた。
「それでね、湊の母親関係がちょうど、私達が潰したい悪の前哨戦にもちょうど良くてさ。だから、一緒に家へ反逆をしようよ。湊の奪われた自由? 人生? を取り戻そう! それが出来たら、きっと私達の本命も上手くいく気がするの」
「……」
湊から柚へと視線を移す。柚と目が合いお互いに笑い合った。
柚には湊の家庭事情は一切共有していない。それでも柚は悠の判断に全て任せると瞳で答えてくれた。柚と湊の仲は心配だが、2人が力を合わせれば凄いことが出来るんじゃないかと悠の直感が叫んでいた。
だから、悠は湊を逃がすつもりが全くなかった。今回、少しだけ話に興味を持った。それはいい傾向だ。
押せばいけるんじゃないかと淡い期待がわいてきた。
「きっと、私達はいい関係になると思うよ?」
「……私は、そうは思わない。それに現状を変えたいとも思わない。他に当たって」
湊はベンチから立ち上がると冷めた目で悠を見下ろした。
「うーん、私は湊以上の適任者はいないと思うんだけどな」
「それこそ私の知ったことじゃない、迷惑だからもう学校には来ないで」
話は終わりだとでもいうように湊はそのまま公園の入口へと向かう。隣で柚が殺気立っているのを感じた。悠は少し考えて、今日は諦めるかと結論を出すと、湊の後ろ姿を見守った。
「なんなんだあいつは」
柚が悠を抱きしめながら威嚇するように湊が去って行った方角を見ている。
悠は抱きつかれた腕を優しく叩きながら、離すように言外に伝える。すぐに伝わったようで柚は悠から腕を放した。
「うーん、あと少しで落とせそうな気がするんだよね」
腕組みをしながら考える。悠達の目的に湊は少し興味を持った様子だった。今後の突撃と、あと1人誰か仲間を引き入れられたら湊は折れる気がすると悠の直感はいっていた。
「まぁ、今はやることは決まっているから先にそっちを片付けようか!」
「やること……?」
柚が不思議そうに首をかしげる。悠はニコニコと笑いながらこれからの作戦を口にした。
「湊のあの性格じゃ、きっと明日は学校休むか早めに登校する気がするんだ。だから明日は湊じゃなくて、湊の知り合いを捕まえようと思うの」
「……なんで?」
「多分、湊は根は優しいと思うんだ。だから、知り合いから頼まれたらむげには出来ないと思うの。私達はそこにつけ込むんだよ」
自分の発言が最低だということを悠も、聞いていた柚も気付かない。悠の言葉は、公園に吹いた風が微かな砂埃と一緒にどこかへと運んでいった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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