ep14 自分でも知らない好奇心
悠は、湊の手を掴むと腕をグイグイと引く。
善は急げというから、早めに解決してしまいたかった。そうしたら湊は味方になるという自信があったのだ。
◇◇◇◇
時間は少し巻き戻る。
悠は裏門へ向かうまでの間に、親戚である雪から返答のメールを受け取っていた。
面倒なことは早めに終わらせたかったんだろうなと悠は当たりをつけた。仕事の速さに感謝をしながら、スマホを見ながら柚の待っている場所へ歩く。
きっと、柚は足止めはしっかりしてくれている。その自信があったから、悠は気になる文字が目に入ると立ち止まって熟読し、また歩く、を繰り返した。
情報を頭に入れながら、本来の所要時間よりも時間をかけて、向かった。
なかなかに悲惨な人生を湊は歩んでいるようだが、悠はそこに対しては特に気にしなかった。
世の中にはいろんな悪の形があるんだな。
程度の認識しかわかない。
そして、ちょうどメールによる湊の過去という情報を読み終わったタイミングで裏門に到着する。
「おおっ、柚を制圧しかけてるよ」
裏門の前では湊が仰向けに倒れる柚に馬乗りになっていた。
柚の強さを知っている悠は感心して見ていると、柚と目が合う。湊に体の自由を奪われながらも柚は悠を見るとニコリと表情を和らげる。
実は余裕だね? 柚の表情を見て、悠は察した。悠が来るまで逃さなければいい、柚ならそんな考えでいそうだなと悠の表情もつられた。
「お疲れ様、柚。ありがとね」
悠はとりあえず柚を労ると湊へと視線を戻した。
そして、時間は収束する。
◇◇◇◇
悠に掴まれた腕を睨みながら、湊は警戒を解かない。
「離して」
「なんで? 今から一緒の場所に行くんだからよくない?」
「私はそもそも行くなんて言ってない」
「でも、早期に解決した方が湊も楽じゃない?」
今もなお、生死不明を装って湊や自分の信者を観察している湊の母親に対して悠は情は湧かない。
それどころか、夜神家と相性が良い性格に出会っていなくてよかったとすら思える。
きっと、湊の母親にとって夜神家は楽しい観察対象になる。
悠が仲良くなる事により、夜神の裏を知られたら面倒な人間になる。だから、湊と今後仲良くするためによくないことは潰しておきたい。
悠はそう考えていたが、説明をするという感覚がない。
悠の近くにいるのは策略を巡らせなくていい両親と兄、悠の意見は絶対だから説明の必要すらない柚、そして敵であり手の内を明かす必要のない夜神の血縁者とその他大勢。
行動を先に説明して、相手の意見を聞くという考えが生まれるわけもない。
悠の世界は自己完結で成立してしまっていた。
だから、湊の行動に疑問を覚える。早期に解決できる事柄を後回しにする理由が悠には全くわからない。
だから、素直に聞いた。
湊は、無表情で悠を見下ろしながら吐き捨てるように言い、腕を大きく振って悠の拘束を解いた。
「子どもは所詮、親の所有物だよ。決定権は親で私にはない。オモチャだって所有者が好きに使っていいでしょ」
悠は、離れて行った湊の腕を見ながら、今の言葉を頭の中で噛み砕く。
悠には理解できない考え方だが、否定する必要はない。
数多の人間がこの世界には生きてるのだ。違う考えを持つ人間の方が多くて当たり前だと悠は知識として識っている。
「なるほど、湊はその考えなんだね。私は、私の所有者……ってか所有権は私にだけあると思うよ? だって、自分の体を動かすのに他者に所有権を与えるなんて、非効率!」
「人生を効率非効率で考える方が、非効率だと思うけど」
笑う悠に湊は警戒した瞳で逃げ道を探すように視線を動かしながら否定する。
「なんだと……!?」
悠が否定されたと柚が話に参戦しようとした。悠は柚にストップというように、手のひらを見せる。不服そうに柚の言葉が止まる。
柚は無言で悠の隣に移動する。そして、逃さないように湊から視線を逸らさない。
「人の数だけ考えがあるからね、それは問題ないよ。それよりも湊は何に縛られてるの?」
「……縛られてる? 私が?」
信じられないものを聞いたように湊は目を見開いた。茶色がかった瞳が大きく見える。
悠は気にした様子もなく頷いた。
「こうしないといけないって考えがある時点で、その考えに縛られてるよ? 何が湊をそうさせたの?」
悠は矢継ぎ早に聞く。気になって仕方がないのだ。悠の世界は狭い。ほぼ身内だけで構成されている。
だから、知りたいと思った。
初めて外部の人に興味を持ったのだ。悠は自分が薄情だと思っていたが、違ったようだ。
ただ、興味を持つ対象が少なかっただけだと今なら言える。
「別に……普通でしょ」
「普通って、何をもって? 人間観察はクラスメイトでしてるけど、湊はまた違うように感じるの。……自分に価値はない、そう思っているような……?」
「——っ!」
図星をつかれたのか、湊は大きく息を呑んだ。瞳が動揺で揺れている。
悠の周りに夜神家以外に動揺をする人間はいない。昔は兄も動揺することがあったと笑っていたが、悠の中ではあまり気づけなかった。
だから、感情の揺れ動きが見えるのが面白い。一瞬不謹慎かと思ったが、悠は自分でも知らない好奇心を抑えられない。
「とりあえず、ここ移動した方がいいんじゃないか?」
悠の指示に従って黙っていた柚は周りを見回しながらそういう。不思議に思い、悠は湊だけに集中していた意識を切り替えた。
すると、遠巻きにこのやりとりを眺めてる生徒や通行人が何人かいた。
「そうだね、落ち着いて話せる場所に移動しないとだ」
悠は笑って湊の腕をまた掴んで歩き出した。今度は湊は動揺からか、それとも悠の勢いに諦めたのか抵抗することはなく、大人しく着いてくる。その後ろに柚も続いたのを確認して、悠は湊と初めて会った六合公園に移動した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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