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月と陽 ―欠陥品と化け物達の反逆劇―  作者: 星川宙
第二章ー攻略作戦ー
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ep12 空き教室

 授業中も湊の頭は今朝待ち伏せしていた悠の顔が頭にこびりついて離れなかった。

 誰かに必要とされたのは、初めての感情だ。たとえ、裏があったとしてもその事実は微かに湊の心を歓喜させた。


 しかし、表の世界で生きている様な眩しい少女と手を取るのは裏で生きる自分で汚してしまうのではないかという恐怖を感じた。

 奏兎は、持ち前の野生の勘で回避してくれている。だから一緒にいても罪悪感が少し減っていた。でも悠は自分から飛び込んできそうな、そんな危うさがあった。

 番犬の様に後ろに控えていた柚もきっと、止められないそんな危うさを秘めた瞳を興味深げに湊に向けていた。


 なんで自分なのだろうかと、悠にあってから何度も自問自答する。

 喧嘩の腕を買われたのは分かった。だが、柚の立ち居振る舞いから湊と同等には腕に覚えがある様に見えた。


 だからこそ、何故自分が必要なのかはわからない。諦めないとはなんだと授業の内容も頭に入ってこず、湊は考え続けた。

 授業の終わりのチャイムを聞き、湊は席を立つ。

 集中できない授業にこれ以上参加しても無意味だ。


 鞄を持つと、湊は七星が以前教えてくれた絶好のサボりスポットだという最上階の空き教室へと足を進めた。

 今はとにかく1人になりたかった。ぐちゃぐちゃにこんがらがった頭の中を整理したくて仕方がない。

 湊は周りも気にせずに階段を登り、空き教室へと歩を早めた。


 目的地の扉を開けると、誰もいないことにホッと息を吐く。

 たまに七星がサボりで使っていると聞いていたため、人がいる可能性が少しあったからだ。


 湊は誰もいない教室の窓側の1番後ろにある机に荷物を置き、椅子に座る。


「本当に、意味がわからない」


 誰もいないからこそ、迷わずに小声で呟く。少しでも頭のごちゃごちゃを外に吐き出したかった。


「本当になんなの、あの子。協力? 友達? 意味がわからない。そんなもの、私には必要ない」


 声に出して改めて湊は自分の考えを整理する。他人は湊の人生に必要はない。

 東條家も、もし危険に巻き込むことになれば迷わずに切り捨てる。自分のせいで、危ない目に合わせることはあってはいけないから。


 少しずつ湊は冷静になってきた。机の上で頬杖をつきながら、窓から外を眺める。

 外の景色は普段と変わりない。体育の授業で運動場にいる生徒達が動き回っている。時折吹く風が木々を揺らす、そんな変わりない光景をただ感情のない瞳で見つめた。


 普通の学生の日常でありながら、湊には関係のない話だ。外を眺めるのをやめて、机に突っ伏した。

 腕で外部の音を遮断し、寝る気はないが瞳を閉じる。


 五感のうち聴覚と視覚を物理的に遮ると思考が少しクリアになる。その状態を湊は気持ちよく感じた。そして意識が遠のいていくのを感じながら、湊は抗うのをやめた。




◇◇◇◇




 どこからか足音が聞こえてきて、湊の意識は一気に覚醒する。

 体を起こし、音のした方を見ると、美浪が扉を開けて中にちょうど入ってきた。


「あれ? 湊いたんだ」

「篠宮先輩……」


 美浪は湊の姿に気付くとすぐに笑顔で声をかけてきた。扉を閉めると軽やかな足取りで湊の元にやってきた。

 そして、湊の座っている前の席の椅子を引くと、背もたれに顎を乗せる形で座った。


「今朝は大変だったみたいだな」

「相変わらず、耳が早いね」

「あはは。まあ、家が家だから情報網は張り巡らせているけど、今回のは近くで見ていたからな」

「あの場にいたのか」


 笑いながら話す美浪を思わず、じとりとした目で見る。湊の視線を気にせずに美浪は胸の辺りまで伸びた髪を指に巻きつけて遊びながらしっかりと湊の目を見返してくる。


「まあな。それにあの2人に最初に会ったのは私だろうからさ」

「……えっ、待って。どういうこと?」

「ん? ああそうか。呼びに行こうとしていなかったから話してなかったか」


 聞き捨てならない台詞が聞こえて思わず聞き返す。その反応に美浪は不思議そうに首を傾げて少し考えてから、思い出したように指を鳴らした。

 そして、なんてことない様に湊にとって聞きたくなかった事実を告げる。


「昨日の放課後にも来ていたんだよ、あの美形2人。で、湊を探してたから、六合公園にいる可能性があると伝えたんだが、あの様子だと会えなくてまた来た感じか?」

「……あの時、あの子達があそこにいたのは、篠宮先輩のせいってこと?」

「おお、その様子だと会っていたのか。すごいな」


 楽しそうに笑う美浪に、湊は思わず拳を握る。握った拳が震えているのを感じながら、出そうになった言葉を必死に飲み込む。

 八つ当たりの様になるのが目に見えていた。それは避けたい。

 湊は小さく深呼吸をする。


「そういえば、夜神って名乗っていたが、あの夜神家の関係者だったら少し付き合いは考えた方がいいぞ」

「……夜神家?」


 急に真剣な声を出した美浪は少し引っかかる言い方をした。疑問に思った湊は逸らしていた視線を美浪に戻す。


「古くからある名家で政府との関わりもある。表向きは由緒正しいお家だ。でもな、裏ではうちとも取引もしている。確実に黒な家だよ」

「先輩の家っていうと……」

「まあ、極道とだね。裏社会にも君臨してる。それが表ではまともなフリだ。やばいだろ?」


 美浪はまた、髪をいじりながら笑う。しかし、その瞳は一切笑っていなかった。感情の抜け落ちた一対の瞳が湊を射抜いている。


「彼女らがその関係者かは正直調べないとわからない。今、うちのものに調べてもらっているが、夜神の情報を仕入れるのはかなり厄介らしい。何か分かったら、共有はしよう」

「ありがと」


 湊がお礼を言うと、ちょうどチャイムが鳴る。


「おっ、授業が終わったか」


 美浪は、運動場から校内に戻る生徒達を見ながら笑う。


「そうみたいだね」


 湊はそう呟くと、立ち上がり、鞄を持つ。そして、扉に向かって歩く。


「帰るの? なら一応報告。校門前で待ち伏せしてる子がいるって、連絡入ってた」

「そう、なら裏口から帰るよ。情報ありがとう」


 そのまま、振り返らずに湊は裏口へと向かう。しばらくは裏口か、休むかした方がいいかと考えながら、階段をゆっくりと降りていく。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、水曜日20時更新予定です。


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