ep10 朝の待ち伏せ
奏兎達を置いて、湊が校門にたどり着くと1人のセーラー服の少女が駆け寄ってきた。見覚えがある、昨日の少女だ。その後ろから少年がついて歩いてくる。
「西宇治さん、おはよう。攻略しにきたよ」
「……学校は?」
まさか、登校時に待ち伏せされてると思わなかった。湊はパンをもぐもぐと食べ始めた悠を呆れたように見つめる。
「こう見えて私、成績優秀で家がかなり権力持ってるの。朝、学校に連絡して、どうどうとズル休みしてきました!」
「それ、胸張って言えること?」
湊は呆れた。昨日会った時もどこかズレており、頭のネジが抜けているのでは? と思ったが、どうやら間違いではなかったようだ。湊は話にならないと昨日と同様に悠の後ろに控えている少年に顔を向けた。確か、柚と言っていた気がする。
「こう言ってるけど、そっちも付き合って休んでていいの?」
「悠が決めた事だ。悠は全て正しい」
「いやー、私も結構間違えるよ? 柚」
何を当たり前のことを聞くんだ? というように堂々と返す柚に悠は照れたようにえへへと笑う。
会話が成り立たない。湊はため息をつきたくなった。しかし柚に言いたい事ができて向き直る。
「自分の意思がないの? まるで彼女の操り人形や番犬みたい。そのうち、後悔するんじゃない?」
「なんだと?」
柚が悠の後ろから前に出て、湊に掴みかかりそうな勢いで言う。湊はすぐに応戦できるように、柚の動きを注視した。
その時、湊の耳に楽しそうな笑い声が聞こえてきた。鈴を鳴らしたような綺麗な笑い声は思わず漏れたようで、悠は慌てて口を手で塞ぐ。
「ごめんなさい。似たようなことを雪……親戚に言われて懐かしいなって。私、西宇治さん……いや、湊のこと気に入った。協力はまぁ、おいおいにって事で、まずは友達になってよ」
「悠、こんなやつにそんな事!」
そう言って悠は食べ終えたパンの袋をポケットに突っ込んで湊に手を差し伸べる。その手は白く綺麗で、喧嘩ばかりで硬くなっている湊の指とは違う。住む世界が違うと感じさせた。
柚が何か言っているが湊の耳には入らない。周りの音も聞こえなくなり、世界には自分と悠しかいないのではないかと感じる。
湊はその手をしばらく見つめるが、手を取る気にはならなかった。
「悪いけど、私友達作る気ないから」
冷たくそう言い放つと、耳に周りの話し声や風の音が聞こえ始める。その事に湊はホッと小さく息を吐く。
離れないといけないと思った。このまま悠と話していたら、自分の中の何かが変わってしまうのではないかと恐怖を感じる。
目の前の悠はニコニコと笑っているが、その漆黒の瞳の中の感情は読み取れない。周りを欺いて生きてきたそんな気がした。
「そうなの? でも私は協力してもらうのも友達になるのも諦める気ないよ? きっと友達になる。私の直感は当たるんだ」
笑いながらそう言う悠に湊は得体の知れない何かを感じた。なんとか言葉を振り絞る。
「じゃあ、初めて外れるよ」
吐き捨てるようにそう言って、湊は逃げるように校門から校内に入る。
「諦めないからね! また放課後に!」
後ろからそんな不吉な言葉が聞こえたが、湊は聞こえなかった事にして早歩きで校舎に向かう。
関わったら何かが変わってしまう。それは湊が望んだ形にはきっとならない。そんな予感を覚え、湊は生まれて初めて逃げたという感覚に襲われた。
♢♢♢♢
「行っちゃったね」
湊の後ろ姿を見ながら、悠がぽつりと呟く。そして、迷わずにカバンからお菓子を取り出して、食べ始めた。
「本当にあいつを引き入れるのか? 俺は嫌だ。悠が嫌な思いをする」
「もおー、柚は私以外とも仲良くしないといけないよ?」
「必要ない。俺には悠が全てだから」
「そんなんだから、雪に番犬って鼻で笑われるんだよ」
「あいつの名前は出すな」
雪という名を聞き、あからさまに機嫌の悪くなる柚に悠は仕方ないなというように笑う。せっかくの同い年の親戚で空白の世代されているのだから仲良くしてほしいのにと常々悠は思っている。
しかし、最初に仲良くしようとした柚を「化け物」と拒絶しまのは雪のため、柚には強く言えない。
「仲良くなるって難しいな」
「それは、あいつのことか?」
悠としては柚と雪の事を思っていて、思わず口からこぼれてしまったのだが、柚が警戒したように聞いてきた為、そっちにもとれるかーと悠は笑い肯定することにした。
「うん。私、柚と雪以外に仲良くなりたいって思ったことなかったから、色々わからないんだよ」
「悠は自然体でいい。あいつが諦めて、変わればいいだけだ」
「うーん、そんな一方的な関係は望んでないし、それだと一時的になっちゃう気がするんだよね。私は湊と末長く仲良くしたい」
「……悠には俺だけがいればいいのに」
柚が拗ねたように言う。うちの子は可愛いなーと悠はいつも通りの笑顔で柚を見る。
その時、ブレザース姿の少年が柚の後ろを通った。横顔を思わず、悠は見つめてしまった。
柚が自分を見ていないと気付いたようで、振り向くもすでに少年は行ってしまっていた。
「悠、どうしたの?」
「ううん、なんか見覚えのある気がしたんだけど、思い出せなかったから大したことはないんだと思う」
悠は知らなかった。見かけた少年が攻略しようとしている湊の従兄弟である東條奏兎だったということも、湊攻略の味方になってくれる可能性があったということも。
「とりあえず、放課後までどうやって時間潰そうか? 学校行って早退する?」
「悠が決めたことに俺は従う」
「そっか。なら色々噂話も拾えるし、遅刻して学校行こうか」
「わかった」
そう言って悠は柚と一緒に自分達の学校へと向かった。早退して、下校時間前にはまた校門で待ち伏せると決意しながら。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
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