【7】天才を守る見えない盾と、無害な存在という仮面。
「何だ?」
イーサンの鋭く短い一言。
全員の視線がセシルに集まる。
セシルはにこりと微笑んだ。
ハニーブロンドの髪がふわりと揺れ、青い瞳はキラキラと輝いている。
「僕をどうやって守るの?」
セシルの声は軽やかで、甘い。
イーサンは一切表情を変えず、言った。
「君は私が、君を守ると確信しているようだな」
セシルは美しい微笑みを浮かべて応える。
「だって!
イーサンは最初に、
『まだ今日の仕事は終わっていない』って言った。
つまり、これから僕を守る方法を、チームのみんなに伝えるつもりだったんだよね。
それに、
『君たちの心配は何だ?
アシュリーの身の危険か?
それを私が回避しないとでも?』
とも言った!
『私が回避しないとでも』ってことは、もう回避する方法を決めてある!」
イーサンがフッと息を吐く。
「君は我々の話を聞いていなかったようだが?」
すると、セシルはニコニコと笑いながら、イーサンの前に立った。
「うん!
聞いてなかったよ!
でもね、重要な単語は自然と耳から脳に伝わるんだ!」
「なるほど」
イーサンの一言に、ベックが一歩前に出る。
「イーサン!
それじゃあ、セシルを警護する方法を考えていたのか!?」
「勿論」
イーサンはそれだけ言うと、皆を見渡した。
「セシルには非常用の送信機を持たせるつもりだ。
S.A.G.E.で特別に作られた最新の送信機だ。
例え、どんな高性能な機器でボディチェックをされても、発見することは不可能。
ただし、これを使うには煩雑な手続きが必要だ。
『確実に使わなければならない』という理由だな。
しかも、食事会に間に合うか微妙なラインだった。
だが、セレニスから職員が直接運んでくれることになり、明日の午後に到着する予定だ。
しかし、予定は未定。
その送信機がここに届いたら、皆に話すつもりだった。
その間にも捜査は出来るし、万が一その送信機が届かなければ、それよりは『劣る』送信機を付けさせる」
カリスタが穏やかに口を開く。
「チーフは不確実なことは口に出さないものね。
私たちは焦り過ぎていたわ」
イーサンの口元に僅かな笑みが浮かぶ。
「そう。
仲間を思いやるのは良い。
だが、食事会に招いた相手を考えろ。
彼女たちはセシルがオラクルの捜査官だと知っている。
その食事会で、セシルに何かをすると思うか?
彼女たちは馬鹿じゃない。
我々の『警戒』もきっと分かっている。
例え『ランディの追悼の食事会』という建前で、セシルと話したいだけだとしても、彼女たちが何を話すか、どんな行動を取るか――
あれほど無関心だったランディの死に、『セシルとランディの思い出に浸りたい』理由は何か?
それが捜査の役に立つならば、セシルは行かせるべきだ。
まだ反対する者がいれば率直に言え」
すると、ヴィヴィアンが空気を変えるように、明るく切り出す。
「もう、カリスタもベックも納得してるわ!
エレノアだって安心してる!
それより、捜査に戻らない?
まだ時間はあるわ」
カリスタもイーサンに向かって微笑む。
「そうね!
チーフが許してくれるなら」
ベックも大きく頷く。
「イーサン、やってもいいか?」
イーサンは「当たり前だ」と答えると、七人の被害者の様々な情報が貼られたボードの前に立った。
「ハーパーの報告によると、遺体が発見されて、次の失踪者が出るまでの期間はまちまちだそうだ。
最短で一ヶ月の時もあれば、最長で半年の時もある。
ただ、被害者たちは皆、大きな仕事を受けて渡航する直前に拉致されていることから、一ヶ月というのは早すぎる。
何故なら、被害者にいつ大仕事が入るのか分からないからだ。
つまり、犯人は何らかの形で拉致する前から被害者たちを知っていて、自分の手元にいる被害者を殺す事になったら身代わりを立てるという計画を、予め立てて行動しているという事になる」
次にカリスタが口を開いた。
「つまり、この事件で重要なのは一番最初の被害者ね。
彼を殺した後、犯人は半年掛けて次のモデルを拉致している。
きっと、殺す事になるとは想像していなかったのよ。
それで次からは手際が良くなった。
『理想の外見』と『理想の性格と生い立ちや行動』を持っていても、自分の『理想』を逸脱する事を学習したんだわ。
それで、拉致している間にも次の標的を狙うようになった。
けれど、最初の被害者は違う。
次の標的を狙うなんて考えもせず拉致している。
何故か?
その理由が犯人特定の鍵よ」
ベックが続けて言った。
「だが、チャールズによれば、被害者達の過去にはストーカーの存在や付きまといは無かった。
外見のせいで男女問わずモテていたのは確かだがな」
「無害なんじゃないかな」と突然セシルが言った。
「被害者達にとって、犯人は無害な人物だった。
もしくは有益な人物。
だけど、恋愛対象とは思われないくらいの有益さをもたらしてくれる、警戒されない人物。
無害か有益かは、まだ分からないけど」
次にヴィヴィアンが口を開く。
「最初の被害者はモンタナ州出身で、火葬されてしまっている。
いくらこの犯人がカリフォルニア州全土に渡って遺体を遺棄する行動力があったとしても、始まりがモンタナ州だったとは思えない。
やっぱり、ハリウッドが原点なんじゃないかしら?」
イーサンがセシルに向かう。
「セシル、地理的プロファイリングはどうだ?」
セシルがアッサリと答える。
「今回の犯人に、地理的プロファイリングは役立ちません。
遺体を遺棄した場所は、ハリウッドからなるべく遠くへ分散させることに終始しているから!」
イーサンが小さく頷く。
「そうか。
では今日はここまでにしよう。
皆、ホテルに帰れ。
車はカリフォルニア支局から、用意されている」
皆がそれぞれ帰り支度をしていると、エレノアがイーサンの元に行った。
「先ほどは申し訳ありませんでした」と丁寧に頭を下げるエレノアを、イーサンは静かに見ている。
「プロファイラーでもないのに……捜査に口出しすべきではありませんでした。
これからは自分の仕事に徹します」
「分かれば良い」とだけ答えると、イーサンの視線がセシルに向かう。
「彼を丁官が見出した時、彼はまだ19歳になったばかりだった。
そして、S.A.G.E.に入局してからは、丁官の交渉役チームにいた君がセシルの面倒を見てきた。
心配するのは、分かる。
ただ、プロファイル中というのは困るというだけだ。
君にとっては弟のようなものだろう?」
エレノアが、視線の先のセシルを見てやさしく微笑む。
「ええ。
夫も本当の弟のように可愛がっていて」
その一言に――
ヴィヴィアンが驚きの声を上げた。
「……エレノア!
あなた、結婚してるの!?」
エレノアが、にっこり微笑み、答える。
「ええ、そうです。
ただ、仕事中は結婚指輪はしていないんです。
一部のマスコミは、私から情報を引き出す為ならどんな手段でも使うので。
ただ、警察との連携で、私が既婚者だと有利な場合なら指輪は付けます」
ベックが目をまん丸くして言う。
「流石!プロだなー!」
すると、セシルがふわりと現れた。
「そうだよ!
僕、早くエレノアの赤ちゃんを見たいんだ!」
エレノアがため息を吐く。
「赤ちゃんの話は人前でしない約束でしょう?
さあ、私が運転するからホテルに戻りましょう」
カリスタがクスッと笑う。
「エレノアは本当にセシルに慣れてるのね」
そして、皆がわいわい言いながら、捜査本部となっている会議室から出て行く。
イーサンは一人になると、被害者たちの写真を一人一人確かめるように、見つめていた。
そうして、翌日――
『ランディの為の追悼の食事会』の日がやって来た。
こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
次回も読んで下さると嬉しいです☆
毎日17時更新☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪




