【40】シャトーの天使〜名家が隠した溺死事故〜
そして、たった二言の交わされた言葉で、トラヴィス・アルマンは逮捕された。
狙撃手の――
「目標確認。撃てます。指示を」という言葉と、
イーサンの「よろしい。生きて捕獲しろ。撃て」で。
トラヴィスは薔薇園が燃えるのを見て、思わず、裏庭に出たのだ。
そして、肩を撃たれて、燃える薔薇園を見ながら、逮捕された。
一方、セシルは、トラヴィス狙撃成功の一報を受けたイーサンがSWATを突入させ、無事に保護された。
イーサンのプロファイル通り――
セシルは何処にも怪我は無く、そのまま救急車で病院に搬送され、検査を受けることになった。
そして、目覚めたシャーロット・アルマンは、目の前にいたカリスタに全てを話した。
もちろん、カリスタは、自分がシャーロットに話しかけられてから、医者にシャーロットが正常か判断してもらい、病室にはシャーロットから見えない位置にアルマン家の弁護士とロス市警の刑事を同席させ、録画と録音もしていた。
シャーロットが話した内容は――
トラヴィスは幼稚園に入った頃から吃音が出たこと。
但し、それはアルマン家の"シャトー"内でだけだったこと。
そうしてアルマン家は、"シャトー"内だけならと、体面と引き換えに、トラヴィスの吃音を放置した。
そして、シャーロットが8歳、トラヴィスが6歳の時。
小学校に入学する直前のトラヴィスを心配した当時の執事が、トラヴィスを専門医に見せた方が良いと当主に進言し、執事の職を解かれ、病院経営に回されたことも。
そして、トラヴィスは――
自分が見つけた捨て子で、耳の聞こえないセリアを、心から愛していた。
トラヴィスの強い希望で、セリアはトラヴィスの乳母たちの中でも、トラヴィスの一番のお気に入りのマーサ・グレイの里子となり、セリア・グレイと名付けられ、"シャトー"に留まった。
幼いトラヴィスはマーサに何度も念を押していた。
「セリアに絶対に仕事なんかさせるな。
大切に育てろ。
セリアに必要な学問も、僕が手配する」と。
そして、修士号を持つ家庭教師が、セリアの為に住み込みで働くことになった。
シャーロットは泣きながら言った。
「セリアの夜泣きが酷かった時、トラヴィスが薔薇の花を見せたら、あの子はピタッと泣き止んだ。
それで、マーサの家の側に、トラヴィスが薔薇園を作らせたのよ」
そう――
イーサンはチャールズに調べさせた薔薇園の中で、"最も手入れが行き届いている薔薇園"が、マーサ・グレイの家の側にあることを確認していたのだ。
そして、薔薇園の薔薇は、今でも、セリアが生きていた時のように、棘が抜かれている。
シャーロットの告白は続いた。
「私がいけなかったの……!
私たち三人は本当の三人姉弟のようで……。
私も、トラヴィスの心を救ってくれる、無邪気で美しい"シャトーの天使"を心から愛していたわ。
だから……トラヴィスが外科医の資格を取れた時に、セリアに話してしまった……!
トラヴィスが"シャトー"に帰って来る日を。
あの子はニコニコ笑って、真っ白な頬を薔薇色に染めて、頷いていた……。
でも……まさか……!
あの噴水にトラヴィスのプレゼントを隠して、驚かせようとするなんて……!」
セリアは、噴水にトラヴィスのプレゼントを隠そうとして、転んだ。
だが、たかだか水深60センチから1メートルと言えども、立てる状態では無かった。
遺体の司法解剖によると、彼は骨折していたのだ。
そして、耳の聞こえないセリアは、叫ぶことも知らず、誰にも気づかれず――
溺死した。
トラヴィスは烈火の如く怒ったという。
そして、あの噴水がある限り、アルマン家とは縁を切り、ヨーロッパに渡って二度とアメリカの地は踏まないとまで言った。
トラヴィスを"後継者"にするつもりでいた、父も祖父もトラヴィスの怒りに恐れをなして、噴水は撤去できなくとも、噴水に繋がる水道管を撤去し、水を出せなくした。
そして、セリアはトラヴィスのお気に入りの避暑地の別荘――
今回、逮捕されたパームスプリングスの別荘近くの小さな教会で、トラヴィスとマーサの二人だけでセリアの葬式を行い、別荘に薔薇園を作らせ、大理石の墓標を建て、そこにセリアを埋葬し、パームスプリングスの別荘は、実質"トラヴィスの別荘"になった。
シャーロットは言った。
「私もお葬儀に出たいとトラヴィスに訴えた……。
でもトラヴィスは"シャトー"の中なのに、吃音はおろか、神父さまのようにハッキリと言ったわ。
『お前にそんな資格があるとでも思ってるのか!?
セリアを殺したのは、お前だ!
お前は、地獄で焼かれるのが相応しい!』とね……。
私は耐えられなかった……。
実家に帰れば、必ずあの噴水を見ることになる。
そして、お酒を飲むようになって……。
弁護士も続けられず、家族にスイスのアルコール依存症の矯正病院に入れられた。
1年経って、私は1年間禁酒したメダルを貰って、スイスから帰国して実家に帰った。
そして、自分の部屋に入ったら――
グラスに入ったビールがあったの……!」
シャーロットの瞳から涙が溢れる。
「それに、いつの間にか、トラヴィスが部屋に入って来ていて……。
"シャトー"の中なのに……トラヴィスはまたハッキリ言ったわ……。
『姉さん、お帰り。
ショットグラスを混ぜて、飲んでみなよ。
帰国のお祝いだ』と。
そして、私の手を取り、ショットグラスを掴ませた。
そのウィスキーの香りを嗅いだら……私はもう、早く飲みたくて……飲みたくて……!!
ビールにショットグラスのウィスキーを注いで、軽く混ぜたら……一気に飲んでたわ!
凄く美味しかった……!
今まで飲んだ、どんな高価なお酒よりも!
そして、今まで飲んだお酒より、一番早く酔えたの!
部屋の窓から噴水が見えたからって、動揺もしなかった。
それに、私はその日、"シャーロット・アルマン"として、振る舞えた!
お父様もお母様も……お祖父様も、とても嬉しそうだったわ!
そしてトラヴィスが勧めてくれたの。
モデル事務所をやらないか?って。
法廷に立つよりプレッシャーは少ないし、美しい人間を育てられるんだよ、って。
私は本気だった。
モデル事務所を、第二の人生にしようと決めた。
そして、私のことを誕生した時から、一番理解してくれているビルを連れて、ハリウッドに移り住んだ。
それが、トラヴィスの計画の一部であることも知らずに……」
一方――
パームスプリングスの別荘から、イーサンは見つけ出していた。
『物証』を。
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