【41】さあ、プロファイルを始めよう。〜連続殺人犯の末路〜
小さなノックの音と共に、イーサンが取り調べ室のモニタールームに入って来る。
「どうだ?」
イーサンの短い問いに、モニターを見たまま、ベックが苛立った声で答える。
「どうもこうもない!
トラヴィスは流石に頭が切れる。
のらりくらりと取り調べをかわしてるよ!」
ヴィヴィアンも、一つ舌打ちすると、言った。
「チーフと話した記憶もないそうよ。
『吃音が出るほど動揺させられた』って、今度は吃音を武器にしてるわ!
そして、核心に触れそうになると、呪文の様に唱えてる。
『弁護士はまだか?』とね」
「伝書鳩については?」
カリスタがモニターを見て答える。
「趣味の範囲、よ。
それで――」
カリスタがイーサンに向かって振り向くと、微笑んで言った。
「チーフこそ、どう?」
イーサンが静かに答える。
「トラヴィス・アルマン氏と話す準備は出来た」
ベックとヴィヴィアンもイーサンに向かって振り向いた。
ベックが薄いブルーの瞳をグリグリさせる。
「よーし!
俺たちはここで見てるからな!」
ヴィヴィアンも深く頷く。
イーサンは口元に僅かな笑みを乗せ――
「ああ、じっくり見てろ」と言うと、モニタールームから出て行った。
そして、取り調べ室の扉が開く。
トラヴィスが勝ち誇ったように大声を上げる。
「オラクルのクロフォード主任分析官のお出ましだ!
とうとう私に謝罪する気になったか?
自分のミスを認めたな?」
イーサンは立ったまま、トラヴィスを見た。
「何を言ってる?」
その凍りつくような声に、取り調べ室が一瞬で沈黙に支配される。
イーサンがフッと笑う。
「あなたは医師として優秀だ。
アルマン一族でも、最も優秀な人間だろう」
トラヴィスが何とか声を絞り出す。
「そうだ。
それが何だ!?」
イーサンのアイスブルーの瞳が、研ぎ澄まされたナイフのようにギラリと光る。
「だが、連続殺人犯としてはお粗末過ぎる。
あんたは事故死したセリアを再現したくて、監禁中、被害者に補聴器を強要していたな?
そして――
潜入捜査中のアシュリー捜査官にも、補聴器を付けさせていた。
だが――
発見された被害者の持ち物に、補聴器は無かった」
トラヴィスの喉がゴクリと鳴る。
「テリー・パーカーを操っていた伝書鳩もそうだ。
パーカーは重度の潔癖症。
だからこそ、犯行のGOサインに伝書鳩を選べば、警察を欺けると思った。
随分と傲慢だなあ?
だが、パーカーは重度の潔癖症だからこそ、例えあんたに操られていた時でも、鳩を育てることは出来なかった。
あんたが薬を変えたせいで、パーカーの本能が呼び覚まされたんだ。
せいぜい、鳩を繋ぎ、ポリ容器で餌をやるのが精一杯だったんだよ。
そして――
鳩があんたの別荘に飛んで消えて行くと、パーカーはその餌を入れたポリ容器を放置した。
知っているか?
鳩にもDNAはある。
そのDNAには、羽の色や体の大きさ、鳴き声といった鳩としての特徴を形作るための設計図――遺伝情報が刻まれている。
パーカーの消毒用のシートで"拭かれていないポリ容器"から、個体を識別出来る」
そしてイーサンは、人差し指でトンと取り調べ室のデスクを軽く叩くと続けた。
「見つけたよ。
七人分の補聴器を。
連続殺人犯の記念品、"トロフィー"だ。
あんたは、随分、分かりやすい場所に置いたなあ?」
イーサンが一歩、トラヴィスに近づく。
そして、何も言えずにイーサンを見上げているだけのトラヴィスに、イーサンの低い声が響く。
「金庫の中とは、な。
俺が逮捕して来た連続殺人犯達はな、それは巧妙に"トロフィー"を隠していた。
それらは、連続殺人犯にとって、事件の快感を反すう出来る、お宝だ。
だが、お坊ちゃま育ちのあんたは、大切な物は金庫に仕舞う。
そして"優秀"な医者のあんたは、補聴器を一つずつ密閉袋に仕舞ってくれていた」
無言で拳を震わせているトラヴィスに、イーサンが続ける。
「それにあんたは――
補聴器を外す時、手袋さえ、付けなかった。
指紋はベッタリ付いていたし、被害者達の痕跡も残っている。
あんたが密閉してくれたお陰で。
DNAが教えてくれる、被害者たちの身元を。
指紋が教えてくれる、犯人はトラヴィス・アルマン、あんただと。
それに――
潜入捜査中のアシュリー捜査官は、補聴器をしたまま、病院に運ばれ、CSIが耳から抜いた。
伝書鳩や再現行動は、あんたが犯人である理由の説明だ。
だが、あんたを有罪にするのは金庫から出た補聴器だ。
何か質問はあるか?」
トラヴィスがキッとイーサンを睨む。
「アルマン家の弁護士団を甘く見るな!
私は今日中に自由の身になる!
それから、ロス市警とS.A.G.E.を捜査の手順ミスで訴えて、賠償金を支払ってもらおう!
私を脅し、私の敷地内の薔薇園を勝手に燃やして、私の動揺を誘い、私を撃ったんだ!
5000万ドルは覚悟しておけ!」
イーサンが静かに答える。
「成る程。
トラヴィス・アルマンさん。
あなたは知らないんですか?
あなたの弁護団は、ロス市警ともう取り引きしたんですよ。
そろそろ来る頃だ。
確かに弁護団はあなたを守った。
但し――」
イーサンはトラヴィスを真正面から見据えると、言った。
「あなたは、カリフォルニア州の死刑制度から、免れただけだ」
一拍の間。
トラヴィスはポカンとイーサンを見ている。
イーサンが静かに告げる。
「あんたはセリアの形見の補聴器を、大切にしているだけで良かったんだ。
失礼」
そうして、イーサンは取り調べ室を出て行った。
セシルは肉体的にも精神的にも"無傷"だった。
そして、その日の内にオラクルのメンバーは、ロス市警にトラヴィス・アルマンのストレス要因と被害者達を操った方法を報告書に纏め、セレニス州のS.A.G.E.オラクル本部に戻った。
トラヴィスの犯行のきっかけとなったストレス要因は、シャーロットのスイスでのアルコール依存症の治療だった。
自分の吃音は放置されても、"罪人"のシャーロットは手厚い治療を受けられた。
そして、トラヴィスは執念深く待った。
シャーロットが退院してアメリカに戻る日を。
そしてトラヴィスは、古典的であり、確実な方法で被害者達の自由を奪っていたのだ。
まず、ロヒプノールという中枢神経を抑制する薬を与え、副作用で記憶喪失を起こす。
次にLSDで混乱させ、新たな記憶を植え付けていたのだ。
「君はもう、モデルとして成功している」と。
そして、「"セリアのように"存在しなければならない」と。
だが、体内に残らないように、呼吸器で鼻と口を完全に覆い、繋がるボンベの中身をLSDとロヒプノールにした為、被害者達は完全にコントロールされてはいなかった。
それらの物証も、被害者達の為に用意された豪華な部屋の隣にある用具置き場から、整理整頓された状態で発見されていた。
まるで――
病院の薬剤室のように整然と置かれた状態で。
イーサンのオフィスのデスクの電話が鳴る。
イーサンは素早く受話器を掴み、二言三言話すと、受話器を戻す。
開け放たれたオフィスのドアを、エレノアがノックする。
「チーフ、資料は会議室に揃っています」
イーサンはエレノアの言葉に小さく頷くと、音もなく立ち上がり、会議室に向かって歩き出す。
そして、ベック、カリスタ、ヴィヴィアン、セシルが会議室の円卓に座り、チャールズがパソコン画面に現れる。
イーサンはスクリーンを背にして、立ったまま言った。
「さあ、プロファイルを始めよう」
〜fin〜
ここまでお読み下さり、本当にありがとうございましたm(_ _)m
最強捜査官イーサンとチーム・オラクルはいかがだったでしょうか?
皆さまの琴線に少しでも触れることが出来たなら幸いです。
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