【39】最も優秀な怪物が泣いた夜。〜薔薇園の炎が告げる終幕〜
そして、ロサンゼルスから車で約2〜3時間の場所にある、パームスプリングスのアルマン家の別荘では――
静かに、そして確かに――
イーサンの命令通り、SWATとスナイパーが配置され、S.A.G.E.ロサンゼルス支局員も持ち場に付いた。
壮麗な門にある防犯機器も、S.A.G.E.の電子機器専門分野の職員が解除した。
イーサンは、ベックとヴィヴィアンだけを乗せた黒いSUVで正面玄関に車を着けると、一人、マイクを手にした。
「トラヴィス・アルマン!」
イーサンの鋭い声が暗闇を切り裂く。
そして、イーサンは静かに言った。
「こちらS.A.G.E.オラクル、イーサン・クロフォード。
我々はアルマン家の里子の母親の依頼を受けて、やって来た。
彼が亡くなっているのは知っている。
母親が彼の墓を知りたいそうだ」
静寂。
イーサンは淀み無く、続ける。
「アルマン家の人間は、誰も彼の墓を知らない。
君はシャーロットが自殺したのを知っているか?
その知らせを君に取ろうとしたが、君だけは連絡が付かなかった。
そして、我々は君がこの別荘にいることを突き止めた。
一言でいい。
里子の墓の場所を言ってくれ」
その時、イーサンのスマホが鳴った。
ヴィヴィアンがイーサンのスマホを、即座にボンネットに置かれたパソコンに繋ぐ。
ベックが熱探知を見ながら、素早くイーサンに告げる。
「家の中は二人だけだ!」
イーサンが通話をフリックする。
「誰だ?」
イーサンの短い問いに、激昂を隠そうともしない声が、スピーカーから響き渡る。
「私に決まってるだろう!
クロフォード!
トラヴィス・アルマンだ!」
「やあ、トラヴィス。
里子の墓を教えてくれるのか?」
「俺を馬鹿だと思ってるのか!?
お前は、アシュリー捜査官を探して、ここまで来た!
違うか!?」
絶叫するトラヴィスに、イーサンは冷笑して答える。
「アシュリー博士は、もう、S.A.G.E.の職員では無い。
それに――
私も彼をクビにしようとしていたところだったのでね。
丁度良く、辞職してくれたよ」
一拍置いて、トラヴィスが驚きに満ちた声で言った。
「クビ……!?
あの天才で完璧なアシュリー捜査官を!?
なぜ……!?」
イーサンがフフッと笑う。
「天才ねえ……。
しかし、私には、上司を誘惑するような人材は必要無いのでね」
「……誘惑……!?
どういう事だ!」
上ずったトラヴィスの声に、イーサンが冷たく告げる。
「先週の週末だよ。
アシュリー博士が、まだ捜査官だった時だ。
悩みを聞いて欲しいと余りにしつこく言うので、わざわざ郊外の別荘に連れて行ってやって、話を聞いてやろうとしたのに……。
彼は別荘に着いた途端、俺を"満足"させようとした。
君が必死に、何度も何度もアシュリー博士の母親の為に電話を掛け続けている間中、アシュリー博士は、俺を"満足させること"に夢中だった。
そして、別荘に一泊する羽目になったんだ。
正直に言うと、俺も――楽しんだよ。
彼はただのIQ180の天才じゃない。
完璧な美貌を持つ青年だけでもない。
"男を楽しませることが出来る、美貌の天才"だ」
トラヴィスが再び絶叫する。
「嘘だ!嘘だ!俺は騙されないぞ!
アシュリー捜査官は天使のような人間だ……!
証拠はあるのか!?」
イーサンの口元が僅かに上がり――
電話に向かって低く言った。
「君はもう、アシュリー博士と"良い仲"なんだろう?
スマホの写真を見せて貰え。
例え、スマホを捨てさせたとしても、君はアルマン家で最も優秀な人間だ。
データは残してある、だろ?
見てみろ。
湖上に映る満月の写真がある。
もちろん、そのバルコニーでも俺たちは――いや、アシュリー博士は俺を"満足"させてくれたよ。
さあ、アシュリー博士の話は終わりだ。
それよりも――里子の墓の場所はどこだ?」
少しの間を置いて、トラヴィスが吐き捨てる様に叫ぶ。
「クソっ!クソっ!クソっ!
こいつこそ、セリアの生まれ変わりだと思ったのに……!!
淫売だったとは……!!
俺の……俺の大切な、清らかで美しく、やさしいセリアはな……!
この別荘の奥の、薔薇園にちゃんとした墓がある!
セリアの母親だと!?
あの女はセリアを捨てたんだ!
教えてやるよ!クロフォード!
あの母親がなぜ、セリアを捨てたと思う!?
セリアの耳が聞こえないからだ!
あんな女に、セリアの墓参りなんて絶対にさせないぞ!」
イーサンが静かに答える。
「そうだな。
だが、母親は捨てた子供が、耳が不自由だったとは一言も言っていないぞ?」
トラヴィスが絶叫する。
「不自由じゃない!
全く聞こえなかったんだよ!!」
イーサンが淡々と続ける。
「不自由?
だから、聴覚障害の第一人者の、一流の耳鼻科医たちを"シャトー"に呼んでまで、治療させようとしたのか?」
すると、トラヴィスが勝ち誇ったように答えた。
「俺が治って欲しかったとでも思ってるのか!?
大したプロファイルだな!
オラクルのクロフォード捜査官!
マーサの手前、呼ぶしか無かったんだ!
だが、あいつらのお陰で、セリアの耳は絶対に治らないと証明された!
人工内耳の手術でも無理!
でもな、セリアは俺を喜ばせようと……効きもしない補聴器を付けて……!」
トラヴィスがすすり泣く。
「だか、らっ……だかだから……お、俺は……セセセリアのま、前だ、だけ、はっ……吃音がっ……でで出てもっ……じじゆ、う、に、息がっ……でで出来たっ……!
あのっあの子だけ、がっ、お、俺を……わかわかってくれったっ……!
シャッ、シャーロットが、じ自殺!?
ととと、当然だ、ろっ!
あいつ、のっ、せいでっ……セセセリアは、死んだん、だっ……!!」
イーサンが一言告げる。
「君は吃音なのか?」
そして、スマホの通話を切ると、トランシーバーを掴み、素早く指示を出す。
「チームC!薔薇園に火を放て!」
その炎こそ――
アメリカの富裕層上位5%にいるだけではなく、四代続く"名家アルマン家"の次世代を担うトラヴィス・アルマンの、終わりの合図だった。
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