【38】作戦開始。〜捜査官の救出と、絶望した犯人の確保〜
そして、オラクルチームがロサンゼルス空港に着いてから二時間後。
ロサンゼルス支局の会議室には、モニターを背に立つイーサンと、イーサンの右側にロサンゼルス支局長をはじめ、この作戦に参加を許されたロサンゼルス支局員たち。
左側にカリスタとエレノア以外の、ベックとヴィヴィアンとチャールズが座っていた。
イーサンが静かに口を開く。
「まず、ロサンゼルス支局の皆さんの迅速な対応に感謝したい。
シャーロット・アルマンは助かった。
これで、ハリウッドを中心とした連続モデル拉致監禁殺人事件の犯人逮捕へ一歩近づける。
そこで、だ。
これまでの証拠、経緯から、プロファイルである人物が犯人として浮上した。
しかし、物証が無い。
その為、我々、オラクルのメンバー、セシル・アシュリー捜査官が、潜入捜査をしている」
その瞬間――
ベックとヴィヴィアンは微動だにしていないが、チャールズの表情が揺れた。
イーサンはチャールズを一瞥すると、また正面を向いて続けた。
「皆さんのタブレットに送られたアシュリー捜査官の容姿は、犯人の『理想』そのものと言える。
そして、オラクル本部のアシュリー捜査官のデスクに、電話が掛かって来た」
イーサンがリモコンを押すと、男の声が流れる。
『宇宙人をあと何人確かめたいか知りたいのなら、今すぐオラクルを辞めて、セレニス国際空港に行け』
イーサンが再び口を開く。
「このAI音声が使われた電話をアシュリー捜査官が受けた時、我々オラクルは、アシュリー捜査官に潜入捜査をさせることに決定した。
そして、アシュリー捜査官は犯人の指示通り、セレニス国際空港に向かった。
その後のアシュリー捜査官からの通信は、リッチモンド警察署の前にあるカフェから、一度スマホの電源が入り、途絶えた。
リッチモンドのテリー・パーカーの連続殺人事件は把握しているな?
その、パーカーも、犯人に操られていることが推測される。
犯人、及び、パーカーについてのプロファイルは既にタブレットに送ってある。
そちらも把握済みだな?
そこで、シャーロットに送られて来た伝書鳩を手に入れることが出来た。
そして、その伝書鳩は持ち主に向けて飛ばしてある。
着地点を突き止め次第、その場所を建物ごと、私の作戦通り、SWATとロサンゼルス支局員で包囲せよ。
スナイパーの配置はくれぐれも臨機応変に。
我々のやることは二つ。
必ず、アシュリー捜査官を安全に救出すること。
犯人は生きた状態で確保すること。
但し、アシュリー捜査官の身に危険が及ぶ場合は、私の許可のもと、スナイパーが撃つ。
それが叶わない場合はSWATに突入させる。
SWATの突入も私の合図を待て。
まず、私が犯人と交渉する。
以上。
質問は?」
静まり返る会議室。
イーサンが小さく頷く。
「では――
作戦開始だ」
オラクルの為に用意された会議室に、イーサン、ベック、ヴィヴィアン、チャールズが入ると、まず、ベックが心底感心したように言った。
「イーサン!よくもまあセシルの拉致を"潜入捜査"と言ったな!」
イーサンの口元が僅かに上がる。
「俺はセシルをクビにはしていない。
それに、セシルは自主的に犯人に従ったんじゃない。
我々の判断で潜入捜査中。
ならば、セシルを助けない理由は無いだろう?」
ヴィヴィアンが頷く。
「そうね!
でも、アルマン家の両親は今、イギリスにいるのよね?
どうやってエレノアは、あの伝書鳩を手に入れられたの?」
「簡単だ」とイーサンが即答する。
「たった一人の娘が自殺未遂を起こしたんだ。
そのシャーロットからのカリスタへのメッセージを見せ、きっかけが伝書鳩かもしれないと言ったら、両親は直ぐに快諾してくれた。
どうやら長兄は鳩レースに参加する程、伝書鳩好きらしい。
伝書鳩には驚かなかった。
それよりも――
君とベックの大手柄に感謝を言いたい。
ありがとう」
ベックが大きく頷く。
「シャーロットのモデル事務所のオフィスの、鍵の掛かった引き出しにあった古い写真か?」
そこまで言うと、ベックがニヤッと笑った。
「あの真ん中の子は誰だ?
もう、俺たちにも"話せる仕事"になっただろ?」
イーサンが静かに答える。
「あの子はセリア・グレイ。
生後八ヶ月の男の子で、アルマン家の門の外に捨てられていた。
それを発見したのが6歳のトラヴィスだ。
そして、この子はトラヴィス兄弟の乳母たちの一人、マーサ・グレイの里子になり、セリア・グレイと名付けられた。
そして――
アルマン家はセリアの為に修士号を持つ家庭教師まで雇い、"シャトー"の中で大切に育てていた。
しかし22歳の時に、彼は"シャトー"のアルマン家の象徴、円形の噴水が原因で亡くなっている。
そして、アルマン家は初代が創り上げたエンブレム入りの大理石と象牙で出来た噴水を止めた。
噴水に繋がる水道管を撤去し、水を出せなくしたんだ。
セリアの死因はアルマン家が徹底して隠していて、ハーパーでも辿れない」
ヴィヴィアンが眉をひそめる。
「この古い写真は……シャーロットは12歳くらいよね?
そうなると、トラヴィスは10歳。
セリアは4歳。
ハニーブロンドに青い瞳……トラヴィスの『理想の相手』ね!
でも、使用人の里子が噴水が原因で亡くなったからって、そこまでする?
水道管の元栓さえ止めれば良いんじゃない?」
「その死が――
兄弟の中でも……いや、父親をも凌ぐ優秀な末っ子、トラヴィスを絶望させたとしたら?」
ベックとヴィヴィアンがギョッとしてイーサンを見る。
イーサンは眉一つ動かさず、続けた。
「あれ程優秀なトラヴィスを、アルマン家が、ただの末っ子扱いするとは、到底思えない。
まだ、アルマン家の実権は祖父が握っている。
きっと、家族会議でも満場一致で、トラヴィスが父親の跡を継ぐことが決まるだろう。
結婚さえ、すればだが。
だが、アルマン家程の家柄に生まれ育ったトラヴィスなら、跡取りに決まれば親の勧める相手と結婚する筈だ。
そのトラヴィスが、あの噴水を止めなければ、跡取りはおろか、アルマン家から離れてヨーロッパにでも行くと言ったら?
水道管ぐらい撤去する」
ベックが薄いブルーの瞳をグリグリさせる。
「つまり……このセリアって子はトラヴィスの生き甲斐だったのか!
使用人の里子が!
なぜだ!?」
イーサンがフッと笑う。
「お前とヴィヴィアンが突き止めただろ?
セシルに掛かってきた電話はAI音声だったと。
そして、トラヴィスは長兄とは違う意味で、伝書鳩も大好きだ。
つまり……」
その瞬間、チャールズが大声を上げた。
「チーフ!あの伝書鳩が、止まりました!
そこには――アルマン家所有の別荘があります!
薔薇園も!」
イーサンの厳しい声がする。
「よろしい。
では、オラクル全員とロサンゼルス支局員のタブレットに位置情報を送れ」
それはセシルを取り戻す、第一歩の始まり――
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