【35】特別な亡霊を追う連続殺人犯。〜噴水を止めるほどの死〜
イーサンはチャールズの姿を認めると、即座に言った。
「ハーパー!
自分のオフィスに戻れ!」
その低く厳しい声は、イーサンのオフィスの空気を――いや、オフィスそのものをビリビリと震わせる。
ヴィヴィアンも、ベックでさえも――
言葉を失い、呆然とイーサンを見つめているだけだ。
チャールズは脱兎の如く駆け出して、イーサンのオフィスから出て行く。
イーサンは「失礼」とソファに座っている二人に向かって言うと、自分も足早にオフィスを出て行った。
イーサンがチャールズのオフィスに入ると、チャールズはラップトップのパソコンを抱えて、デスクに突っ伏していた。
「ハーパー、何をしている?」
その一言に、チャールズがキッとイーサンを見上げる。
「チーフが言ったんですよね!?
自分のオフィスに戻れと!
だから!
戻りましたッ!」
イーサンが小さく頷く。
「君は情報漏洩をするところだった。
ベックとヴィヴィアンの前で、見せるべきではない情報だ。
それは、彼らの仕事の範疇を越えている。
だから、戻れと言った。
理解出来たか?」
「……はぁ……」
チャールズがため息交じりに答えると、イーサンが続けた。
「……ハーパー……理解出来たのか?出来ないのか?
君は仕事の成果を出し、わざわざ俺のオフィスまで来たのに、なぜ、結果を教えない?」
チャールズがラップトップのパソコンを脇に置くと、何とか姿勢を正し、メインパソコンに向かう。
「理解出来ました!
実は……"シャトー"には一人、里子がいました!
この子です!」
パソコン画面には――
赤ん坊の写真が表示されていた。
イーサンの目が細まる。
「この子は……まだ一歳未満だな?」
チャールズが勢い良く答える。
「はい!
この子は八ヶ月の男の子の赤ちゃんで、アルマン家の門の前に捨てられていたんです。
そして、何とこの子を発見したのは、アルマン家のスーパーヒーロー、トラヴィスくん! 当時6歳!
この子は最終的に、住み込みの使用人で、アルマン兄弟の乳母達の一人、マーサ・グレイの里子になっています。
名前はセリア・グレイと命名されています!」
「成長過程の写真を出せ。
直近のセリアの写真は?」
イーサンの問いに、チャールズがため息を吐く。
「それが〜……何も無いんです!
この写真一枚見つけたのだって、掘って掘って掘り返して、やっと児童保護局の写真から見つけ出したんです!
その時に、先ほど話したセリアくんが里子になった経緯を知りました」
イーサンの鋭い声がする。
「社会保障番号は?
社会保障番号が無ければ、アメリカでは生きては行けない」
チャールズがパソコンキーを叩く。
「社会保障番号は出ます。
でも、写真は出ません。
それに、セリアくんは22歳で亡くなっています」
すると、イーサンが静かに言った。
「亡くなった場所はアルマン家の敷地内。
だが、詳細は非公開、だろ?
君でも追うことは出来ない」
チャールズがガバッと、後ろに立つイーサンに振り返る。
「その通りです……!
この俺でも、掘ったら逮捕されちゃうくらい厳重に情報は守られています!」
イーサンのアイスブルーの瞳が、研ぎ澄まされたナイフのようにギラリと光る。
「だが、これで一本の線に繋がった。
この赤ん坊はハニーブロンドに青い瞳。
シャーロットが8歳の時、トラヴィスは6歳。
その時、捨て子としてセリアをトラヴィスが見つけ出した。
しかも、保護し、アルマン家の使用人の里子にまでした。
一方、同時期に、執事は職を解かれ病院経営に回された。
そして――
シャーロットが30歳の時に、アルマン家の象徴の噴水が止められた。
その時、トラヴィスは28歳。
丁度、メディカルスクールを終えてレジデンシーも終え、正式に外科医になった頃だ。
その時に――
22歳でセリアがアルマン家の敷地内で亡くなっている。
そうなると――
セリアが亡くなった原因は、止められた噴水にある」
チャールズが慌てて口を開く。
「でも、チーフ!
使用人の里子が、噴水が原因で亡くなったからって、あのアルマン家が"シャトー"の象徴の噴水を止めますか!?
それに、噴水に繋がる水道管を撤去までして、水を出せなくしますか!?」
イーサンの口元に小さく笑みが浮かぶ。
その瞬間、チャールズの背中に悪寒が走った。
イーサンが静かに口を開く。
「つまり――
そのセリアは、アルマン家の中で、"シャトー"の噴水を止めるだけの力を持つ、特別な存在だった。
それに、シャーロットが12歳になった時に、修士号を持つ使用人が雇用されている。
この人物は、たぶん教師の資格を持っていた。
教師の殆どは修士号を持っているからな。
その時、セリアは4歳。
幼稚園に入る年頃だ。
アルマン家は、どうやら"使用人の里子"のセリアに、最高の教育を受けさせたかったらしい。
トラヴィスは10歳。
もう、寄宿生活を始めていてもおかしくない。
なんと言っても、彼はアルマン一族の中でも、世の中でも、飛び抜けて優秀だ。
家庭教師も、既に必要なかっただろう」
イーサンはそこで一旦言葉を切ると、厳しい声で続けた。
「連続殺人犯、及び殺人教唆、セシルのストーカーはトラヴィスで間違いないだろう。
そして、彼が追い求めている『理想の相手』は、セリアだ。
彼は"特別な亡霊"を追いかけている。
彼の動機は、セリアの亡霊と一緒に過ごしたいんだ。セリアのように大切にして、な。
だが、セリアという理想から外れるのは我慢ならず、最悪の方法で始末する。
そして、セリアに拘る余り、直接手は下せないから、ヘロイン入りの飲み物で殺害し、死体発見まで早めている。
つまり――
そのセリアには、今までの拉致監禁の末の殺害という犠牲者たちやセシルとは、外見や教養、育ちとは全く違う、トラヴィスが"真に求める何か"が必ずある。
君は、そのセリアと被害者達とセシルとの違いを徹底的に探せ!」
チャールズが「アッ……アイアイサー!」と答えると同時に、イーサンのスマホが鳴った。
「失礼」と言って、イーサンがスマホに出る。
相手はカリスタだ。
カリスタは口早に言った。
「女王様からSOSのサインがあったわ!」
「彼女は何と?」
シャーロットからのメッセージは、次なる予兆の合図――
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