【34】AI音声の電話と、修士号を持つ使用人。〜犯人が演出を捨てた日〜
チャールズのオフィスがノックされると同時に、ドアが開く。
まるで自分のオフィスのように入って来るイーサンに、チャールズが一瞬で固まる。
イーサンは淡々と言った。
「どうだ?
墓標と伝書鳩の飼育小屋が揃った建物は見つかったか?」
チャールズがハッと我に返る。
「チーフ!
どうやって俺のオフィスに入れたんですか!?
俺以外の生体認証ナシでは開きません!」
イーサンは再び淡々と告げた。
「もちろん、俺が入れるようにシステムを変更したからだ。
今、このオフィスには君と俺しか入れない。
メールで知らせておいた筈だ。
見ていないのか?
それで、あったのか?
その建物は?」
チャールズがこめかみをピクピクと震えさせながら答える。
「あのですね~!
アルマン家所有の建物となると、カリフォルニア州だけで20件以上になるんです!
それを調べていたから、メールに気づきませんでした!
すみません!」
「成る程」
イーサンは一言言うと、続けた。
「では今、口頭で伝えたからこの件は終わりだ。
捜査に戻ろう。
建物はどうだ?」
チャールズが何とか心の中で踏ん張り、パソコンを叩く。
「それが……伝書鳩の飼育小屋は各地の別荘に、ポツポツとありますね。
でも、墓標がないんですよ〜!」
イーサンが「では、シャーロット達四人兄弟の家庭教師を調べてくれ」と言うと、チャールズの手が止まった。
「家庭教師……ですか?」
「そうだ。
特に、トラヴィスを含め男子兄弟が寄宿生活に入ってからも、残った家庭教師に絞れ」
「それって、シャーロットの家庭教師ってことですか?」
キョトンとしているチャールズに、イーサンの低い声が落ちる。
「……ハーパー……」
即座にチャールズがパソコンを叩き出す。
「ハイッ! 残った家庭教師ですね!
シャーロットが12歳になると、一通り家庭教師は整理され、解任されています!
ですが、これは契約通りで問題ありません!
残ったのは……あれ? 誰もいない……」
イーサンのアイスブルーの瞳がギラリと光る。
「いない、か。
では新たに雇われた使用人は?」
「それはいます!
入れ替わるように、一人!」
「その人間は修士号を持っている。
だな?」
チャーリーの喉がゴクリと鳴る。
「……そうです……!」
「よろしい。
では――
“シャトー”に里子はいるか?」
チャーリーが、自分の後ろに立っているイーサンに向かってガバッと振り返る。
「“シャトー”に里子!?
アルマン家に里子なんていませんよ!
アルマン家は四人兄弟です!」
イーサンが静かに答える。
「俺の質問が聞こえなかったか?
『“シャトー”に里子はいるか?』だ、ハーパー」
チャーリーは「……アッ……アイアイサー!」と答えると、再びキーボードを叩き出した。
そうして、イーサンがオフィスに戻ると、カリスタがやって来た。
「帰ったのでは?」と問うイーサンに、カリスタが美しく微笑む。
「少し反応を待ってみたの。
そうしたら、大物が釣れたわ!
チーフの作戦は大当たりよ!
私の偽アカウントに友達申請してきたの!」
カリスタの向けるパソコン画面には、“限りなくセシルに似せたカリスタ”の画像と、日々の偽写真が載せられていた。
イーサンの口の端が僅かに上がる。
「――シャーロット・アルマン。
余程、今日のランチで出会った君が、衝撃だったんだな。
その日の内に行動するとは」
「しかも、アドレスを見て。
彼女は自分のモデル事務所、『ラ・ヴレ・ボーテ・マネジメント』のパソコンからメールを送ってきている。
今、自宅にはいないのよ。
つまり、お酒を飲んでいない可能性が高いわ」
イーサンが頷く。
「そうだな。
女王様はボイラーメーカーで一気に酔うのがお好みだ。
少しずつ酒を嗜むアルコール依存症患者などいない。
そうなったら、介助してくれる人間がいなければ、どんな事態になるか分からない。
彼女は安全な場所でしか泥酔しないだろう。
よし。
君は友達申請を受けろ。
そして、シャーロットの心を開かせろ」
「了解!」と言ってカリスタがオフィスを出るのと入れ替わりに、ベックがオフィスに入って来る。
「お前もいたのか?」
イーサンに訊かれて、ベックがニヤッと笑う。
「俺を誤魔化せると思ってんのか?
どうせお前は“俺たちに話せない仕事中”だろ?
だから、俺たちは俺たちで出来る仕事をしてたのさ!」
「そういうこと!」と言って、ヴィヴィアンもオフィスに入って来た。
「セシルの留守番電話に残されていたメッセージの件よ。
私とベックで何十回も再生している内に閃いたの!
なぜ、こんな回りくどいやり方をしてた犯人が、オラクルには普通に電話して来たの?って」
ベックがイーサンのデスクの前のソファに、ドカッと座る。
「コイツは伝書鳩の件といい、劇場的な演出が好きだよな?
つまり、目立ちたがり屋のナルシストだ。
遺体を遺棄する時もそうだ。
わざわざ、“美しく”見つかるように仕向けている。
だが、純度93‰のコカインを用意するなんて、金も時間も掛かることをしなくても、心臓を一突きしたって、遺体の外見はそう変わらない。
留守番電話もそうだ。
オラクルに普通に電話出来るなら、なぜ、患者の声を繋ぎ合わせたり、何回もフィルターを掛けたりするんだ?
コイツは“自分の知性”に酔ってる!」
「確かに」とイーサン。
すると、ベックの隣のソファに座っていたヴィヴィアンが口を開いた。
「そこで、逆じゃないかなって気づいたの!
オラクルに掛かって来た電話が、偽物なのよ!
犯人は我慢の限界だった。
でも、セシルを自分のところに寄越す計画は立てていても、回りくどい演出をしてる時間が無かった。
そこで、声紋認証に掛けてみたら……この声はAI音声だったの!」
イーサンが音もなく立ち上がる。
「AI音声か。
それなら、最初からその方法を使えば良い。
コイツは無駄なことばかりしている。
遺体遺棄はまだ分かる。
だが、“知性に酔ってる”だけじゃない。
もっと切実な問題があるんだ」
ベックが腕を組む。
「あの伝書鳩にも、か?」
「そうだ」
イーサンがそう答えた刹那――
チャールズがパソコンを手に、イーサンのオフィスに駆け込んで来た。
それは、犯人が追い求める『理想の相手』を見つけた瞬間だった――
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