【32】理想を失う恐怖。〜連続殺人犯が駒を揃えた日〜
「そうね!まずは彼の拘りから見てみましょう」
そのハニーブロンドと青い瞳を持つ美貌の人物がそう言った瞬間――
ベックとヴィヴィアンの身体から力が抜けた。
「カリスタなの!?」
大声を上げるヴィヴィアンに、カリスタがにっこり微笑む。
「そうよ。
私は元々ブロンドだから、ハニーブロンドにするのは簡単だし、メイクもプロにして貰ってるの。
ハリウッドで、シャーロット・アルマンのランチにお邪魔して来たわ」
ベックが身を乗り出す。
「で、女王様は何て!?」
すると、イーサンが静かに遮った。
「それは後ほど、カリスタが纏めた報告書をメールしよう。
今は、テリー・パーカーのプロファイルに専念してくれ」
ベックが「そうだな!」と言って睨むように証拠品を見ると、イーサンが続けた。
「カリスタの言った通り、彼の一番の拘りから始めよう。
彼の一番の拘りは、『潔癖』であることだ。
この証拠品から分かることは?」
ヴィヴィアンが口を開く。
「そうね……。
液体からジェルからウェットティッシュ……ありとあらゆる消毒薬があるけど、長年溜め込んだようには見えない。
きっと、"家の中にいた医者"と接触してから、集め始めたんじゃないかしら?」
「俺もそう思う」とベック。
「パーカーは母親の声を聞いて、直ぐに主治医に掛かっている。
その時は、自分の異常に気付くくらい落ち着いていた筈だ。
そして、"家の中にいた医者"に出会い、何かをされたんじゃないか?
ハーパーは、『先生と話す内に物凄く眠くなって、ベッドで寝た』と供述していたよな?
もし、相手がカウンセリングのような事を行って、パーカーを徐々に壊していったのかも知れん!」
「あり得るな」とイーサン。
「ただ、パーカーは子供の頃から、医者に慣れている。
変装した"医者もどき"では通用しない。
それに、カウンセリングの医師が居たのなら、『カウンセリングの先生が家の中にいた』と供述するだろう。
つまり、顔見知りの精神科医がいたことになる」
カリスタが静かに口を開く。
「"ボランティアの医者"達の内の一人の登場ね」
イーサンが「そうだ」と言って続けた。
「ただ、パーカーの供述の『僕の為に、先回りしていたんだって。』という話では、何時頃にその医者が現れたのか、"先回り"とはどういう意味なのかは分からない。
パーカーはその日、外出していない。
それなのに、"先回り"とパーカーは言った。
あの時点で、パーカーにとって一番重要な事は何だ?
――そう。
主治医の言いつけ通り、薬を服用することだ。
パーカーが薬を飲もうとした時に、その医者が"先回り"してくれていたとしたら?」
ベックが即座に口を開く。
「そうか……!
そいつは薬をすり替えるところから始めたんだ!
そして、自分の都合に良い薬を、自分の目の前でパーカーに飲ませた!
精神科医という自分という存在で、パーカーを圧倒し、主治医からの薬という名目だった可能性もある!」
ヴィヴィアンも腕を組むと言った。
「そうね……それに、精神病の薬でも無いのかも知れない。
マインドコントロールの為の下準備かもね……!」
すると、カリスタが首を傾げる。
「でも、なぜ三ヶ月前なの?
三ヶ月後に、私たちがシャーロットの過去を掘り返すなんて、知りようもないわ」
その瞬間――
イーサンの目が、研ぎ澄まされたナイフの様にギラリと光った。
「ランディだ……!
監禁しているランディ・ミラーの様子に、連続殺人犯が疑念を持ち出した。
そこで、"駒"を揃えることにした。
駒を手元に置いておけば、メリットしかない。
使っても良いし、使わなくていい」
ベックが舌打ちする。
「最低な野郎だな……!
つまり、パーカーは捨て駒か……!!
犯人は、『セシルのような外見の誰か』を見つければ、監禁している青年たちの"理想からの些細な逸脱"を理由に殺害して、次の理想の相手と暮らすことを選んでるんだ!」
イーサンの厳しい声がする。
「そうだ。
最初は『理想の相手』と暮らすことだけで満足していた。
だが、その相手が理想の行動を逸脱して、初めて殺害した時に、犯人は目覚めた。
理想の相手を手元に置きながら、もっと理想に近い人間が現れた時に殺害する快感を。
自分の知能で相手をコントロールする快感と、コントロールしていた人間を殺害する快感という、二重の快感だ。
つまり、彼は殺人を続けなければならなかった。
精神科医ならば、最初の殺人の快感を越える快感など存在しないと理性では分かっていても、ヤツの精神は最初の被害者を拉致監禁した時から、もう破綻していたからな」
「そうね」とカリスタ。
「ランディとは二年間も一緒に過ごしている。
きっと、ランディは賢く立ち回っていたんだわ。
ランディは頭も良いし、犯人は暴力も使わない。
ただ、美しく存在し、犯人の理想通りの行動を取れば良い。
でも、ランディは賢いからこそ、逃げるチャンスも見逃さなかった。
だからこそ、犯人は慎重になっていたのよ。
パーカーの主治医から連絡を貰って、飛びついたんだわ。
ランディを失うことは耐えられない。
きっと、ランディはそれくらい、犯人の『理想』通りだった。
ランディの代わりも見つからない中、失うことになったら?とね」
ヴィヴィアンがテーブルの証拠品に目をやる。
「でも、物証はリッチモンド警察署のCSIが調べているのよね?
今のところ、外部の人間を示す証拠は出て無いわ」
イーサンの鋭い声がする。
「彼らの仕事は、証拠品の検証と保存だ。
プロファイルはしない」
そして、イーサンは証拠品に視線を落とすと言った。
「パーカーに行動を起こさせる為には、必ず『合図』が必要不可欠だ。
だが、ビデオで刑事達が言っていた通り、パーカーが逮捕されれば、通話履歴は徹底的に調べられる。
この証拠品の中に、犯人からの合図が必ずある。
パーカーの生活に不必要なもの、不自然なものはないか?」
カリスタ、ヴィヴィアン、ベック、イーサンも、証拠品袋を一つずつ手に取りながら検証していると――
イーサンが突然、スピーカーのボタンを押した。
直ぐにエレノアの声がする。
「はい!何でしょう?」
「君はこの証拠品を会議室に運んだ時に、『これでも、リッチモンド警察署がきちんと整理しておいてくれたお陰で、この量で済んだ。テリー・パーカーの家の中は、足の踏み場も無かったようだった』と言ったな?」
カリスタ、ヴィヴィアン、ベックの視線がイーサンに集まる。
イーサンは全く気にする様子もなく、鋭く告げた。
「では至急、リッチモンド警察署に問い合わせをしろ。
『処分した目録が欲しい』と!」
「了解です!」
エレノアが素早く答えて、スピーカーが切れる。
ベックが薄いブルーの瞳をグリグリさせて言った。
「おい!イーサン!
何を見つけた!?」
「これだよ」
そう言ってイーサンが掲げた証拠品袋には、薄汚れた空のポリ容器が、一つ入っているだけだった――
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